攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
世界の真実まで含めた様々な事柄を、アーデルハイドさんと共有してやり取りできた。気づけば割ともう夕暮れ時で、そろそろ帰らないとお夕飯に間に合わなくなっちゃう頃合いだ。
そりが合わない、と断言されたもののやはり物腰は穏やかで友好的なアーデルハイドさんとはしばらくお話させてもらっていたけど、そろそろお暇しなくっちゃね。
「すみませんが、そろそろ家に帰らないと夕食に間に合わなくて……今日はこのへんで失礼しますね、アーデルハイドさん」
「ああ、そういえばすっかり日も暮れつつありますね。なんだかんだと話し込んじゃいました、こちらこそ気遣いできずにごめんなさい」
「…………といいますか三代目様、ものすごく山形さんと話していましたね。その、こういう言い方は双方に失礼かも知れないのですが、少なくとも御身は苦手意識を抱いておられるはずでは?」
「ハッハッハー、とてもじゃないけどそりが合わない相手とは思えないくらい話し合ってたねー」
失礼のないように挨拶すれば、微笑みをもって応えてくださるアーデルハイドさん。その表情、仕草言動からは、とてもじゃないけど俺やヴァールに対する苦手意識など感じさせないものだ。
思わずシャルロットさんとエリスさんが聞いてくるくらい、この人は自分の心情とか感覚を隠しきっていたんだ。
これはヴァールも長年関わっていてなお、薄々しか悟れないはずだよ。ものすごい対人スキルに恐れ入る心地だ。
当たり前だけど人生、生きてて苦手な人とやり取りすることなんてしょっちゅうある。俺だって春先の関口くんとか苦手だし、他にも合う合わないで言うと合わないだろうなーって気質の方は多少はいるよ。
そういう相手に対してまで、なるべく苦手だと気づかれないようにしつつも距離を保って友好的に接することができるのは、シンプルにコミュ力高いんだよね。
そのへんの態度の極意とかコツとか聞けるのかなと俺も耳を傾けていると、アーデルハイドさんはあっけらかんと豪快に笑ってみせていた。
「あはははははは! そりゃあ苦手ですけどシャルロット、それと好き嫌いは別ですよ人間というものは。私はたしかに山形さんのこともヴァールさん同様苦手ですけど、それはそれとして人としては好感に値する素敵な方だと思っています」
「え……え、と。苦手というのは、嫌いというのとほぼ同義なのではないかと思うのですが」
「ノンノン。好きだけど苦手、嫌いだけど得意、そんな事柄はいくらでもあるものですよ? 対人関係にかかわらず私達は、自身の好き嫌いや得手不得手さえまともに制御できないものなんですから」
「昔から自分の気の赴くままに動いてきた、あなたが言うと説得力が違うわね、マルティナ?」
神谷さんのからかうような、親しげな色合いの言葉にも楽しげに笑う。アーデルハイドさんの言葉は明るく元気でシンプルだけど、裏腹にどこか深い人生訓のようなものが潜んでいるように聞こえた。
混同しがちではあるけど、たしかに別だな……人間関係だけじゃなし、好んでいるけど不得意なこと、厭うているけど得意なことってのは俺にも思い当たるところはある。
今のところ、彼女が俺に抱く感覚もそうなんだろう。コマンドプロンプトであり人間を3割逸脱してる点については苦手だけれど、それはそれとして山形公平個人に対しては好感を抱く、と。そう感じてくださっているんだね。
ぶっちゃけヴァール並に嫌悪されるまで予想してたからありがたい話だ。一面のみを見て決めるわけでない、視野の広さとどこかフェアネスな優しさがアーデルハイドさんの一番のすごいところだね。
「んー、まあ分かるよエリスさんも。そういうのに振り回された人も、いくらか見たことがあるし」
「シャルロットちゃんもこれから先、生きていけば嫌でも分かるだろうねえ。ファファファ! なあに要は自分に素直になることさね。好きでも嫌いでも、とにかくそこが肝心要さ」
「あはは、年の功! ……ま、そういうことですよシャルロット。感情なんてどうしたって裏表あるものなんですから、大事なのはそんな自分をどう解釈するかです。あなたはまだ幼いんですし、ゆっくりと考えていけば良いですよ。自分なりに、自分だけの感覚でね」
「は、はあ。ありがたいお話、どうも」
エリスさん、マリーさんと人生経験豊富なお二人が続けて語れば、シャルロットさんもピンと来ないながらもなるほどとうなずく。
こればかりは生きてみないと分からないことなんだろう。かく言う俺も、まだまだこれから人生は長いからね。
少しずつでも生きていくなかで、いろんな経験を積めていけたらいい。良いことでも悪いことでも、様々な物事を体験していければいい。
そのなかで感じたすべてが、また新しい自分を見つけることにつながる。その繰り返しで誰もがみんな、ちょっとずつ前に進んできたんだろうね。
「山形さんもですけど、無理しない程度にやっていってくださいね。楽しくても楽しくなくても、やってるうちにそのうち見えてくるものはありますから」
「ありがとうございます、アーデルハイドさん」
「どういたしまして。あはははははは、ヴァールさんよりはやっぱり大分、人間的ですねあなたは。変に人の世を引っ張るとかしださなければ、苦手であっても好きにはなれそうです」
「救世の光……いや、アレは厳密には伝道師と使徒が暴走しているだけだからカウントするのも不憫か……」
「そこには触れないでくれ、ヴァール……ややこしくなるから……」
素敵なアドバイスをいただき、距離感はあれどそれなりに丸く収まろうってところに、ヴァール!
君と来たらすぐに救世主なんちゃらなんて持ち出すんだ!
幼気な肩を叩いて、ヴァールを静かに穏やかに諌める。二人して例のカルトを思い浮かべて微妙な顔をしていると、それが面白かったのか周囲の人達はみんな柔らかく声を上げて笑うのだった。
いや当事者からすると怖ぁ……なんですけどもね!?
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