攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
世界の真実、システム領域について。そしてヴァールや私の正体にインターフェイサーまで含めて、ひとまずアーデルハイドさんには納得いただいた。
感情面ではいろいろあるだろうけど、努めて理性的にメリット・デメリットを判断したうえで受け入れてもらった形になるね。
言っちゃうとこの際、アーデルハイドさん御自身の私情や個人的信念は関係ないと言えてしまえるものの……それこそ個人的な話、俺やヴァールはこの人のこういうところはまるで悪くないと思う。
人間としての矜持、プライド。そういうものを見せてくれる方のことは、たとえ対立的な面があったとて敬意に値すると思うからね。
良い意味で人間らしい、そんなアーデルハイドさんはそして。
次にこれもまた本題だろう、第八次モンスターハザードについて話し始めた。
「システム領域とか統括理事についてを踏まえるとですよ。こないだのモンスターハザードにおいて、そんなあなた達にわざわざ喧嘩を売ってみごとに返り討ちにあったのがあの子、アレクサンドラってことになるんですね。美穂、あなたの愛弟子恐ろしく無謀でしたねー」
「……そうですね。その所業が許されざるものであるのとは別の次元で、それをもって敵対した相手が山形さんや統括理事だったことは、彼女の大いなる判断ミスの一つと言えましょう」
「なんか聞くところによるとウーロゴス? だかなんだかいう異物を取り込んで神様にでもなろうとしたんでしょう? それで浮かれちゃったんでしょうね、あの子は昔からじんわり調子乗りなところありましたし」
「じんわり」
「調子乗り……ですか、三代目様」
主に語られるのはやはり、首謀者であるアレクサンドラ・ハイネン。あるいは火野アレクサンドラだ。
六代目聖女でありながら現世社会に反旗を翻し、ミュトスの権能たるウーロゴスを取り込み概念存在プレーローマ・アンドヴァリへと変生せんとした野心家。
同時に神谷さんの弟子でもあり、アレクサンドラのほうもまた彼女にだけは並々ならぬ感謝と敬意、大恩を抱いていたという複雑な構図だ。
今も神谷さん、アレクサンドラのことになると沈痛な面持ちを浮かべるね。許されないことをした犯罪者であれど愛弟子であったのも事実。彼女を正しい方向に導けなかったことを、この人はずっと悔やんでいるんだろう。
そんな人の、かつて現役時代は相方だったのがアーデルハイドさんだ。軽い調子で話を振って、アレクサンドラについても軽妙に語る。
じんわり、調子乗り──えらくポップに表現されたその本質に、シャルロットさんと思わず顔を見合わせる俺ちゃんだ。
「ええ、調子乗り。まだ聖女になる前、美穂の下で聖都モリガニアにて研鑽してた頃からあの子、隠してはいたもののメチャメチャに図に乗るタイプでしたよ」
「マルティナ……? ほ、本当ですか、それは。私の知る限り、幼い頃のアレクサンドラにはそんな素振りは、少しも」
「あっはははははは! あなた相手にそんなところ見せるわけないじゃないですか、あの子が! 委員会の手先だったということを除いたって、あなたはあの子にとって師匠、いえ母親みたいなものなんですよ? そうでなくとも私くらいにしか見抜けないほど精巧に隠してたのに」
「アーデルハイド、アンタ……アレクサンドラの本性に気付いてたってのかい?」
他ならぬ師匠の神谷さんでさえ、見抜けなかったアレクサンドラの側面。調子乗り……その表現は、彼女の顛末を見届けた俺からしてもうなずけるものだ。
いやだって、プレーローマ・アンドヴァリになってからのアレクサンドラは思いっきり調子に乗ってたもんなあ。天狗鼻とか、増上慢って言葉があそこまで似合うモノを見たことがないくらいに思い上がっていたもの。
そうした本性を、ずっと隠してきたがゆえに六代目聖女になれたのはすでに誰もが知るとおりだ。だっていうのにアーデルハイドさんはもうずっと前から、そんな部分を多少でも見抜いていたという。
俺やヴァールに違和感を覚えていたところからも分かっていたけど、すさまじい繊細な感性だ。ナチュラルな視座の高さも含めてこの人、見ている世界が他の人とはまるで異なっているんじゃないか?
さしものマリーさんさえ困惑して、アーデルハイドさんに問いかける。
彼女はたおやかに微笑み、そしてうなずいた。
「本性というか、素の性格は良い子ちゃんなだけじゃないだろうなーってくらいには。さすがにそこまで悪辣だとは思ってもいませんでしたよ。もしそこまで分かってたら……」
「……ええと、分かっていたら?」
「あははは! もちろんその時点で殺してましたよ。我らダンジョン聖教に取り憑きし寄生虫、不倶戴天の輩など野放しておく理由がありませんので。ギリギリ私が引退する前までなら、差し違えてでもアレを始末できたと思いますからね」
「怖ぁ……」
いや怖いよ!! 急に暗い影を落とした微笑みに慄く。
そ、そういえばこの人も相当な武闘派聖女なんだ。何しろダンジョン聖教騎士団の初代団長なんだもんな!
しかも引退する直前までなら、当時すでにS級だったろうアレクサンドラ相手に相討ちできるとまで豪語している。
もはや何もかも物騒だよ。突然血腥くなってきた教会内の空気に俺ちゃん、つい固唾を飲んじゃいました。
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