攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ヒトとシステムの決定的な違い

「統括理事と同じように、山形さんにもやはり違和感は禁じ得ません。ですが、それをもって否定するつもりも毛頭ありませんとも」

 

 きっぱりと言ってのけるアーデルハイドさん。その佇まいは凛としつつも楚々としており、かつて聖女としてダンジョン聖教を担い導いた者としての矜持を感じさせるものだ。

 威風堂々。それでいて優しさを備えてもいる。自身の信条とおそらくは決定的に合わないだろう俺やヴァールに対して、明らかに歩み寄りの姿勢を見せてくれているんだ。

 

 人の世を、人とは言い難いモノが直接的に牽引して君臨し続けた100年。それを明確に違和感と捉えたこの人からすれば、俺達なんてのは委員会やその傘下組織の連中とそう大差なく見えていても不思議じゃない。

 けれどもそれを、呑み込み受け入れてくださっているんだ……結果論的ではあるけどここに至るまでの平和と安寧、秩序と自由を保った世界の姿を理由に、ね。

 

「何より優先すべきは人々が自由に、そして安全に生きていくこと。どれだけ綺麗なお題目を唱えたとて、土台が整っていなければ独り善がりな説教にすぎません。私は仮にもかつて聖女だったものとして、統括理事への感謝と敬意を欠かすことはしませんよ」

「アーデルハイド……君の、そうした感覚にワタシこそ感謝と敬意を表すべきだろうな」

「しょせんは個人の意見ですから、そこは御自由に。ともかく私としてはそうした理由から、まあプライベートではちょっと距離は取りたいですけどあなたにも、そして山形さんにも否やはありません。ただできれば、必要以上に政治とかに関与するのは今後は控えてほしいところですけどね」

「分かっている。そのための先だっての引退宣言であり、今も動き回っている引退に向けての動きなのだと理解してくれ」

 

 ヴァールとのやりとり。そこにもやはりアーデルハイドさんなりの忌避感というか、どうしても合わなさそうな気配は感じるものの。

 やはりこの子やソフィアさんのこれまでの功績や奮闘に対しては尊重し敬意を払ってくれているみたいだった。ヴァールのほうも理解を示しつつ、微かに笑みを見せている。

 

 そうとも、もはやシステム領域の出る幕は過ぎ去りつつあるのだ。少なくとも政治をもって社会を先導し、武力をもって秩序を牽引する立ち位置にいてはならない時代が到来している。

 他ならぬ俺がそうしたんだ。邪悪なる思念を倒し、世界を解き放ったことで……現世領域を、システム領域から解き放ったとも言い換えられなくもない。 

 

 とはいえ、これから先の時代も様々な勢力による現世介入が予想されるだろう。そこには引き続き俺達システム領域も干渉する必要はあるだろうけどね。

 そのへんまで含めて、アーデルハイドさんにも一応ご承知いただきたいところだ。俺はそして、インターフェイサーについても彼女に説明した。

 

「今後、ソフィアさんとヴァールがWSOを辞することで予想される概念存在などの人外勢力による現世への干渉。そこに対してはシステム領域も対応チームを構築して対処していきたいと考えています」

「インターフェイサーという、精霊知能だけでなく人類側、友好関係にある概念存在をも交えて構築する現世干渉部隊の構築を今、総責任者の山形公平と部隊長の精霊知能シャーリヒッタが急ピッチで仕上げている。WSOとしても能力者犯罪捜査官との協力体制は組み上げていくつもりだが、そこに何か異論はあるか?」

「現世干渉チーム……ふむふむ。まあ防波堤になってくれていた統括理事が引退すれば、概念存在とやらの動きが活発になるというのは理解できますね。となるとそういう部隊があるのは、そしてWSOと足並みを揃えるのは人類にとって益と言えるでしょう。その部隊そのものが変質しなければ、の話ですが」

 

 信条や信念への想いとは別にこの人、そもそも考え方が柔軟なんだろう。インターフェイサーの理念を把握して、即座にそれが人のためになるのであればと受け入れてくださった。

 ……そのインターフェイサー自身が変質し、人に仇なす組織に変貌しなければという条件をも添えてだ。このへんもしっかりとリスクを考えているね。

 システム領域についてよく知らない人ならばこのへん、危惧を抱いてもおかしくない部分を的確に突いてくる。

 

 人間社会において、組織や団体はどうしても変質していく。長く続いたり大規模化したりすると特にね。

 直近でも委員会傘下組織・サークルなんかが良い例だろう。最初は多少思想的でも無害だったのが、良からぬ輩に知識と力を吹き込まれて一気に暴走して変質した。

 

 同じことがインターフェイサーにも起こりかねないと、アーデルハイドさんはそこを心配しているんだな。

 しかしてさすがにそこは問題なしだ。ヴァールが彼女に応えて話す。

 

「信じられないかもしれんが、そこについての心配は不要だ。主体たる我々システム領域は、どこまでいってもシステムプログラム。根底にある"世界の正常なる運営"のために在るのがすべてだ……存在意義そのものと言って良い」

「とはいえ、心を得れば移ろい変わることもあるでしょう?」

「ない。人間のソレとは異なり、我々のコレは明確に性質が異なる。生まれてから意味を得る君達と、定められた役目のため生まれた我々との違いは君が思う以上に差がある」

「…………なるほど。どうも噛み合わないわけですね。私そういう、決められた道しか歩めないのがどうも苦手でして」

 

 肩をすくめるアーデルハイドさんの、表情に宿る理解と納得、そして嫌悪と畏怖。

 やはりこの人の感性からすると、俺達の在り方は受け入れがたい部分はあるよなあ。それでも呑み込んでくれたみたいなのでそのへん、さすがの理性と称えるべきだろう。

 

 そう、俺も精霊知能達も結局、役割ありきに発生したモノだからね。生まれてから何かを得ていく命とは、やっぱり根底からして異なるんだよ。

 どちらが良い悪いではない。ただそういう差異があるという……それだけの話でしかなかった。




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