攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
マリーさんやエリスさんといつの間にやら飲み友になってたっぽいミュトスの、人間関係の広がりについてはまあ良いとして。
ここまで来たらばとにかく戦闘訓練開始だ。先ほどまでこの空間の異様さ、時の概念が存在しない異質さに圧倒されていたイヴさんおよび織田だけれど……気を取り直してそれぞれ準備を始めていた。
付き添いの織田は少し離れたところに移動し、イヴさんは権能を使っていつものメイド服から戦闘用だろう衣装へと変わる。
絹のローブに胸当て、手足に軽い具足。そして手には彼女の身長よりも長い槍を携えている。
いかにも戦乙女って感じの格好だね。これが概念存在として戦闘モードに入ったイヴさんかあ。
「もはやこの空間を用意できた存在相手というだけでも、今のレギンレイヴにはあまりに荷が勝ちすぎていますが……良い方向に考えれば、それほどのモノからの手解きを受けられる絶好機と言えましょう」
「我が主神の仰せのままに。元より影すら踏めぬ頂の方々に教えを請うのであれば、私はただひたむきに、実直にすべて一から積み重ねるのみです。それが、弟子の取るべき気構えと心得ております」
「良い心構えだぜ、レギンレイヴ! まあ言うほどお前さんも悪い感じじゃねえし、ここで修行していけばそんじょそこらの概念存在なんざものの相手にもならなくなるぜ!」
織田と揃って何やら熱血的な感じだけれど、別にこの空間を用意できたからってそれそのものが実力を担保するわけでもないんだが。まあ、二人の視座からするとそう思いたくなるものなのかな?
このへんはシャーリヒッタの言のほうがやはり俺の意見に近くて、イヴさんは言うほど一からやり直すような方でもなさそうだし。
正味ね、俺は北欧神話のことはあんまり知らんのだけど、そんでも戦乙女とかヴァルキリー、はたまたワルキューレとも呼ばれる概念存在については日本のゲームとかアニメ漫画で多少は知っている。
つまりそれほどまでに知名度があり、かつ結構武闘派として認知されてる存在なんだ。そんなのが戦闘面において、話にならないほど弱いなんてことあるはずもないんだよ。
「俺の見立てでも、イヴさんの実情は概念存在のなかでもそれなりに上位層に食い込む強さだと思ってる。探査者換算だとさすがにC級程度、いいとこB級に食らいつくかどうかってところだろうけど。そのへん、織田の見解はどうかな?」
「クククク、ずいぶんリップサービスしてくれたなと。私の見立てではそれより一段落ちますね、今の彼女は。戦乙女として、また北欧神話圏のなかでは上位に入るのはたしかながら、探査者と比較するとどう見繕ってもB級には及びますまい。やはり精々がC級の下位といったところでしょうかね」
「ふむ? そんなものか、概念存在の戦闘力とは。この100年、概念存在をシャットアウトしてきたことからワタシもそのあたりは疎い。正直なところ、思っていたより弱いというのが本音だ」
「探査者が強すぎるのですよ。この私、最高神クラスであってもS級には敵わないというのがどれだけ概念領域にとって絶望的な現実であることか。ククククッ! 仕掛けた側のあなた方には理解しきれますまい」
「怖ぁ……」
自嘲気味に笑う織田に、話に混ざってきたヴァールともども微妙な顔で見つめる。いや、シンプルに気まずっ。
"お前らが探査者強化しすぎたせいで、概念存在の立場がなくなっちゃったんですけど"──そう言われたも同然だぞ、これ。
以前にも倶楽部んところの赤鬼とか、あるいは悪魔とかもだしなんなら織田自身からも度々言われていることなので理解していたつもりだけど、概念存在達は予想以上に探査者との実力格差を気にしているみたいだ。
特にヴァールに対しては、100年かけて現状をもたらした張本人のため織田の含みある視線も一際きつい。敵意ではもちろんないものの、呆れと言うか諦念をも交えた複雑な色合いだよ。
さしもの彼女も多少、そんな視線に息を呑む。
「む──」
「ああ、責めているわけではありません。真相を理解している以上、そうするしかなかったのだとむしろ敬意をも払っています。ですがまあそれはそれ、これはこれという感覚もありましてね。結果として概念存在に向けられるべき畏怖や尊崇が、探査者達に少なからず奪われることになったのだというのは知っておいてもらえるとありがたいですね」
「そう、だな。割って入ったのがこちらである以上、そちらの言い分を理解しておくべきではあるか」
「受け入れる必要もありません。本当にご存知いただいているだけで良いですよ、それに戦闘力だけが概念存在の存在価値というわけではないのですから。私のような戦神や闘神の側面を持つモノは、複雑な心持ちであることは認めますがね」
理性的に、こちらに現在の概念存在の実際への理解を求める織田。本当に怒ったりしている感じではなく、ただシンプルに知っておいてほしいという願いがそこにはある。
苦笑いしつつもこちらを見る北欧大神に、俺もヴァールも静かに理解を示した。
権能がある以上、単純な戦闘力ばかりで決まるものでないのが概念存在だ。
ゆえに探査者にそのへんのパイを奪われていても実際のところ、彼らの存在価値や意義はいささかも失われることはないんだけれど……織田のように戦を司る神からすると、訴えたいことはやはりあるんだろう。
同盟関係にある相手からのそうした思いは、しっかり受け止めたいと思うよ。
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