攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
特に地形情報を読み込んでいるわけでもなさそうな、至って普通の土塊のダンジョン。道も壁も床も天井もすべて、土でできた薄暗い空間はもうすっかり慣れっこだ。
香苗さんが御自身の《光魔導》による光源、プリズムコール・ソーラーレイで視界の隅々まで程よく照らしてくださる。これで準備は整ったよ、ここからはノンストップで進撃だ。
「かつてのマイライバル香苗のその技もエクセレントだねえ。視界を確保するのも当然ながらRTA的には大切だから、私としても機材に頼ることない光源なんか探しているんだけども」
「ふむ。でしたらC級の光り輝ける蛹というモンスターがドロップする光糸などどうでしょう? アレは光を3倍ほど増幅させる性質があります。加工するにも量が必要ですが、軽いうえに光源として抜群の性能ゆえ一考の余地はあるかと」
道中、香苗さんとセーデルグレンさんの話に耳を傾ける。お互い上級探査者なだけはあって、真面目にモンスターのドロップ品について語る姿はベテランそのものの風格を放つ。
率直にかっこいいよね、こういうの。職人気質にクオリティの高い装備を求めるベテランに、友人のベテランが候補を挙げていろいろ話し合うんだ。
談話室とかでも結構耳にするけど、なんだかソロでぼっちで基本自前の専用装備とスキルでぜんぶ賄えてしまう俺からするとすごく憧れる姿だ。というか、そもそも前提となるモンスターやドロップ品への知識もそんなにないもんで、まずはそこからなんだけどね。
たとえコマンドプロンプトなりとて新人探査者は新人探査者。まだまだ道は始まったばかりなのである。
「トップランナー的にもそいつには目をつけてるんだけど、どうも確保が難しいんだ。そんな性能してるだけあってみんな欲しがるのは一緒だからね、もうどこの業者でもオークションでも需要がまったく供給に追いついてないんだ。まったくノット・トップスピードとはまさしくこのことだね!」
「ドロップ品を狙うにも、A級のあなたがC級ダンジョンを荒らし回るようなことをするのはペナルティがあるから難しいでしょうし、ね」
「だからトップスピードchのスタッフを介して、C級パーティに光糸のドロップがあれば買い取る契約を持ちかけてるんだけどもこれもまた反応が薄い。元より金じゃ動かないのは探査者らしいんだけど、RTAに興味のない人相手だと他の対価も提示しにくいんだよ。第一、光糸なんて彼ら自身が使いたいだろうし」
「ああ……個人間での取引ではよくある話ですね。そもそも探査者な時点で金に困ることはあまりないため、通常の金銭ベースの取引が成立しづらい。セーデルグレンのようなケースだと、なかなか辛いですか」
うーむ、興味深い話が続く。モンスターのドロップ素材が基本、現世物質にはなかなか見られない特異な性質を持つため高値で取引されているのは知っていたけど、その弊害としてセーデルグレンさんが求めている光糸のようなケースもあるんだね。
探査素材の加工メーカーが欲しがっているのも大きいだろう。特に光糸なんてのはダンジョン探査に限らず生活用品にも十分応用しちゃえるだろうし。
そもそもモンスターが何かをドロップすること自体が希少ということもあればそりゃ、オークションのほうでも需要に供給が追いつかないことはあるだろうさ。
かといって、ならばC級パーティとかに光糸の入手と売買を交渉しようにも、探査者な時点で金銭に困ることってのが──よほど破滅的な享楽生活を送るでもしない限りは──少なくて、ゆえに取引を成立させづらいこともあるか。
セーデルグレンさんならRTAトップランナーとして他に何か、提示できる材料もあるかもだけど。そもそもRTAに興味ありませーんって探査者だとさらに難易度も上がるわな。
香苗さんも思わず唸るように、たしかにこれは難題だ。彼女が香苗さんのソーラーレイみたいなお手軽光源を欲しがる理由も十分理解できるし、かといって他の探査者達や業者が光糸を手放す気がない理由も分かっちゃうよ。
そういうことならここはせっかくだ。
年末の大掃除に少しでも寄与できるかなと、俺はセーデルグレンさんに声をかけた。
「あのー、セーデルグレンさん。光糸でしたら俺もいくつか持ってますし、よければ譲りますよ?」
「え? …………えっ!? なんだってそれはリアリィかい!? シャイニングくん、君も光糸を持ってるのかい!?」
「え、ええ、まあ。C級ダンジョンで何度か、光り輝ける蛹は倒してますし」
「我らが救世主山形公平様は過去に授かった称号の効果によりモンスターを倒すと確定でドロップ素材を入手できるという破格極まる能力をお持ちなのですセーデルグレンこれがどれほどすさまじいか分からない探査者はこの世に一人とていないでしょうであれば光糸とて御方の手にあってもなんら不思議ではないことなのですおおおお救世主様バンザイ山形公平様バンザイ」
「怖ぁ……」
もはや取引ですらなく、単に俺ちゃん専用データ領域内倉庫を整理する目的なだけの譲渡。なんだけどもセーデルグレンさんはすっかり驚き、思わず立ち止まって俺を見て唖然としている。
そりゃそうか、これだけ欲しい、でも見つからない! とか言ってた光糸を軽いノリでじゃああげますとか言い出したんだものな。
そこに付随して香苗さんがまーた伝道師やりだしたもんであっという間にカオスだよ、どうするんだよもう目の前なんだけど部屋も、モンスターも。
とりあえず敵を片付けてからこの話の続きをすっべと、俺はおもむろに山形くんビームを放つ準備へと移行した。
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