攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

219 / 2046
端末の最期

 眩い光が香苗さんから放たれて、同時に何かがパリン、と割れる音がした。小さく響く、たしかに聞こえたその音。

 かすかと言っていいようなそれは、しかし劇的なまでに端末の顔色を返事させた。香苗さんの最終決戦スキル《究極結界封印術》の効果がなんであるのか、即座に察知したのだろう。

 

「────は? え、嘘。僕の、僕の天地開闢結界が? ……な、何が起きたっ!?」

「第一段階、クリアか。最低条件ではあるが同時に、必須条件でもあった箇所だ。まずは何より、だな」

「くそったれインチキ結界も、これでしばらくおさらばです! いけます! いけますよ公平さん、みなさん!!」

 

 まさしく血相を変えて騒ぎ出す邪悪なる思念に、ヴァールとリーベがそれぞれテンションは違えど、たしかな手応えを感じたようだった。

 しかし俺としてはそれより先に、香苗さんの様子が気になった。維持することが求められるスキルだ、消耗のペースによってはタイムリミットが厳しいことになるかもしれない。

 

「香苗さん、《究極結界封印術》の負担は大丈夫ですか? 持続させるとして、どれくらい持ちますか?」

「……キツくはありませんが、集中していないと乱れかねない程度には神経を使いますね、これは。体力的には問題ありませんが、戦闘は不可能です!」

 

 発動したスキルの影響か、身体から虹色の光を放つ香苗さん。どうやら体力を使い続ける類の効果ではないようだけど、集中力は要るらしい。戦闘不能というわけか。

 なるほど、ヴァールが護衛に付くのはそのためなんだな。天地開闢結界を無効化中、完全に行動不能になっている彼女をあらゆる危険から守る、いわば守護者。

 

 そう、ちょうど今のように。

 

「そこの女かっ!! そいつが僕の、僕の無敵の力をっ!!」

「《鎖法》、鉄鎖激流!」

 

 当たり前だけど目の前で香苗さんの行動を見たんだ、彼女を止めるべくして端末が、飛びかかってくるのは分かりきっていたことだ。

 そこをヴァールがカウンターを合わせた。リンちゃんとの戦いで見せた、《鎖法》。右腕からやつに向け、無数の鎖を放射状に解き放って迎撃する!

 

 香苗さんを害すること以外、頭になかったらしい端末にそれらがモロに直撃した。

 天地開闢結界が無効化された結果が、さっそく目に見える形で出ている。やつに、攻撃が通っている!

 

「くっ!? 生意気な、負け犬がぁっ!!」

「端末に用はない。精々、本体に戻って首を洗っていることだな──ギルティチェイン・ジャッジメント!!」

「っ、ぐっ……あ!!」

 

 数え切れない鎖の連撃を、それでも跳ね除ける端末に……予測していたように、左腕から放った特大の鎖が一撃。やつの腹部を貫いた。

 あっけなく腹に大穴が空き、端末は盛大に血を吐いた。モンスターではないということなのか、粒子にならず、血も吐けば内臓だって見えてしまっている。明らかな致命傷。

 

 けれど、こいつは所詮、邪悪なる思念の端末にすぎない。本体がいる限り何度でも蘇るのだろうし、今ここで端末を倒したところで、意識自体は本体に戻るのだろう。

 それを死と言って良いのか分からないが、死の直前。端末は、俺を見て皮肉げに笑った。

 

「く、くく……! これが、君の、選択か」

「……そうだ。これから俺は、お前の本体を倒しに向かう。待ってろ。これまでの行い全部、反省させてやる」

「っははは……それは、たの、しみ、だ。じゃ、あ。ま、と、くよ……ふ、ふ。がはっ!」

 

 どこか淋しげに、血を吐きながら囁いて。邪悪なる思念の端末は俺たちの目の前で息絶えた。

 端末とはいえ、敵とはいえ……何度か話した者がこうして死ぬのは、嫌なもんだな。

 ヴァールが鎖を引き抜いた。どさり、と倒れる端末の亡骸。真っ黒な床に鮮血ばかりが溜まり、広がる。

 気に留めず、リーベが声高に俺たちへと言った。

 

「さあ、こうなったからには一刻の猶予もありません。第一段階である天地開闢結界の無効化には成功しました、次は三界機構の各機撃破です! スピード勝負です、行きましょう!」

「手はず通り、ワタシと御堂香苗はここで待つ。あとは任せるぞ、みんな」

「分かった。でも、その前に一つだけ──《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》」

 

 迫る、三界機構との決戦。ついに始まった戦いだけど……俺は少しだけ、わがままになってみた。

 《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》。アドミニストレータ用スキル《風浄祓魔/邪業断滅》を、どうやってか改造して生まれたスキルだ。

 

 本来ならば、邪悪なる思念によって生まれた命を、再構成して無害なものに変える能力だが。端末の命、魂と呼ばれるものは本体に還っている。

 目の前の亡骸は、もはやただの肉塊にすぎない。スキルを使ってもおそらくは、消し去るくらいにしかならないだろう。

 

 けれど、このまま放置して先に行くのは悲しすぎる。どんなものでも、死は丁重に扱われるべきだと思いたい。

 だから俺は、このスキルで端末の体を綺麗に葬った。塵一つ残さず消して、少しの時間だが、みんなを待たせてしまったことを詫びる。

 

「……終わった。ごめんなさい、みなさん。勝手をしました」

「ふふ……良いってことですよー。そんなあなただから、みんながここにいるんですから」

「ファファファ! ま、底抜けにお人好しなのは善し悪しだけどね。でも公平ちゃんみたいなのが一人は、いる世の中でいてほしいさね」

 

 リーベも、マリーさんも、優しく俺を許してくれた。他の人たちも、笑顔でいてくれる。

 本当に……ありがたい人たちだ。泣きそうになる。お人好しは俺なんかじゃない、あなたたちのことを言うんだ。

 

「ありがとうございます。それじゃあ、行きましょう!」

 

 この素晴らしい人たちが生きる世界を、必ず守る。

 決意も新たに俺たちは、御堂さんとヴァールをここに残して駆け出した。




最終決戦も書き終わり、あとはエピローグを書いたら本編終了って感じになりました
ので!
今日から毎日4話投稿します。7時、12時、18時、21時更新です
どうか最後までお付き合いください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。