攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
伝道師さんの伝道はすごい伝道なんだ! というお話はともかくとして、リーベとミュトスの模擬戦である。
先の二試合同様に少し離れた荒野にて、距離を置いて佇む二人が、それぞれ準備運動なんかしつつも互いに取り決めを交わしていた。
というのもぶっちゃけた話、こと単純な戦闘能力って面ではこの二人の間にはあまりに開きがあるからだ。
片や支援タイプの精霊知能、片や三界機構の力を自在に繰り出す戦闘タイプの精霊知能ってことで、そのままやると模擬戦どころかリーベが一方的に惨敗しまくることにしかならない。
さすがにそれはちょっとどうかなって話なので、ミュトスのほうにはルールというか縛りを設けてからやろうという流れになるのは必然だった。
ちなみにこうしたミュトスの縛りは今後、リーベ相手に限らず大概の模擬戦相手につけなきゃいけないだろう。そのくらい突き抜けているんだね、彼女の力ってのは。
「それじゃあリーベさん、私は《イミタティオ・トリニタス・コスモス》も《トリニタス・ヴェリタス・ウニヴェルシタス》も今回は使わず、素の身体能力と水の権能でやらせてもらいますね!」
「お気遣いいただきありがとうございますー。先輩精霊知能としてなんだか情けないですけどー、さすがに三界機構の力を引き出されるとかわいいかわいいリーベちゃんだけだとどうしょうもないのでー……」
「お気になさらずケセランパセラン! 不肖ミュトスめはともかく三界機構さんときたら元はワールドプロセッサ様でごぜーやしては、そんな力を模擬戦で使うのもどうかと思っておりやしたもんでウェッへへへ、渡りに船たぁまさにこのこと! まあシャーリヒッタさんや山形様相手には普通に使うと思いますけども!」
「怖ぁ……」
「オレら二人相手にだけは、そのくらいしねェと模擬戦にもならねェでしょうし仕方ないんだぜ、父様」
軽快に笑い、朗らかに自身の持つスキルを事実上、全封印して模擬戦に臨むこととなったミュトス。しかしそこに焦りや不安などはなく、どこまでも自然体な姿を見せている。
まあ、本来のミュトスにとって三界機構の力は結局、自分のものであって自分のものでないということなんだろう。元々は自身のなかにいる彼らのものであり、それをただ借り受けているだけという感覚なのかもしれない。
だからこそ、それに依存しすぎることはないのだ。無論あればあったで有効活用するけれど、なければないで他の道を模索する。そうした道を歩める心の強さを、ミュトスは元来備えているんだ。
リーベも、新人ながら誰よりも強い精霊知能のそんな言葉と姿にどこかホッとした様子を見せていた。相手にだけ縛りを課す形になったんだ、心苦しさはどうしてもあったろうしね。
「本当に助かりますー……よーしやりますよー! ミュトスちゃん、胸を借りるつもりでお相手よろしくお願いしますー!」
「あいあいがってんがたんごとん! 三界機構さん達のお力なくともこのミュトス、かつて水の女神だったモノとして酒しか飲んでない深窓の令嬢みたいな見た目だけど実は意外と距離感が近い陽気な美人お姉さんってだけでないことを証明してみせまショーターイム!」
「力があろうとなかろうとノリは変わらないのですね、精霊知能ミュトス……かつては異界の水神ですか。興味深い」
『自認が厚かましいねあの娘』
「こらこら、そう言うんじゃないぞステラ。そりゃまあ、すげえ自信だとは思うけどよ、いろいろ」
相変わらずなんとも言えない言動で構えるミュトス。徒手空拳らしく動きやすいシャツとジーンズ姿のまま、腰をやや落とした前傾姿勢ですぐにでも動き出せるように力を溜めているのが分かる。
というか織田はともかくステラはズバッと言うの止めたげて? 神奈川さんが慌てて嗜めるけど、彼も彼でミュトスのあの言動には苦笑いを禁じ得ない様子。
なんというか、言動が終始明るくて軽いノリだもんな。ペースが掴みづらいというか、アレはアレで独特なのは間違いない。
……それでいて戦闘態勢はきっちり本気なのがまた、抜け目ないというかなんというか。構えるミュトスの戦意は、冗談でなく重く強い。
模擬戦とて、スキルを使わずとて手は抜かないぞと全身から訴えかけるようなそのプレッシャーは傍目にもすさまじいものだ。
リーベも杖を構えつつ、冷や汗を一筋流しているのが見えた。
「っ……リーベちゃん一人だとさすがに荷が重いですねー……だけど私も探査者、オペレータになったんですから! 後方支援ばかりじゃなくて、時にこうして矢面に立たなきゃ、立たなきゃ!」
「後釜、無理はするなよ! たとえスキルを使わずとて、今のミュトスは権能さえすべて取り戻したフルパワーなのだ!」
「分かってます、けれど始める前から意気で負けてもあげられません……! いきます!!」
「先手を打つか、リーベ!」
ワールドプロセッサ謹製の精霊知能であることに加え、元々の自身の権能をすべて取り戻したミュトスは素の状態でも間違いなく、リーベよりも戦闘スペックは高い。
そのことを踏まえてヴァールがエールを送れば、リーベはそれに応えながらも決死の表情で動き始めた。
背中から3対6枚の光翼を展開し、勢いよく前へと飛び立つ。
先制攻撃! 手にした杖をさっそく振るうべく、自分からあえて近距離戦を挑んだのか!
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