攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
実は意外とパーソナルスペースが広くて、特にあれこれ口出しされそうな相手とは全力で距離を取りがちらしい三代目聖女マルティナ・アーデルハイドさん。
マリーさんからのそうした評にもやはり、彼女はたおやかに朗らかに笑って受け応えしていく。
表面上は友好的で、マリーさんとも友人って感じのやり取りに見えるんだけどね……言われてから見てみると、なんだか目が笑ってない印象も受けるから怖い。
いやまあ、別に内心は人の勝手なんだからそこは良いも悪いもないんだけどね。アーデルハイドさんとヴァールやマリーさんの相性が悪いってのは、それはどちらがどうとかって話ではないだろうしさ。
「人聞き悪いですねえ、マリアベール先輩ってば。たしかにそりゃあ、私にとっては家族と美穂、フローラ、ラウラさんこそが身内で後はみんな外様というか、まあまあ話せる人とあんまり話したくない人と絶対近寄りたくない人しかいませんけど」
「極端な方ですねえミセス・アーデルハイドは。それでも外向けの態度はたしかに聖女としての思いやりや温かみがあるのは、それも演技ではないでしょうに」
「そこはもちろん。特にダンジョン聖教の良き人々には優しさこの上ないですよ、あははは! 自分でもいい加減理解してるんですけどね、私ってば私に優しい人に優しくしてたい人なんです。だから私に優しくない人には、なるべく優しくしますけどできれば離れていたいんですよ」
「そ、そうか。ずいぶんあけっぴろげだが、それだけに本音であることが伝わってくるな」
きっぱりと、ベナウィさんへと言ってのけるアーデルハイドさんにヴァールさえタジタジだ。なんというかものすごーくあけすけに語ってくれたなあ。
自分に優しい人には優しくする。優しくない人には、なるべく優しくするけど基本は離れていたい。結構すごいこと言ってる気はするんだけど、声色や穏やかな様子もあってどこか愛嬌というか、こちらへの気遣いさえ感じさせるのはこの人の人徳だろう。
畢竟、それがアーデルハイドさんの処世術なんだ。ダンジョン聖教の聖女として、あまねく人に優しくしないといけないけど無理な人もどうしてもいる。
そのなかで自分なりに折り合いをつけた、世のなか全体に対してのスタンスがこれなんだろう。それを否定することはできないししたくない。
そも、自分の好き嫌いを誰かにとやかく言われるのもどうなのって話だからね。
「後はまあ、そもそも人間とは異なる領域にいる方も個人的には、ちょっと……さすがにこれはあまりに私情すぎて、統括理事や山形さんには申しわけないんですけれどね」
「うん? まあ、そこは仕方ない。無理に受け入れろ肯定しろなどとは言わないさ、そうした考えも理解できるからな」
「そうだなあ。そればっかりは人それぞれだ。全員に絶対好かれるようなもんでもないし、むしろ尊重してもらって恐縮なくらいですよ」
まあ、それとは別枠で俺やヴァールみたいな純粋に人間じゃないようなのも苦手みたいだけど、それは彼女の信念ゆえのことだと分かっているからこちらも何も言いはしないよ。
人の世は人の手に、っていうのは至極当然だし筋の通った理屈だもの。それを持ち出されては、都合により世界を好き勝手してきた俺達としては反論する気にはなれないからね。
ただ、神谷さんはさっきからなんというか百面相的な反応を示している。怒ったり不安がったり緊張したり、当のアーデルハイドさんよりよほどハラハラしていらっしゃるよ。
終いには当人に直接、苦言を呈し始めるほどだった。
「マルティナ……あなた個人の感覚は私にも是非を問いかねますが、しかし何も御本人方相手に言ってしまうことはないでしょうに。すみませんヴァールさん、山形さん。三代目ときたら年老いてますます失礼になってしまいまして」
「いや、気にしないでくれ本当に。ワタシとしてはここまでまっすぐに言われると、むしろ小気味良いほどなのだ。そうした意見もあってこその人間だからな。そうだろう?」
「俺も大丈夫、失礼になんて思いません。アーデルハイドさんが悪い人ではないことは、この短い間のやりとりでもよく伝わってます」
「いやあ、そう言われるとそこはかとなく罪悪感ありますね、あははは! ……三代目聖女として、探査者としては深く感謝と敬意を抱いていますよ。これも本当のことです。まああまりそりが合わない人もなかにはいるってことで、平にご容赦くださいな」
「一方的にそり返ってるやつがよく言うよ。ったく……」
アーデルハイドさんも、殊更強く俺達を拒絶したいわけじゃない。だけどどうしても合わないところはあるので、そこは申しわけなさげにしているね。
本当に気にしなくていいのに。マリーさんも溜息を吐いてはいるけど怒ったりしている様子もない。サウダーデさんやベナウィさん、エリスさんももちろんだ。
ここまでストレートな物言いでも、不思議と不快感とかがない人柄。どこかこちらを気にしてくださる声色や仕草が言動の強さを和らげているとすれば、これもまたコミュニケーション能力の高さを示していると言えるだろう。
マルティナ・アーデルハイドさん。聖女としての優しさと騎士団長としての強さ、そして人間としての気高さをも持ち合わせ続けるこの人は、まさしく女傑と呼ぶにふさわしい方だと言えた。
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