【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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それは血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ

「よっこいしょぉー!」

「ぐぎゃあ!?」

 

 襲いかかってきたゴブリンを華麗に避けて後ろに回る。そのまま背後から胴体を両腕でがっちりホールドすれば、後はブリッジを極めるだけ。

 いわゆるバックドロップだ。シンプルながら美しいアーチを描く形で相手を仕留めるこの技は、難易度の低さもあってかそれなりに使用頻度が高かったりする。

 

「く、げ……えぇ……」

 

 倒れたゴブリンがいつものように粒子になっていく。

 その顔はどこか安らかだ。まるで、苦痛から解き放たれたかのように。

 思えばモンスターってのも、元々そこにいただけなのに人間に侵入されてやっつけられるんだ。いくらダンジョンが生み出す疑似生命体という説が濃厚といっても、考えれば考えるほど、なんだか複雑な気持ちにもなってくるなあ。

 

「これで、後は最奥だけですか。時間にして10分足らず。驚異的な速度ですね」

「タイムアタックしているわけじゃないですけどね。今日はあと二つ、探査しないといけないダンジョンがあるんだし、サクッと行けるならサクッと行きますよ」

 

 御堂さんが毎度ながら、実に分かりやすい尊敬の視線をよこしながら褒めてくれる。かなりのスピードで最奥まで辿り着いたことに、驚いている様子だ。

 実際、佐々木さん家のダンジョンに入ってまだ10分程度しか経ってない。部屋に入る度に現れるモンスターたちなんてもう、俺の敵にもなりゃしないんだ。

 

 すべては概ね、称号とスキルで得た効果がすごい。

 これまでのダンジョン踏破で鍛えられてきた身体能力が、スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》の効果で10倍。

 おまけにスキル《救いを求める魂よ、光と共に風は来た》の効果であらゆる格闘攻撃の威力10倍以上と諸々合わせて実質、モンスター相手に一人で戦う時の俺の戦闘力は、元々の実力のなんと100倍以上にもなる計算だ。

 おう、インフレしたソシャゲか? 後はサービス終了待ったなしか?

 

「しかし正直、E級でも持て余しそうな気はしますね、ここまで来ると」

「間違いありませんね。私の見立てでも、今の公平くんは単純な戦闘力では既に、B級トップランカーからA級の中堅層までくらいには食い込めているように思いますし」

 

 あまりにも雑な戦闘力の跳ね上がりっぷりに、さしもの脳天気な俺も微妙な顔をせざるを得ない。

 ここまで来ると御堂さんも頬を引きつらせたくらいだ。B級からA級くらいまでの強さなのではと見立ててくれているが……探査者になって半月でそこまで伸びちゃってるのは、バランス崩壊にも程があるとしか言いようがない。

 

「ハッキリ申し上げると、今の時点ならまだ、私でもなんとかあなたと戦うことはできますが……このペースで行くと、もう半月もすれば、それも叶わぬ話となるでしょうね」

「御堂さん、やっぱりA級の中堅層より上のレベルなんだ?」

「一応、トップランカーですよ。S級との間には埋めようのない差はありますが、それでもA級という括りにおいては私が最強です」

 

 言いながら、御堂さんは俺に向け、探査者証明書を見せてくれた。

 

 

 名前 御堂香苗 レベル698 ランクA

 称号 霊体殺し

 スキル

 名称 光魔導

 名称 暗殺術

 名称 気配感知

 名称 遠視

 名称 環境適応

 名称 頑健

 名称 強運

 

 

「何このステータス、怖ぁ……」

「私からすれば、レベル15にしてこれと渡り合えるであろうあなたの方がよほど、怖ぁ……ですよ」

 

 いやそりゃ、言われたらそうかもしれんけど! 俺とはまた違った意味で衝撃的なステータスを前に、俺はあ然とするばかりだ。

 御堂さんはレベルもスキルもとんでもなかった。え、レベルって100以上も普通にあるの? 698って何? 関口くんの20倍超? 20関口くんってこと?

 スキルも物騒なのから便利そうなのまで目白押しだ。特に光魔導ってこれ、つまるところ御堂さんってば魔法使いなわけか!?

 

 探査者の持つスキルの中には、『魔導』と呼ばれるシリーズのものがある。読んで字の如く、魔法が使えるというとんでもない代物だ。

 今のところ、火、水、風、土、光、闇、無の魔導スキルが確認されているが、いずれもほんの一握りの探査者しか獲得していないことでも知られている。

 効果も強力極まりなく、それぞれの属性に沿った現象を引き起こすことができるという、要するに災害発生スキルだ。御堂さんで言えば光魔導だから、たとえば急激な光の明滅で相手の気分を悪くさせたり、急に発光して相手の目を眩ませたりもできるわけ。

 

 そんな風に使用用途が尋常でなく広いもんだから、希少さもあってこの手のスキルを獲得した探査者は、少なくとも所持を公表している者は全員がトップクラスに位置する著名な探査者だ。

 単純に、そのスキルだけでのし上がれるだけの力があるってことだね……そんなものを、まさか御堂さんが持っていたとは。

 感心がてら呟く。

 

「なんでこんなスキル持ってる人が、新人探査者の探査動画の配信に躍起になってんの怖ぁ……」

「そこはもちろん、あなたの救世を広め伝えるのが私の使命だからですとも。あ、そう言えば探査動画がじわじわ人気出てきましたよ。レベルの割に強すぎてインチキを疑われていますが、その都度私が論破して啓蒙しておりますのでご心配なく」

「心配する要素しかないじゃん怖ぁ……」

 

 レベルもスキルもとてつもないのに、言ってることとやっていることの方がよっぽどとんでもない。

 まったくもって御堂さんは御堂さんで、俺は脱力するやら戦慄するやら呆れるやらだった。


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