攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
挨拶とちょっとした雑談もそこそこに、一同整然と設置された長椅子の好きなところに腰を掛けて落ち着く。
応接間とかじゃなくてここ、講堂でやるんだ? と一瞬思ったけど人数が多いからね。俺も含めて10人ともなれば、なるほどここくらい広々したところのほうが気兼ねなくゆっくりできるだろう。
お付きの騎士さん達をも講堂から退出させて、アーデルハイドさんは改めてこちらみんなに向き直る。
俺以外とはみんな面識があるもんで、全員に親しげに笑い、積極的に話しかけていったのだ。
「サウダーデくんにベナウィくんもお久しぶりですね。特にベナウィくんはアメリカ住まいですから、なかなか会いませんものね、あははは!」
「そうですねえミセス・アーデルハイド。師匠とは太平洋にいますから時折お会いするでしょうが、私は基本的にケンタッキー州で事務所構えの探査者暮らし。今回のようなことでなければなかなか、地元ばかりですからねえ」
「そう思うならたまには太平洋に顔を出せ、ベナウィ。みんな会いたがってるぞ。それに《極限極光魔法》の大火力は、太平洋ダンジョン探査においても有効だからな」
「広域殲滅特化の《極限極光魔法》の大味さは、一部屋一部屋が極端に広く出てくるモンスターの数も多い太平洋においては重宝するでしょうしねえ。だからこそ太平洋ダンジョンの探査においては、クランという大規模集団が当たり前になっているんでしょうし」
「相変わらずですね、あそこも。まったく半世紀も探査してなお底知れないなんて、本当に何がどうなっているのやら」
太平洋客船都市において元々、交流があったらしいサウダーデさんやベナウィさんとも気さくに話しかけているアーデルハイドさん。
いろいろ気になる話をしているね……太平洋ダンジョン。まず間違いなくエラーダンジョンなその場所だけど、規模と深度があまりに桁違いすぎて50年も探査活動が行われていてなお、未だ最奥が見えて来ないという異常極まりない状態になっているみたいだ。
あまりの規模にパーティ単位ではなくもはや、クラン単位での探査が常態化しているほどに。ゆえに太平洋文化圏にあっては、複数のクランが互いに競い合うように活動しているんだね。
そんな大規模クランの一つを取り仕切るらしいサウダーデさんはさすがだよ。
「シャルくん、元気してたかい? 何か不自由してないかい、なんでも言ってくれよできる限りのことはするからね」
「いざとなればWSOも頼るのだぞ、シャルロット。ダンジョン聖教全体が今、難しい舵取りを迫られているのはこちらも把握している……それ自体は仕方のない部分もあるが、君一人がすべて背負わねばならないことでは断じてないのだ。ワタシやソフィアも、君のことを案じているのは覚えていてくれ」
「お気遣いいただきありがたく存じます初代様、統括理事。おかげさまで特に何も困ることなく、日々を過ごさせていただいております……ダンジョン聖教の運営につきましても、失った信用を再度回復するため、信徒一丸となって誠心誠意努めております」
「七代目様の事情はすでに多くの信者が知るところにあります。アレクサンドラによってあまりに凄惨な境遇へと追いやられていたことには聖教の誰もが心痛め、聖女様のお力になるべきは今と士気高くことに取り組めておりますよ。これもまさしく七代目様の御人徳の賜物と言えましょう」
一方でエリスさん、ヴァールさんがシャルロットさんや神谷さんと話をしているのにも耳を傾ける。やはりというべきかこちらのお二人、シャルロットさんに対して際立ってナイーブな扱いをしているね。
何しろアレクサンドラによる一番の被害者と言っていい娘がシャルロットさんで、彼女の動機的に関係してしまっているのが彼女達なんだ。そんな立場で、気にしないわけがないものな。
ダンジョン聖教自体の屋台骨というか、根本にある聖女信仰が第八次モンスターハザードにて大きく毀損され揺らいだのは厳然たる事実だ。
他ならぬ六代目の聖女がテロに走り、それを止めにかかった七代目だって途中まではとてもじゃないけど友好的な態度とは言えなかったしね。
事件が終わった今、失われた信頼や名誉の回復のために奔走していかねばならないのがシャルロットさんの使命となってしまっているところがあるのは、残念ながら仕方ないと言うしかない。
俺も、何ができるわけじゃないけどそこは気にしているからね。せめてプライベートでいる時くらい、年相応の少女としてリラックスしてほしい思いはあるよ。
そのへんのところ、隣に座るマリーさんと軽く語らう。
「シャルロットさん……まあダンジョン聖教そのものですけど、本当に大変ですね。俺も何かしてあげられたら良いのかも知れませんが、特に何もできることとかないんですよねー」
「何を言っとるんさね、あんたは一番肝心で重要なところで最大限のことをしてやったじゃないかえ。あの子の人生、残り僅かだった生命に先を取り戻したのは他ならぬアンタやリーベ嬢ちゃんだ。それ以上望ませるのは、そりゃシャルロットちゃんが欲深になっちまうよ」
「えぇ……? そ、そんなもんですかね」
「ファファファ! あんたホント、そんなになっても気にしいは変わらんねえ! さすが救世主ってところだけど、ま、今回はそう気にせんでいいさ。ねえ、シャルロットちゃんもそう思うだろ?」
シャルロットさんのことは心配だけど、さりとて俺に何かできることは特にない。精々普段のアレコレを聞いたり相談に乗るくらいだけど、それ以上は筋合いじゃないだろうし。
別段罪悪感とかはないにしろ、友人としてはちょっとどうなんだろうなーってところだ。そんな想いを吐露したところ、マリーさんは優しく笑いながらそんな俺を慰めてくれた。
なんなら当のシャルロットさん本人にも声をかけているよ。
俺達の会話を聞いていた様子の彼女は、当たり前のようにこちらを向いた。無表情気味だった表情に、薄っすらとだけどたしかに慈悲と慈愛の笑みを浮かべて。
そして俺に向け、笑いかけてきたのだ。
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