攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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お忘れではないだろうか。彼女が元々水の女神だったことを

 攻めているものの防御に意識を割いていて、ゆえに有効打をろくに与えられていない印象のあるリーベ。

 対照的にミュトスの落ち着きというか、余裕の立ち居振る舞いが目立つ……杖による殴打を叩き落としながらも、折に触れて身体を掴もうと手を伸ばし続けているのだ。

 

 その表情は明るく朗らかな印象をそのままに、しかし狩人のような鋭い眼光をも秘めている。相応に戦闘モードに入っている感じだね。

 ワームホールに阻まれているだけで、隙あらば即座に仕留めにかかる気満々なのだ。これは仕掛けているリーベからすると、まさしく冷や汗ものってなところだろうさ。

 

「左! 右! もういっちょ右と見せかけて左っぽくしつつも右!! かと思えば真ん中ぁっ!! あーミュトスちゃんフェイント苦手すぎますね、といいますかワームホール創るのが早すぎますっていやホント!」

「わ……分かってましたけどキツいー……! ワームホール生成だって、外野に讃えられるほど楽チンでやってるわけじゃないですから、ねー!?」

「それでもここに至るまで完璧にこなせちゃってるのがさっすがリーベさん! ……それでもそろそろ体力切れも近いと見ました! ならばそろそろ仕掛けましょうか!」

 

 案の定、フェイント交じりに多彩な軌道で腕を繰り出すミュトスとそれを必死にワームホールで対応しているリーベの差が歴然になってきている。

 シンプルに、リーベの消耗が激しいのだ。ミスったら即座にゲームセットまで持ち込まれるだろう火力を、軽いノリで無造作に乱発してくるプレッシャーはすごいだろう。

 

 ワームホール生成だって一回二回ならともかく、あそこまで連発してたらそりゃ演算疲れも出てくる。実際、先ほどまで繰り出していた杖の攻撃も少なくなって形勢が逆転しだしているし。

 結果としてそろそろリーベの息があがってきている。元よりそれを狙いでここまでミュトスはある程度の主導権を相手に与えていたんだろう。みごとな読み勝ちだ。

 

 だがそれもここまで。ミュトスはいよいよ好機と見て動き出した。

 スキルの発動ではない、元の、水の女神としての権能の行使──概念存在だった頃から持ち合わせている能力を、使用したのだ。

 

「権能発動! 《水よ、荒野に逆巻く渦を起こせ》!」

「っ!? 水、渦巻いて下から吹き上げる!? 何を、一体ー!?」

「これぞ108ある気がするミュトスちゃん宴会芸のひとーつ! その名も水の大森林! とあーっ!!」

「水柱が……リーベの周囲に、まるで森のように!?」

「これは、飽和攻撃か!? いや宴会芸とはいうが、規模が広いぞ!」

 

 薄青に輝くミュトスから、魂のエネルギーが権能として出力される。途端、リーベの周囲の大地から無数の水柱が立った。

 渦巻く柱だ。それが10や20ではきかない数立ち並び、まさしく大森林めいた様相を呈している!

 

 なんか茶目っ気めかして108とか言ってるけど、これは宴会芸の規模じゃないだろ! まさかあの子、元の魔天世界で人里に飲みに繰り出してた時にあんな感じで披露してたのか!?

 権能自体の出力はやはり、元の水の女神としてのものから据え置きなので大したものではないにせよ……この場面でこういう使い方をしたことは驚きだよ。

 

「ふむ? ……なるほど、そう来ましたか。これは勝負ありでしょうね。レギンレイヴ、どう見る」

「まさしくご慧眼かと。リーベ様とて平時ならばこの程度、容易く切り抜けましょうがさすがに消耗が激しいものと思われます。空間転移……咄嗟に自分を逃がすだけの余裕も、あるかどうか」

「消耗を待ってたってのか、ミュトスさん!」

『戦術の妙だね、私の千尋。リーベさんもミュトス相手でなければここに至るまでのどこかで勝ちを拾えたろうけど、さすがに戦闘力が違いすぎたみたい』

 

 織田やイヴさん、神奈川さんにステラの声もあがる。揃ってすでにミュトスの戦法、水の大森林とやらの意図するところを見抜いてのものだ。そしてそれは、俺の見立てとも合う。

 発動時点でリーベはすでにバテていた。ワームホール生成も速度と精度が落ちてたし、攻撃もいつの間にやら収まって後手に回ってたしな。最初からこれがミュトスの狙い目だったんだ。

 

 すなわちワームホールを好き放題展開させて、体力切れを誘発させること。そうして動きが鈍くなったところに、派手な技で目眩まししつつ勝負をつけにいくこと。

 実際、常のリーベならこの程度はそれこそワームホールで逃げれば終いだ。だのにそれをしている気配がないのは、いきなりの権能で虚を突かれ動揺したのと、シンプルに疲れちゃって対応に遅れが出ているんだろう。

 

 そしてそれを見逃すミュトスではない。

 彼女は防戦モードから一転、一気に踏み込み戦闘モードへと移行した!

 

「さぁーてさて、やりますか! いきますよー、ミュトスちゃんグレートビュリホーワンダホータックル!!」

「センスがねェぜェ」

「ガビーン! ……ええいそこはともあれ、とにかくリーベさん捕まえたー!!」

「きゃあっ!?」

 

 地面を強く蹴って、一息にトップギアまで加速する。三界機構の力なくとも、ミュトスの身体能力は並のA級探査者を凌駕している。

 そうして水柱の群れを無造作に突破して、即座に離脱する──リーベの両腕を掴み、動けなくした上で。

 

 天高く舞うミュトスと、勢いに呑まれたリーベ。これは織田の言うように勝負がついたな。

 ここからだともう、ミュトスのやりたい放題は確定だ。ワームホールなど使わせる前に殴るなり蹴るなり組むなりなんなり、できてしまえるものな。

 

「はい、おしまい! ……一応聞きますけど続けます? もしやるなら鳩尾に一発膝を叩き込んでからパイルドライバーしますけども」

「う……か、加減されてても死にそうですねそれー。いえ、降参です参りましたー。はあ、ふう。もー、疲れましたー!」

「にゃはは、私もです!」

 

 最後通告するミュトスに、リーベはあっさりと降伏を宣言した。まあ、ここらが限度だわな。

 地面に折り立ちリーベから手を離すミュトス。ちゃっかり杖を取って武装解除しつつ、折りたたみ式のそれをしげしげと興味深げに眺めているよ。

 

 なんにせよ戦闘終了だ、お疲れ様でした。

 リーベもミュトスも、殊の外面白いものを見せてもらったと思えるよ。




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