攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
ちょっとしたメロドラマみたいなシーンを繰り広げた俺と香苗さん。とはいえもう夜更けだし、ほどほどのところでお互い、顔を真っ赤にしてそそくさと解散して、寝た。
ちなみにあのあと、特になにか、こう、あれなことをしたわけではない。マジでだ。ていうかそんなことしたら香苗さんが捕まる。俺、15歳ぞ?
寝起き、爽やかな日差しを浴びつつ起きる。なんとなし、昨日の香苗さんとのやり取りを思い出して勝手に一人、顔を赤くしながら朝風呂へ。
更衣室でスッポンポンになって風呂場へ。身を清める際、洗面台の鏡に映った俺自身を見る。ううむ、三ヶ月前に比べて筋肉バッキバキ。童顔気味な顔とアンバランスで若干キモい気がする。つらい。
「……うん?」
ふと、昨日、香苗さんと抱きしめ合ってた時にしてもらったおまじないの痕が、妙なことになっているのに気付く。
えっ、これっていわゆるナントカマーク? やだぁ〜とか思ったものの、なんか違う気がする。小さな小さな、けれど目を凝らすとやたら複雑に刻まれている、何かのマーク。紋様?
「なにこれ怖ぁ……」
カリカリと掻いてみるけど、まあ落ちないよね。特に害はなさそうだし、そもそも香苗さんのしてくれたことだろうから何かしらの良いおまじないなんだろうけど、不安は不安だ。
風呂上がり、10時に俺の部屋に集合って話だったな、たしか。その前に香苗さんに聞いてみようか。
そう思いながら、俺は決戦前の最後の湯浴みを済ませた。
部屋へ戻る途中、香苗さんやリーベにマリーさん、リンちゃん、ソフィアさんと出くわした。どうやら女性陣も最後の朝風呂を堪能するつもりのようだ。
こうなるとベナウィさんも入ればいいのに……とは思うものの、あの人たぶん、ゆうべも酒飲んで寝てたろうしな。どのみち集合時間にはまだまだ余裕があるんだし、寝かせといてあげよう。
さておき、声をかける。
「おはようございます、みなさん。雲一つない晴れで、決戦日和って感じですね」
「ええ、おはようございます。公平くんは昨日、よく寝られましたか?」
「はい。もうぐっすりですよ!」
まあ、ちょっとあれこれあったから若干、寝付けなかったのはあるんだけどね!
香苗さんは昨日のことなんてまるで気にしてないように、いつもどおりの自然体。大人だぁ……
俺だけがあたふたしてるみたいで、ちょっと複雑ではあるけれど。
これなら気兼ねなく聞けるかなと、俺は香苗さんに気持ち、小声で聞いてみた。
「ところで、あの〜香苗さん。昨日のぉ、あの、ぉ、おまじないって……あれ、何のおまじないなんでしょう……?」
「…………っ」
「か、香苗さん……?」
澄ました顔だった香苗さんが、途端に顔を染め上げていく。どうやら、落ち着いた大人の姿ってのは仮初の、取り繕った姿だったみたいだ。
お互いに顔を赤くする俺に、他の女性陣は何かを察したみたいで、同じく頬を染めたり興味深げにしたり、ファファファと笑っていたりする。うわぁ、恥ずかしい……
香苗さんもこの、生暖かい目には耐えかねたみたいでそそくさと、俺の唇に人差し指で、まるで口留めみたいにタッチして囁いた。
「な、ナイショです……あのおまじないは、本人が内容を知っていると機能しないんです」
「えぇ……?」
「しないんですっ。ミサンガみたいなものです、気にせず、お守りくらいに思っておいてくださいっ」
照れ隠し全開の、ツンとした態度がいつになくギャップがあってかわいい。この人、これで狙ってなかったらすごい人だよ?
とにかく、その場はそれで誤魔化されてしまい、女性陣は温泉の方に向かってしまった。うーん、お守りとかミサンガかあ。走ってたらなくなるのかな。
さておき、そんなもんかと自分を納得させて自室へ戻る。ここからあと数時間、フリータイムだ。
今日中には世界の命運を懸けた戦いが始まって、たぶん終わるんだよな……我がことながら、ちょっと嘘みたいな話だ。たった三ヶ月でこんなことになるなんて、探査者になりたての頃には思いもよらなかった。
去年の今頃、受験生だった俺に一年後こうなるよって教えたところで、怖ぁ……としか言わないだろう。ていうか今でも言うかな。怖ぁ。
「……終わったら、夏休みか」
この戦いが終わったあと、俺がどうなってるか、みんなが無事でいられるのかは分からない。けれど、負けることだけは考えない。
ここで負けたら、すべてがなくなってしまう。だから、勝つことだけを考える。勝ってからその後、取り戻した平穏をどう過ごすかを、考えていく。
夏休みにはやりたいことがたくさんあるんだ。
クラスメイトと遊びに行きたいし、家族旅行にも行きたい。ダンジョン探査だってしたいし、香苗さんにも実家に来ないかって誘われてる。いや、それは正直、気乗りしないけど。
とにかく、俺にはやりたいことが山積みなんだ。予定はいくらでも埋めていきたい。
だから……こんな戦いはさっさと勝って終わらせて、これからの未来を生きていかないとな。