攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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あなたがいるなら、どんな世界だって構いやしない

 作戦会議も終わって、この日は一日中、体調を整えることに俺たちは努めた。

 まあ、ぐうたらしてただけなんだけどね!

 

 温泉にまた行って、今度はサウナに入って整ったり。

 香苗さんと近所を歩いて回ったり。

 リンちゃんとリーベが美味しいものを食べ歩きしているところに出くわしたり。

 昼過ぎから酒を飲みだしたベナウィさんに、マリーさんがノンアルコールビールで付き合ったり。何なら、ソフィアさんだってそこに参加してたり。

 

 明日にはもしかしたら死ぬかもしれない戦いだ。だから、なるべくやりたいように過ごしていたのかもしれない。

 なるべくなら誰も傷付くことなく、順当に勝てればそれが一番だけど……そう上手く行かないだろうとは、他ならぬ俺自身が一番、感じているところだ。

 

「みんなで笑顔で帰れるように。それだけを願うばかりです……正直、あなたの活躍を見られないのが辛いですけどね」

「そう、ですね」

 

 そして、今は夜。俺の部屋の広縁、向かい合ってソファに二人、香苗さんと座っている。

 話があるとのことだけど、こうして座ったら座ったで、何やら言いよどむというか、所在なさげにしている。なんだろう?

 

「えーと……話って、なんでしょうか? 俺、なんかやっちゃいました?」

「あ、いえ。すみません、なんだか、色々と振り返ってしまって」

 

 聞いてみた俺にも、なんだか胡乱な返事。

 体調が悪い感じでもないんだけど、どこか上の空だ。本当に大丈夫かな、この人。

 少し間が空く。やがて香苗さんは、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……公平くんと出会って、まだ、三ヶ月くらいしか経ってないんですね」

「え? は、はぁ。そうですねえ」

「出会った時から、あなたには何か、重い使命があると信じてはいましたが。まさか世界の命運にまで及ぶものとは、さすがに予想ができませんでしたよ」

「俺もですよ。ははは」

 

 何なら使命とやらだって、香苗さんの与太話くらいにしか思ってなかったよ。

 精々、妙にポエミーなスキルってだけくらいにしか思ってなかったからなあ。いやはやたった三ヶ月で、ずいぶん遠いところまで来ちゃった気がする。

 

「不思議な感覚です。もう、ずっとあなたと一緒に、色んなものを見聞きしてきたような気がしているのに。あなたのいない人生なんて、考えられないようになっているのに」

「か、香苗さん?」

 

 き、急にすごいことを言うな……

 香苗さんの、あまりの物言いに思わず、顔が火照るのを自覚する。この人、自分が何を言ってるのか分かってるんだろうか?

 告白まがいだぞこんなの。いや自意識過剰ボーイになりたくないし、他意はないものとするけれども。

 純情山形くんを平然と翻弄する魔性の香苗さんは、そんな俺の様子にも気付かずにさらに語っていく。

 

「この三ヶ月で、私はもうすっかり、あなたと一緒に生きていく私になりました。救世主としてのあなたもそうですし、探査者としてのあなたもそうですし……一人の人間としての、あなたもそうです。山形公平という方はもう、私にとってなくてはならない人です」

「そ、そ、そうですか? いや、はは、こりゃまた、んふふ。照れちゃうなあ……えはは」

「だからこそ、怖いんです」

 

 言うやいなや、香苗さんはにやつく俺の手を取り──さらには体ごと抱き寄せてきた!

 浴衣越しに体と体が触れ合う! かつてない感触、ぬくもりだ!

 え、ええええ!?

 

「か、かかかかかなえさん!? なな、なにを──」

「死なないでください、公平くん……!」

「────え?」

 

 濡れたその声に、俺の動揺は一瞬で鎮まった。香苗さんが、怯えている。体も小刻みに、何かを恐れるように震える。

 怖がっているんだ……

 どんな時でも気丈に振る舞っていたこの人が、初めて俺に、弱いところを見せている。

 

「いくら強くても、いくら素質があっても。あなたは、あなたなんです……! 使命や責任に殺されて良いはずがない! 怖いですよね? 辛いですよね? 私は……! あなたが、少しも弱音を吐いてくれないのが、何より苦しい……っ!!」

「香苗さん……」

「あなたはきっと、仕方がないからと笑顔で死んでしまえる人なんです。誰も傷付かないならと、一人で消えてしまえるんです……! っ、嫌ですそんなの嫌だ! あなたと一緒なら、こんな世界のどんなところの、どんなものだって良いんです! 私は、私は……っ!」

 

 縋るように泣きつく。この人の激情が、俺の心を真っ直ぐに貫いた気がした。

 思えば、こと邪悪なる思念絡みでは俺、不思議と弱気になることがあまりなかった気がする。自然と前向きな姿勢で、使命や運命を受け入れていったように思う。

 それがきっと、香苗さんには不安だったんだろう。俺が、すべてをあるがままに受け入れて、どこかへ消えてしまうんじゃないか、と。

 

 だから。

 俺は、恐怖に苛まれる彼女を、強く抱きしめた。

 

「大丈夫。俺は死にません」

「公平くん……?」

「どんなことがあっても、必ず生きて帰ります。家族、友だち、仲間。それに香苗さん、あなたが待ってくれているから」

 

 今、改めて強く思う。俺には、帰りを待ちわびてくれる人たちがいる。

 家族や、学校の友だち。今まで知り合えた探査者の人たちもそうだ。俺が帰った時、暖かく迎えてくれる人たちが、いてくれる。

 そう、目の前のこの人も、そうなんだ。

 

「俺は、みんなの当たり前の生活を守りたい。そして、その当たり前には、ありがたいことに俺も含めてくれている人たちがいる」

「……もちろんです。私も、私だって」

「絶対に帰ります。俺もみんなの日常だから、みんなと一緒にこれからも生きていきたい。そう思わせてくれたのは……あなたです、香苗さん」

「約束ですよ。必ず、帰ってきてください……これは、おまじないです」

 

 抱きしめる俺に、耳元で囁いて。

 香苗さんは、俺の首筋に一つ、柔らかなぬくもりを落としてくれた。

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