攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
かくかくしかじからびあんろーず、ってなもんでアーデルハイドさんにひとしきりこれまでの経緯について語ったよ。
主にシャルロットさんとヴァールがメインで説明してくれて、そこに補足とか追従する形で俺なりマリーさんなりエリスさんなりが追加で話したりもした。
何しろこのへん、結構入り組んでるからね……元を糺せば500年前がすべての起点なわけだけど、ターニングポイントはシステム領域的には150年前、人類史的には100年前あるいは90年前だったりするし。
そのうえワールドプロセッサだコマンドプロンプトだ精霊知能だアドミニストレータだオペレータだと、異世界の話まで含めるともう何が何やらちんぷんかんぷんってなもんだろうさ。
「────いろいろ掻い摘んだ説明にはなるが、ざっとこうしたところか。質疑はあるか、アーデルハイド」
「……うーん、いやもう質疑があるっていうか素直に呑み込める部分がどれだけあるかっていうか。荒唐無稽もいいところと言いますか」
「言い分は理解するが、これらは紛れもなく真実だ。邪悪なる思念による侵攻、それにより自我が芽生えたシステム領域。ワタシがソフィアとともに仕組んだこの現世、そのすべてが新たな時代のアドミニストレータ……今となってはコマンドプロンプトであるこちらの山形公平を見出すための大きな潮流であったことまですべて」
「三代目様、山形さんのお力と正体は私や初代様、五代目様からも保証いたします。この世のあらゆる因果律を自在に操るその権能は間違いなく超常の極みたるもの……アレクサンドラに四肢を裂かれた私の身体さえ、何事もなく元通りに復元せしめたほどに超越的な力でした」
案の定、困惑ここに極まれりってなアーデルハイドさんにヴァールとシャルロットさんがなおも語る。
紛れもない真実ってのはもちろんそうなんだけど、いかんせん情報の洪水なのには違いないから多少は加減してあげてほしい気もする。
ただ、そうした言葉を受けてアーデルハイドさんはいくらか目を瞑り、御自身のなかで思考を整理してから目を開いた。そこに宿るたしかな理解と、やはり残る戸惑い。
思慮深く、聡明な方だ。愛嬌ある天真爛漫さで、若い頃はだいぶ破天荒だったと聞くけれどやはりさすがは聖女だということだろう。
聞かされた真実を、知らされた世界のすべてをこの人は、たしかに受け止めきっていた。
「…………なるほど、なるほど。概ね私なりに理解しました、大ダンジョン時代、それそのものがある種の壮大なプロジェクトだったんですね。異世界から来た、大いなる災厄に打ち勝つための」
「そうなります、アーデルハイドさん。そしてそのプロジェクトは他ならぬ現世人類のみなさんの、不断の努力と積み重ねの末に倒されました。俺を、私を最終スキル《攻略! 大ダンジョン時代》まで至らせてくれたのは、紛れもなくこの100年におけるありとあらゆる人間達一人一人のおかげです」
「そう言うあなたはコマンドプロンプト……この世の真なる造物主の片割れが、事態を打破すべく人知れず人間に転生した姿と。やっぱり私の感覚はそう外れていませんでしたね。あなた、人間ではあるものの人間じゃない部分も見受けられましたし」
「さすがです。魂の規格自体は人間に合わせていますが、質そのものはやはり因果律管理機構ですから」
やはり見抜いていたか、俺の魂の異質さを。そも最初にヴァール以上の化物とかって言ってきたものな。
化物じゃないやい! とヴァールともども言いたいところだけどこればかりは仕方ない、"分かる"この人からすると俺もこの子もしょせん人の皮を被ったナニカに過ぎないだろうし。
そして、そんなのが人の世を100年ほども牽引して、やむなくとは言え恣意的な方向に誘導してきたんだ。
そうしなければ世界が食われて消えていたとはいえ、嫌いな人はとことん嫌いになるだろうってのは俺にだって分かるよ。アーデルハイドさんは実際、それゆえにヴァールやソフィアさんに苦手意識を持ってたんだろうしね。
複雑な様子で、けれど軽やかに笑うアーデルハイドさんの様子と、そこから放たれる言葉が答えだった。
長年、薄っすら漏れていたとて隠そうとはしていた本音をついに、ヴァール本人の前で吐露し始めたのだ。
「本音をいうと、統括理事にはこれまでずーっと不信感と嫌悪感があったのは事実です。ぶっちゃけ不老な時点で上位存在ですし、WSO主導による大ダンジョン時代社会も言ってしまえば独裁的な部分もありますからね。大多数に対して善政を敷いていたからこそ赦されているだけで」
「ついに本音を出したねアーデルハイド。まあ前からバレバレだったけどさ」
「あはははははは、やっぱバレてましたか! ……とはいえ、それで人々の平和と安寧、秩序と自由が保たれているならば私はそれでも良かったんですよ。私個人の不信も嫌悪も、ソフィアさんとヴァールさんが成し遂げたことを否定する理由にはならない。なってはいけない。だから現役の頃はまあ、それなりに我慢してたはずですよ、私」
「ハッハッハー、まあ第六次の時とかだいぶ耐えてたよね君ー。よく一年近くも一緒にパーティ組めてたもんだよ、途中で揉めてどっちかが離脱しかねないなーって思ってたんだよね、当時」
「えぇ……?」
不信、嫌悪はある。あるけれどそれは個人的な想いであり、客観的には否定する理由がない。
なぜならソフィアさんとヴァールが牽引した世界は、少なくとも人間社会のなかにあっては概ね平和や安寧が築かれていたから。モンスターとの戦いや犯罪能力者への対応こそあれど戦争も紛争もなく、人々の平穏が大部分において賄われていたから。
そう述べるアーデルハイドさんの考え方は、やはり視座が高いと言えるだろう。主観と客観を完全に切り離して、客観にこそ重きを置いているのだから。
……でもさすがに一緒にパーティを組むとなると無理が出てたみたいだね。エリスさん曰く空中分解さえ危惧されたという第六次モンスターハザードは、この人にとってもヴァールにとっても、なんならソフィアさんにとっても気まずいものだったんだろうなあ。
怖ぁ……
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