攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
織田やイヴさんへの空間転移の説明もそこそこに、引き続き行われている模擬戦を見る。
うまいことワームホールを使ってミュトスの攻撃を避け、軽やかな身のこなしと速度でもって杖での殴打を繰り返すリーベだが……次第にその表情は焦りというか、苦笑いめいたものが浮かんできているのを俺のみならずこの場の精霊知能達も見て取っていた。
試合内容だけでいうなら今のところ、あの子が完全にミュトスを翻弄している運びと言って良い。
元々の実力差からいって一回掴まれればその時点で終わりだろうし、薄氷の緊張感のなかでよくもまあ手際よく攻撃と移動と空間転移を使いこなすもんだと思うよ。
だがそこまでだ。
結論から言って、やはりミュトスのほうがトータル的には圧倒的な優勢だと言うしかなかった。
「ミラクルラブリー・ワンダーハート!! ────ダメですねやっぱりこれー! ミュトスちゃん相手にはまるでまったく通じてませんー!?」
「だろうなァ。分かりきってたけど姉貴が存外うまくやるから、まさかワンチャンあり得るか? って思ったけど現実はそう甘かねェや。あんだけ仕掛けといてミュトスのやつ、ぜんぶはたき落としてんだもんなァ」
「ワームホールによる攻撃回避も、ワタシにはできない芸当で後釜の優秀さを浮き彫りにさせているが……ミュトスとてさすがだ、そろそろタイミングを見切り始めているぞ。アレでは早晩、切り抜けられる」
『攻撃は通じず、防御も次第に突破されつつある。詰み目前ですね。ミュトスの戦闘力を低く見ていないつもりでしたけど、三界機構抜きにしてもここまでやれるものなんですか』
杖によるインパクト。しかしそのヒット直前にミュトスの手があえなくそれを弾き返して、リーベは悲鳴じみた声をあげた。
いよいよこんな攻防が増えてきた。果敢に攻めるリーベは容易く返され、攻めあぐねるミュトスは容易に防ぐ。この構図の時点で、勝負の行く末など決まりきっているものだ。
シャーリヒッタやヴァールも、リーベの手際を讃えつつしかしミュトス優勢であることは疑う余地を持たない。
同じく戦いを見守るステラに至っては、状況を詰み寸前だとさえ評しながら、神奈川さんにそのものずばり、あの状況における空間転移の弱点についてまで言及し始めているよ。
『私の千尋、アレが空間転移を戦闘に応用することのデメリットだよ。こと回避することにかけては強力無比だけれど、そもそも制御が難しい上にどうしてもタイミングが一定にならざるを得ないの。つまり同格以上の相手となると、それを読まれた時点で無力化されちゃう』
「リーベさんほどの方でも一定のリズムになっちまうんだな。それだけ空間転移が難しい技術だってのは、見ていてもなんとなし分かるぜ」
『理想は読み切られる前に、杖の火力で敵を倒せれば問題ないんだけどね。でも三界機構なしでもミュトスは強いよ、リーベさんの攻撃だって決して弱くないのにあっさり落として、しかもワームホールまで破りかけてる……ちなみに山形様、あなた様なら同じ戦法をさらなる高クオリティで取ることも容易かと思うのですが、御身から見るとどうでしょうか? 私の千尋の後学のためにも、御意見を頂戴したいのですが』
「えっ、俺ぇ? ……そうだなあ、ううむ」
攻防別々にそれぞれ制御の難しいやり方をしているリーベの、裏腹の脆弱さを指摘するステラになんと俺ちゃん、勢いのままに意見を聞かれてしまった。
まあ、そりゃ俺もやろうと思えばリーベと似たようなことできるというか、もっと効率よくやれるだろうけど。急に問いかけられると挙動不審になっちゃいそうだよ、陰キャの宿命的に。
とはいえ神奈川さんの後学のためとか言われると弱い。加えて織田やイヴさんも一連の解説に目の前の光景を受け、興味深げに俺の解説を待っているわけで答えないわけにもいかない。
シャーリヒッタとヴァールさえもが耳を傾けてくるので、俺は僭越ながらと杖を振るうリーベについて所感を述べた。
「俺が思うに、今のリーベはワームホール生成のほうにリソースを割きすぎかなって。攻撃こそ仕掛けてるけど意識はミュトスの攻撃を食らわないことのほうにいってるように思うよ、アレ」
「ふむ。コマンドプロンプトとしては、ワームホール生成にこだわりすぎていると?」
「というか、なんでもそれ一本で対応しようとしすぎって感じかな? ミュトスの攻撃は普通にフェイントも混じってるしなんなら体捌きで軽く避けられるものもあるのに、それらまとめてぜんぶワームホールで往なしてる」
「あー、たしかに。父様の言うようにミュトスのやつ、結構騙し的に適当な手出しだけしてるところとかありますね。でもそれさえ空間転移で避けてるってのは、たしかにやりすぎなんだぜ」
「たぶん、一回でも食らうとそのまま終わりまで持っていかれるって確信があるからそうせざるを得ないんだろうな。そこは正しいけど、それゆえに肝心の攻め手がそっちのけなのはちょっとね」
ざっくり言うと、ミュトスの火力が高すぎて一発でも被弾したら敗北するため、結果として攻撃を適当にしてでも回避に注力しているのが現状のリーベだろう。
意識しすぎて本来、しなくて良いところにまでワームホールを作っているせいで効率が悪くなっているんだ。
本人も分かっているだろうけど、やはりこれは心というものの機微だろう。元よりリスク管理を徹底している娘だけに、一発で根こそぎ勝ち目を持っていかれる状況下では過剰に安全マージンを取らざるを得ないんだな。
三界機構なかりとて、それほどの力がミュトスにはあるんだ……これはリーベの失策というより、ミュトスの力をこそやはり、素晴らしいと言うべきなのかもしれないね。
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