攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
すみませんー
急に物騒になるやん。
にこやかな笑顔の落ち着いた風貌ながら、アレクサンドラに対してはナチュラルに怖いことを言い始めたアーデルハイドさんに場の空気が若干凍る。
もしも、あの女の裏の顔にもっと早く気づけていたら……その時点でこの人は粛清に動いていた。たらればだけど本当にやっていただろうと思わせるだけの、発言に込められた威力を感じずにはいられないよ。
なんなら言っちゃってるしね、現役時代ならどうにかアレクサンドラ相手にも相討ちにまで持ち込めたかもって。
腐ったとて彼女は紛れもなくS級で、師匠の神谷さんさえ超えていた超一流の探査者だ。そんなのを敵と想定してなおそこまで言い切れるあたり、やはり往年のアーデルハイドさんの実力ってのはすごかったんだろうね。
「……まあ、私が引退したのがえーっと50手前くらいでしたから、アレクサンドラの活動時期とはまるっきり被ってないから絵空事なんですけどね! あはははははは、そのくらいあの女のことは許せないってことでひとつ」
「でしょうね。私がアレクサンドラを引き取ったのは、あなたが引退してから10年近くも後のこと。それでも……聖女時代までのあの子相手になら、勝てはせずとも痛打は入れられるでしょうけど」
「というか、今でも最低限以上には鍛錬していらっしゃるでしょう、アーデルハイドさん。70代も半ばにしては、高レベル探査者だったとて驚くべきほどの仕上がりようです」
「還暦になってもなおS級最上位クラスのサウダーデくんに言われると、なんだかむず痒いですねえ。仰るとおりで今でも時々、個人所有してるC級ダンジョンで毎日欠かさず運動してますよ。せっかく身につけた我が聖女殺法に聖王剣、錆びつかせるのも勿体ないですしねー」
「怖ぁ……」
いや今もモンスター相手にしてるのかよ。個人所有のダンジョンでと言ってるあたり現役は完全に退いて、本当に軽い運動気分なんだろうけどにしたって毎日探査してるのはあんまりにもお強い。
道理で引退して久しい方にしては若々しく、かつ鍛えられていると思ったよ。サウダーデさんほど見抜けた自信はないけど、動き方が神谷さんよりキビキビしてるものな。
そしてここでも出てきた聖女殺法。そして聖王剣……歴代聖女に代々伝わるオリジナル戦闘術で、それこそアレクサンドラやシャルロットさんが使っているのを見たことがある。
当然神谷さんも使えるんだろうし、アーデルハイドさんだって使えるんだろうさ。発祥は二代目のラウラ・ホルンさんって話だから初代だけどエリスさんだけは使えないんだろうけどね。
「こないだの事件以後、急にシャルロットがやって来て聖王剣を教えてくれとか言い出しまして。いやーこの年になっても鍛えといて良かったなーってつくづく思いましたよ。ある程度の事情はその際に美穂からも聞きましたし、こちらとしても教えない理由もありませんのでみっちり仕込みましたとも」
「あ、最近なんですね。シャルロットさんにあの剣技を教えたの……なんでもアーデルハイドさんは、全盛期にはマリーさんとも並ぶほどの剣士だったって話ですが」
「あー……そのへんのことを言い出すとそこのマリアベール先輩がムスッとしかねないのであまり触れないでもらえます? すみませんねマリアベール先輩ときたらもう、まったく」
「人聞きが悪いね! ムスッとしとったのはアンタだろうが、一々遠巻きにビビってきやがって! 昔っからそこだけは腹に据えかねてんだよ、アーデルハイド!!」
「えぇ……?」
シャルロットさんに剣技を教えたって下りで、そう言えばと前に愛知さんから聞いた話を思い出す。
往年の全盛期、45年前の第五次モンスターハザードにおいてはなんとこの方、あのマリーさんと互角だとさえ言われるほどの剣士だったそうな。
そのへん素で気になるので聞いてみたところ、何やらそのマリーさんとの間でバチコリ言い合いが始まってしまった。怖ぁ……これ俺のせいなんですかね。
あわわひわわどうしよどうしよと内心焦っていると、ため息交じりにヴァールとエリスさんが双方取りなしてくれた。さしもの傑物剣士二人も、それさえ上回る正真正銘のレジェンド達の言うことは聞くんだな。
「やめろ、二人とも。実際、一時期お前達二人こそが世界最高峰の剣士だと囃されていたのは事実だが、どうあれもはや遠い過去の話だろうに」
「ハッハッハー、ていうかアーデルハイドくんはやっぱりマリーのことが今でも全然苦手なんだねえ。昔っからそんな素振りしてたけどもさ」
「あはははははは、そうなんですよ初代様。もー昔っからやることなすこととにかく粗暴で雑なこの先輩に、どうすれば接近しなくて済むかってそればっかりで! 統括理事とは別の意味合いで苦手ですね、隙あらば絡まれそうですし」
「公平ちゃん、聞いたかい今の? こいつ結局こうなんだよ昔から。態度こそそれなりでも腹の底じゃ、他人に自分のことをどうこう言われるのが嫌な質なのさ。今風に言えばパーソナルスペースが異様に広いんだ。例外はコイツの家族と神谷、もういないけどラウラさんくらいさね」
「あ、あー……そういう、なるほど」
けらけら笑うアーデルハイドさんに、舌打ちさえして俺に説明してくるマリーさん。その内容になるほど、と俺は密やかに得心をいかせた。
つまるところ自分を邪魔してくる人、自分なりの快適な空間を踏み越えてくる人がとことん苦手で、できれば近づきたくないんだな、この方は。
もちろん、それ自体は誰にでも当てはまることだし悪いことでは全然ないんだけども。
アーデルハイドさんの場合はなまじ聖女然とした振る舞いが表面上はあるから、内面とのギャップが強くてそこが周囲の印象に残りがちなんだ。
あ、この人明るいしお友達になりたい! って思って距離を詰めた途端、一気に距離を取ってくるタイプなんだな。
俺の感覚で言うなれば……そう、本質的には内向的な陽キャというべきか。
気さくで人好きする態度はあくまで他所向きであり、内面はパーソナルスペースが非常に強固かつ広めな方なんだろうね。マルティナ・アーデルハイドという方は。
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