攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
ピタリと止まるゴブリン達。いやゴブリン達だけではない、部屋内のすべて、あらゆるものが静止している。
風に舞うわずかな砂埃などさえ、宙空で止まっているのを見ればそれはおかし三人娘や精霊知能達にもよく分かることだろう。実際はさらに空気や温度、微粒子から原子から素粒子に至るまでの何もかもが……すべて俺の用意した仮想領域に阻まれ、一時的に完全停止しているわけなのだが。
「え……え、ええ? アレ、何が一体」
「ゴブリンの動きが止まってる……だけじゃない、のかしら? 先生は今、何かをなさったように見えたけれど」
「最初の一声、動くなって言葉でゴブリンはすでに止まってましたけど……その後の宣言、いえ詠唱? で今度は、空中の砂埃まで不自然に止まった? 何これ、起きてる現象が違和感ありすぎて気持ち悪い……」
部屋の外からこちらを見ているおかし三人娘が、口々に驚きや困惑、そして疑いの声を漏らすのが聞こえた。
今、この部屋のなかでのみ時間は止まっていて外の空間は特に変わらずだからな。彼女らもこの部屋に入っていたらまとめて停止していたけれど、そうでないので俺が引き起こした事象をバッチリ観測できているわけだね。
とはいえ、理解はできていないみたいだが。当然だ、俺が一声二声喋っただけでこんなことになるんだから、はっきり言って怪現象だわな。
ガムちゃんなんかはどうにか分析しようと思考を整理しているみたいだけれど、通常ありえないことが起きているがゆえに拒否反応というか、薄気味の悪さは感じているようだ。鋭敏で聡明な感覚で何より。
おなじく三人娘とともに成り行きを見ていた、リーベとシャーリヒッタも無論のこと事態を観測している。
こちらは精霊知能ゆえ、当然何が起きたか俺が何をしたのか把握しているな。顔を青ざめさせて、おかし三人娘へと忠告と解説をしてくれていた。
「おかし三人娘、絶対に部屋ンなか踏み込むンじゃねェぜ……まあそもそも封鎖されてっからできねェだろうがよ」
「……精霊知能のお二人には、先生が今していることがなんなのかお分かりになるのですか?」
「モチのロンですー……とはいえすごすぎて、若干気持ち悪いのはガムちゃんの感覚とそう異なってませんけどー。公平さん、部屋のなかに限って時間を、いいえ世界そのものを停止させちゃってますー」
「時間、じゃなくて世界そのものを停止……?」
迂闊に部屋に近づくなという忠告を放つシャーリヒッタ教官と、俺に代わって説明してくれているリーベ先生。おかし三人娘も何が何やらって感じながらも字面からそれなりに大層なことが起きているのは理解したか、まとめて一歩後退って距離を置いた。
そうとも、さすがだなリーベ。俺の世界停止についてはすでに知っていたろうが、実際に目の当たりにして即座にそのプロセスまであたりをつけるとは。
世界停止。因果律管理機構としての俺が行使できる権能のなかでも、特に難易度が高いいわゆる奥義とかそんな感じの業である。
これは時間を停めるだけに留まらず、世界そのもの──システム領域から概念領域から現世から何まで含めたすべての事象を停止させる権能なのだ。
リーベが俺が今、この部屋限定で行なっていることを詳らかにしていく。
「因果を操り、自らだけの仮想領域を形成して……! 今あるこの世界の時間と空間の流れに割り込ませてますー! ご、強引に世界そのものを一つの連続体と定義づけることで、その連続する線の刹那、点と点の間に自分だけの世界を代入する世界停止!!」
「しかも父様のいる部屋に限っての処理かよ!? めちゃくちゃだぜ! こんなこと精霊知能でもやったら最後、権能の出力に焼き尽くされて魂ごと消滅してもおかしくねェ!」
「単なる時間停止だけでもすさまじいのに……こ、こんなことして公平さん、ご無事なんですかー!?」
「おー。ちょっと負荷はかかるけど問題ないぞー」
世界を、一つの連続する流れと仮定してその狭間に"自分だけの世界"を代理挿入する。割り込みって感じかな。
前にも悪魔相手にやったり、なんなら文化祭の時に使ったりしたね。あの時は相手が先に時間を止めてるなかだったり、そもそも世界そのもの丸ごとに割り込んだ形になってたりしたよ。
比べて今回はこの部屋限定なもんで、俺にかかる負荷は著しく低いから助かる。神魔終焉結界で問題なく緩和もできてるからね。
──もっとも、世界停止により部屋の内外で生じる歪は、世界そのものを停めるよりもはるかに強烈だがな。
外から見ている彼女らに、静かに告げる。
「コマンドプロンプトとしての俺の奥義、それがこの世界停止なんだけども。理屈はリーベが今言ってくれたとおりだしあんまり難しく考えても仕方ないところなのでそこは置いといてもらって」
「いや、ハチャメチャでしょパイセンそれは……とんでもないこと平気でしたみたいですけど、それを気にするなって……」
「今、この部屋の内側と外側では時空間の流れに差が生じている。歪んでいるんだけど……ここからが本当の意味で俺の奥義、あるいは必殺技ってやつになるかな? 滅多なことで使わないし今回がまともに使うの初めてになるから、念のため少し離れておいてほしい」
「ッ!! おかし三人娘、リーベ! マジでヤベーぞ今すぐ下がれッ!!」
軽くやり取りしつつもガチめに警告する。もちろん被害が及ぶことはない規模だと演算できているけど、まあ念のためね。
ドン引きしていたガムちゃん達に、即座にシャーリヒッタがリーベごと叫んで後退を促した。さすがに粛清担当なら分かるよな、これから俺がやることの威力を。
世界停止により本来の流れと異なる時空間が割り込まれたこの部屋のなか。つまり外側との間に数分だけながら差が、歪みが出ていることになる。
そして時空間はそうした歪みを感知した場合、急速にそれを修整して補修する特質を持っているのだ────その特性を利用しての、これが私の最大火力。
「《世界停止を解除する。歪みは糺され、すべて流れは正しきものへ》。名付けるならば、そうだな。シンギュラリティ・コラプサー、ってところか?」
おもむろに手を開けて、握る。そして文言とともに世界停止を解除する、瞬間────部屋のなかのすべてが歪み、捻れ、そして爆発的な振動と衝撃に包まれた。
すべて無音のままだ。何一つ音を立てずして、しかし部屋のなかの何もかも、原子から素粒子に至るまで俺を除いて崩壊していく。白と黒の混沌に、飲み込まれていくすべて。
ゴブリン達も例外ではない。というか、解除した瞬間に歪に呑まれて即座に光の粒子となって消え果てた。魂はもちろん輪廻へと還っていったよ。
そのまま数分、まさに俺が世界停止を行なっていた時間分だけ崩壊が続いていく。少し離れた通路から、精霊知能とおかし三人娘の呆然とした様子がこちらから微かに見えていた。
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