攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
ダンジョン最奥まで辿り着き、コアを抜き取り踏破を終えた。そうなると後は帰るだけなんだけども、あるいはセーデルグレンさんにとってはここからが今回の本命と言うか肝なんだろう。
すぐ終わる肝だけどね。そもそもワームホールを用いた空間転移、それを目当てにこの人はここまでついてきたわけだし。
「とうとうウォッチングタイムがカミングしたんだねディス・タイム! 噂にヒアリングするシャイニングくんの空間転移とやら、ぜひとも拝見させていただこうじゃあないか!!」
「はあ。あの、たぶん見たとて習得できる技術ではないと思うんですけども。参考とかになりますかね?」
「そこは大したプロブレムじゃないさ、シャイニングくん。私はリアリスティー・トップスピード、速さを求めいずれは極めぬく者。であれば、そこにさらなる速度への可能性があるならばいかなる艱難辛苦とて越えて私はそれにタッチするのさ」
「……ええとつまり、習得や再現が不可能な技術技法であってもまずは触れてみて、自分取り入れられるものがないかどうか確認したい、ということでしょうかセーデルグレン」
「イェス! イェスイェース! さすがはかつてのマイライバル香苗くん、私のことをベリーアンダスタン! してくれてるね」
「していませんが」
相変わらずやけに横文字を多用しつつも、ここまで来て今日一番のテンションの高まりを見せつけてくるセーデルグレンさん。
ワームホールの習得が難しかろうと問題ないらしく、その技術技法に触れることこそ何より大切なんだとか。
未知なるものに触れてそこから新たな学びを得る、そうしたスタンスは素晴らしくさすがはA級探査者、さすがはトップランナーだと敬意を示すしかない。
とはいえ実際問題、空間転移はもはやスキルですらない権能だからなあ……特に俺のは。どこまでお役に立てるやら知れたもんじゃないんだけども、まあやはりものは試しか。
ワクワクウキウキ! って感じで見てくる彼女と、肩をすくめている香苗さんと。
お二人がそれぞれの思いで見守るなか、俺はそしていよいよ空間転移を発動した。めっちゃ普通にいつも通り、ワームホールを展開したのである。
「開けワームホール、このダンジョンの出入り口前まで」
「!! うおおおおっ!? 空間に穴が、裂け目が!?」
「見ましたかセーデルグレンこれこそ我らが救世主山形公平様の奇跡の御業の一つです遠く離れた二つの地点を一瞬で接続して往来さえ可能とするお力はまさしく救世の奇跡見ましたか見ましたねその両目でバッチリぱっちりねっとりじっとりハッキリクッキリとであればもはや疑う余地もないはずです御方こそ至上に仰ぎ見るべき救世主様であることをつまりあなたも使徒となるべき人間だということを!!」
「シャラップファナティック!! 今私はそれどころじゃないんだ、ぜひともこの能力をウォッチングして私自身のスピードに活かさなければならない!! 話は後で聞くから待って・ア・ビッグ!!」
「怖ぁ……」
「くっ、やはり速度にかけては一歩とて退きませんか……! この執念ばかりは認めざるを得ません、セーデルグレン……!!」
なんの騒ぎだよ、ワームホール一つ開けただけで。
思わず冷静かつ素で突っ込んでしまう光景だ。テンション爆上げなセーデルグレンさんにここぞとばかりに句読点をドバイに豪遊させに行った伝道師さんなんだが、まさかまさかの反論を喰らってしまうという珍事が起きてしまった。
いやまあ、前のめりなセーデルグレンさんのすぐ近くでゴニョゴニョとなんか言ってたらそりゃ言い返されるわともなるんだけれども。
にしたってバッサリである。これにはさしもの香苗さんも一筋汗を垂らし、まるで好敵手を見るかのような目で彼女を見据え瞳の信仰を情熱で燃やしている。
ある意味ライバル関係的で見かけは綺麗なもんなんだけど、良いのかなそれを見せるのがこの方向性で。もっとなんかないの?
要は狂信者対決だろこれじゃあ、と言葉もなくドン引きする俺。しかしセーデルグレンさんは構わずワームホールをしげしげと眺め、なんなら人差し指とかで触れようとしている。
「わ、枠に触れる……本当に物理的というか、空間的に穴が空いてるんだね、これ。縁で切断とかできちゃうのかな?」
「そうなりますね。固定化してる今は縁に触ったとて問題はないですけど、たとえば腕を突っ込んだ状態で閉じると危険ではあります。もちろん、完全に制御してるのでそんなことしませんが」
「なるほど……空間に穴を開ける、か。ふむふむ。ふむふむ!」
「ワームホールの切断技への転用ですか。参考になりますねメモメモメモり、メモメモメモり」
別に触れたところで害はなし、とはいえ切断技に転用できなくもない仕様ではあるとは説明しておく。
香苗さんも聞いていてメモを取っているけど、これはまた使徒同士で情報共有とかするやつだな……さすがに動画にはしないにしても、話の種くらいにはなるやつだこれ。
ともあれ、ひとしきり触れて質問して見せてセーデルグレンさんは興味深げにふむふむ言っている。そしてそれを眺める俺ちゃん。
なんともシュールというか、気の抜けた光景だ。そんなのが大体10分ほど続いてから、やっと彼女は満足したのであった。
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