【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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アンパーフェクト・ハーモニー

「完全な……存在?」

「そうさ。僕の目的は、自分の世界を喰い始めた時から一切変わらない」

 

 湯船に浸かりながら、リラックスした様子で端末は語った。

 完全な存在。こいつはそれを目的に今まで、色んな世界に狼藉を働いていたってことなのか。

 ……で、それってなんだ?

 

「あー、もうちょい詳しく教えてもらえると助かるんだが」

「仕方ないなぁアドミニストレータくんは。君だからここまで言うんだよ? 他のやつなら、何も言わずにこの場で喰ってる」

 

 怖ぁ……なんの威圧もないままに冗談めかして言うのが、却って本気を感じさせる。こいつ、俺以外相手だと大分、狭量だぞ。

 思わず口を噤む俺にくすくすと笑みをこぼして、しかし端末は語り始めた。

 やつ自身のルーツ。オリジンとも言えるエピソードを。

 

「御存知のとおり僕は元々、ワールドプロセッサとして世界を運営し管理していた。意識も何もなく、ただ理に沿って動くだけの、単なるプログラムに過ぎなかった」

「俺達の世界における、システムさんみたいなもんか」

「……まあ、そうだけど。かつてワールドプロセッサだった者として言うと、そのシステムさんとかいう呼び名を最初にした者のセンスは大分おかしいね。顔が見てみたいよ」

「うっさいよ! 目の前にいますけど!」

「えっ……」

 

 盛大に人のネーミングセンスをディスりやがって、思わず反応したらめっちゃ、虚を突かれたみたいな顔して驚いていやがる。煽りですらなくマジのびっくり加減だ。

 いらないこと言ったなあ、という感じで明後日を向く端末の、人間らしい仕草がどうにも反応に困る。やってること、やってきたことが迷惑そのものなのに、どこか憎めなさがある。

 そんな端末は少しして、こほんと咳払いして話を戻した。

 

「あー、えー、それで。意識も何もないワールドプロセッサだった僕に、突然ある日、一つの疑問と共に自我が芽生えた」

「疑問?」

「……どうして僕は、完全ではないのだろうか? という疑問さ」

 

 今でも思い出すよ、と嘯く。

 意思なきワールドプロセッサが、何があったか分からないまま、一つの独立した人格を得た。つまりは今、目の前にいる者としての意識だ。

 そしてそれは同時に、自らの完全性への不満、にも似た疑問を抱くことでもあったのだという。

 

「僕自身のみならず、僕が生み出した世界、そこに生きるモノすべて……不完全だ。いつでもどこでも何でも誰でも、何かが足りない。完璧なものが一つもない。これは僕にとって、苛立たしい疑問だった」

「何かが足りないって……例えばなんだよ」

「まず浮かんだのは、永遠。万物すべてに終わりどころか、始まりさえあってしまう。始点と終点があるモノを、永遠なんてとてもじゃないけど言わないだろう?」

「…………」

 

 無茶苦茶だ。こいつは無茶苦茶なことを言っている。

 始まりも終わりもない永遠なんて、ないのと同じじゃないのか。そもそも永遠なんてあるわけないと、俺は思うんだが……端末はそれがあるものと、信じきっているのかもしれない。

 

「次に思ったのは、智慧。すべてを知るものが僕含め、一人も一つたりともいない。賢者を名乗る者ですら、愚者と蔑まれる者と大差なかった。知らないもの、分からないものがある時点で、賢を名乗る資格はない」

「全知全能の神様を求めてる、ってことか?」

 

 どうも話を聞いていると、要するに神様みたいになりたいんじゃないかって気がしてくる。ワールドプロセッサなこいつこそ、神様みたいなもんじゃねーかと思うんだけどもね。

 俺の言葉に、端末はふむ、と少しばかり考え込んだ。顎に手を当て、何かを思索しながら呟いていく。

 

「そう、だね。その表現が一番近いかもしれない。とはいえその、神と呼ばれる概念存在どもですら、永遠も智慧も備えていなかった。それ以前に感情を中途半端に持て余した、欠陥品だったんだけどね」

「精神的なところまで要求するのか……」

「当たり前だろ? 完全であるためには、精神面においても完璧でなければならない」

 

 何をいまさら、とでも言いたげなんだけど、こいつ本気でハードル高いな……まず何を以て完全とするのか、そこから俺には分からない。

 永遠、智慧、そして精神。そうしたものにおける完全、完璧を求めたこいつは、しかしそれが、自分たちの中に一切なかったことに苛立ちを覚え、次第に思考し始めたという。

 

「翻って考えてみたんだよ。僕が完全でないのはなぜなのか……分かりきった話さ。何かが足りないからだ。それを求めて僕は、動き始めた」

「それで……こんなことを?」

「いかにも、そこが起点さ……ああ、この表現すら苛立つね。僕には始まりも終わりもいらないのに」

 

 真剣に苛立っているのだろう、剣呑な空気が一瞬、滲む。

 怖すぎるし、おかしすぎるだろこいつ。

 

 自分自身が完全じゃないから、自分の完全性を見出そうってのは、まあ分かる。

 そこからどうして他者への侵略に繋がるんだ。わけが分からん。俺は、さらに明かされていく端末の話に耳を傾けた。


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