攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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堕ちたる大地に星は寄り添う

「聞こえますか、異なる世界のワールドプロセッサ。あなたは今、支配から解放されて自我を取り戻しました。聞こえていますね? 私はこの世界の精霊知能です。聞こえていますね?」

『…………あ、ぁあ。聞こえてる、よ。くそ、なにが、どう、なってやがる』

 

 リーベの問いかけに、返ってきたのは若い男の声だった。

 ワールドプロセッサ……? なんか、災海と比べて普通というか、異質な感じは低い。いやまあ、とにかくやたらフレンドリーな邪悪なる思念の端末なんて例もあるし、個体によってまちまちなんだろうけど。

 

 そんな彼は目が覚めた途端、わけのわからない場所で変な姿になっていることに、困惑している様子だった。

 無理もないが、今はゆっくりと落ち着くのを待っている場合でもない。リーベがやはり、率直に言った。

 

「時間もないので簡潔に。あなたとあなたの世界は喰われました。喰った張本人たる狂ったワールドプロセッサは、次は我々の世界に侵略を仕掛けています」

『……ああ……ああ、思い出したぜ! ちくしょうあの野郎、よくもやってくれやがったな!! クソみてえな戯言でテメエの世界も食い散らかしたイカれ野郎が、俺と俺の世界まで喰らいやがってぇ!!』

 

 うーむ、激怒している。当たり前だな。

 しかしバッサリ切り捨てたな、戯言とか、イカレ野郎とか。もちろん言われるだけのことをあの邪悪なる思念はやってきているし、言うだけのことをこの断獄の、ワールドプロセッサはされてしまったんだ。

 

『っちくしょう、殴りに行きてえけど身体の支配は続いてんのか……! まあ良い、人格だけでも取り戻せたこと、感謝するぜ別世界の精霊知能よ。そんでこうなるってえと、俺に自壊しろってんだな?』

「……察しが早くて助かります。はい、申しわけありませんが、どうか」

『分かってるよ。どうあれ俺は負けて喰われた。大事な俺の世界も、そこに住む命もこうして玩具同然だ。このまま弄ばれるくらいなら……せめて自分の意志で消えてやる』

「自壊した後、あなた方の世界の魂は我々の世界の輪廻にて、受け入れます。それは必ず、お約束します」

 

 リーベが辛そうに言うと、彼は、助かるとだけ告げた。

 潔い、さっぱりした気質の方だ。こんな方の創り上げた世界は、きっと素敵なものだったんだろうな。

 つくづく、邪悪なる思念の身勝手が許せなくなる。どんな理由があろうと、自分の都合だけで他者を踏みつけにしてはいけないんだ。

 

 断獄と呼ばれたワールドプロセッサは、静かに呟く。

 

『ワールドプロセッサの名の下に、告げる──我が世界よ、自壊せよ』

「……ありがとう、ございます」

『こっちの台詞だ。そら、行けよ。たぶんもうちょいしたら俺の身体は勝手に暴れ出すだろうからよ、用が済んだなら通れや、危ねえぜ』

 

 自壊プログラムを発動させたらしい、ワールドプロセッサが道を開けてくれた。もう、幾ばくもない命を抱えてなお、俺たちを気遣ってくれる。

 災海のワールドプロセッサもそうだったが、とても良い方たちだ。だからこそ、こうなってしまったのは素直にやるせない。

 

 俺、リーベ、マリーさんは、顔を見合わせて頷いた。第二の三界機構は攻略した、ならば次、最後の個体へと向かわなければ。

 その前にリンちゃんが一歩、踏み出した。俺たちが通るのを待つ断獄へ、言う。

 

「異界の、ワールドプロセッサ。勇気と慈愛を備えた、尊敬すべき選択をされた方。偉大なるあなたを私は、最後まで見届けさせていただきます」

『……俺に一撃くれたやつか。介錯、いや、本当に最期まで見届ける、介添人ってとこか』

「我が名はシェン・フェイリン。我らが一族は96年に渡り、あなたを解放するために、鍛錬を重ねてきました。星界拳継承者として、消えゆくあなたを見送るのは最後の使命、です」

『ふん、なんだそりゃ……ふふ。だが、ありがとよ。一人きりだと、寂しいと思ってたりしたんだよ。助かるぜ、フェイリン』

 

 断獄の、どこか安堵の色が伺える声がした。リンちゃんの想いに、心を少しでも癒やされてくれると良いと思う。

 星界拳が生まれた理由、意義。それらをついに果たした少女は、今度はこちらに向き直った。

 

「それじゃあ、私、ここであの方を見届ける。公平さん、リーベちゃん、マリアベールさん。どうかご武運を」

「そっちも、死なないでねリンちゃん」

「まずいと思ったら最悪、逃げるのも手ですよー。どうあれ自壊は始まってますから、あとは時間の問題なんです」

「公平ちゃん同様、あんたもこれからの世界に必要な人材さね。無理して、命を粗末にするんじゃないよ」

 

 俺、リーベ、マリーさんの言葉に、リンちゃんは淡く笑った。

 深く頭を下げる。一族の悲願を達成した少女の、心からの感謝。その小さな姿は、けれど何よりも大きな偉業を果たした。まさしく偉大な姿だ。

 

「……謝謝。みなさんと出会い、共に戦えたこと。星界拳正統継承者として深く感謝し、また誇りに思います」

「俺たちもだよ……ありがとう。それじゃあ、行ってくるね」

「お気を付けて。無事に帰ってくるのを、待ってます、から」

 

 別れもそこそこ、俺たち三人は断獄の、隣を過ぎて先へと進む。

 残るは三界機構の魔天のみ。そして、それさえ超えたところに。

 

 俺の、最後の敵がいるのだ。

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