攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
ダンジョン聖教三代目聖女、マルティナ・アーデルハイドさん。初めてお会いするわけだけど、第一印象としては予想以上にアクティブな方って感じのその人は挨拶もそこそこに俺に大股で近付いてきた。
これまた年を感じさせないお元気さでだ。ていうか地味に身のこなしが洗練されていて隙がないのがさすがだよ。結構前に引退されたと聞いているけど、この様子だと日頃からそれなりの運動は欠かしていなさそうだね。
そうして俺の前に立つと、何やらしげしげと顎に手を当て眺めてきた。ともすると嫌味にも感じかねない動作なんだけど、不思議とこの人がやると変な愛嬌があるというか、しっくり来て違和感がない。
心底から好奇心でもって眺めてきているというのが分かるのだ。天真爛漫さがある、というのかなこういうの。
「ふむふむふんふん。なるほどなるほど? へぇー」
「あ、あのう? あ、アーデルハイドさん?」
「これが最近噂の救世主くん。統括理事やらマリアベール先輩やら初代様やら、やたらめったら要人ばっかり引っ掛けてるらしいって噂の子ですか! あはははははは、これはアレですねー、私じゃ見通せませんね! そこの化物より化物を拝むことになるなんて、どーなってんだか私の人生!」
「えぇ……?」
豪快に笑って肩を叩いてくるアーデルハイドさんに戸惑う。どうも俺を見定めるつもりだったのは分かるけど、その結果化物を越えた化物認定されたのは解せぬ。
いやまあ、曰く相当鋭敏な方だそうだからヴァールにも似た存在である俺の魂を感じ取っての言葉なのは分かるよ。結局見通せないって仰ってるけど、そのうえでこの評価ならばまさしく正鵠を射ているとも言える。
唐突な成り行きに、周囲の誰もが呆気にとられている。行動や言動はエキセントリックながら、そこに常に陽気さとか無邪気さがあるのでなんとなく毒気を抜かれて反応に困るんだよね。
ただ、それでもヴァールが彼女に声をかけた。呆れ混じりに、いつもの調子で話しかけたのだ。
「しれっとワタシを化物認定してきたな……現役の頃は一応でも表面上は隠していたものを。久しぶりだなアーデルハイド、しかし出会い頭にそれはさすがに唐突だな?」
「歳を取るとそのへんあけすけになっちゃうんですよ、すみませんね統括理事。どーも久しぶりです、聞きましたよ引退するんですって? ソフィアさんともどもお疲れ様でしたね、あははは!」
「ああ、もうワタシやソフィアの出る幕ではなくなったのだ。永らく抱えていたタスクも、まさしくそこな山形公平のおかげで解消できてな。ようやく、柄でもない立場から脱することができるよ」
「良いことですね間違いなく。あなたにとってはもちろん、世界にとっても……お気を悪くしないでほしいですけど、やっぱり特定個人がいつまでも君臨してるような世界はなかなか不健康ですよ。良くも悪くも変わっていってこその人類社会でしょうし」
「同感だ。思えば君は昔から、そうしたところもあってワタシやソフィアに違和感を禁じ得なかったのだろう。その繊細な感覚は、さすが三代目聖女といったところだな」
おや、と思う。少なくとも穏やかな会話が成り立つ程度には、どちらも互いを嫌ってはいないんだな。
先程のヴァール曰く、アーデルハイドさんから一方的に嫌われていた的な感じを受けたんだけど……このやり取りから察するに、嫌悪というよりは違和感ゆえの苦手意識が強かったって感じなのかな。
たしかにアーデルハイドさんの言うことは逐一ごもっともで、不老存在が100年近くも君臨してきた現行の大ダンジョン時代社会は言うまでもなく歪で不自然だ。
たとえそのおかげで安定した秩序や平和が保てていたとしても……本来、人の世はそんなに永く、ある一人の特定個人によって牽引されるものではないからね。
そうした不自然さに、アーデルハイドさんが違和感や苦手意識を持ったとしたらそれは責めるようなことではない。
むしろよく、"これが当たり前となった社会"にそんな疑念を抱けたもんだと鋭敏さに感嘆するほどだ。それこそヴァールじゃないけど、さすが三代目聖女って感じだよ。
「ハッハッハー、久しぶりアーデルハイドくん。ちなみに聞いてるか知らないけどエリスさんもね、ソフィアさんヴァールさんに併せて能力者犯罪捜査官を引退したんだーハッハッハー」
「ご無沙汰してます初代様。美穂から多少聞いてますよ……長かったですねえ、あなたのソレも大概。もうそろそろひと休みしても良いんじゃないかって、私も思ってましたよ。それにきっと、ラウラさんも」
「…………そうだねえ。きっとあの娘なら、そう思ってくれてるよ」
「あはは……ああ! そういえば実はシャルロットとも遠縁なんですって? アレクサンドラのことも含め、第八次モンスターハザードとやらでいろいろあったようですしそのへんも聞きたくて今回お呼びしたんです」
「あー、うん。そのへんはまあ、そろそろ多少腰を落ち着けてゆっくり話そっかー」
一方、不老という意味では同類と言えるエリスさん相手には特に思うところなさげな感じで気さくに話している。初代聖女相手でも過剰な敬意とかもない、本当に古くからの先輩を相手にしているみたいなラフさだ。
エリスさんもそんなアーデルハイドさんにはどこかホッとした様子で応じている。分かるよ……狂信者に囲まれたなかで普通に相手してくれる人がいるの、超ありがたいよね!
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