攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
予想を遥かに超える俺のパワー。常時、発狂ものの痛みが走り続けるのに目を瞑れば、魔天と戦うにあたってはこの上ないアドバンテージと言える。
何しろ単純に、殺しきれないだけで圧倒はしているのだ。パンチ一発で首から上を根こそぎ爆発させた、デタラメな威力の拳があれば、早々当たり負けることはないってのは確実に言えることだった。
「とはいえ、中枢を倒しきれない以上、やっぱりマリーさんが最後を決めることに変わりはないんですけどね」
「ファファファ。助かるよ、正直……人生最後の戦い、特に良いことなしでしたってんじゃ、それこそ死んでも死にきれない」
「縁起でもないこと、言わないでくださいよ……」
ちょっぴり意地悪げに拗ねてみせるマリーさんに冷や汗をかきつつ、俺はしかし、身体を走る激痛に向き直る。
さすがに洒落にならん。できる限り温存しておきたいリーベの気持ちがよく分かる──身体が、バラバラになりそうだ。
何が嫌って、ほとんど同時並行で体を癒やされる心地よさもあることだ。頭おかしくなるわこんなの、良くない扉を開いてしまいそう。
なんとか我慢している俺を、マリーさんは見抜いたみたいだ。気遣わしげに目を細め、言ってくる。
「公平ちゃんが激痛に苛まれてるってのはいただけないし、さっさとケリを付けようか……大技かますよ。準備がいるから、悪いけど三分だけ相手してくれんかえ?」
何より俺の身体を考えて、最後の戦いだっていうのに早期決着を望むマリーさん。申しわけなくもあり、嬉しくもあり。
しかしそうか、マリーさんもベナウィさんのオーロラ光線ぶっぱとか、リンちゃんの究極秘奥・天覇断獄星界拳みたいに切札はあるよな、当然。そしてそれを放つためにも準備が要る、と。
だったら、俺のやることは一つだ。
「分かりました。俺はマリーさんが準備している間に、魔天を殴りに殴って、中枢がどこにあるかを探り当てます。リーベ、手伝ってくれ」
「もちろんですよー! それじゃあマリーおばあちゃん、準備ができたらいつでもどうぞ!」
「ファファファ。助かるねえ、本当。そんじゃあまあ、早速始めようかね」
言うやいなや、マリーさんは普段の腰が曲がった姿勢から、ピンと背筋を伸ばす体勢に変わった。ていうか、背が高い……俺より頭一つ分は高いぞ。意外だ。
そのまま彼女は目を閉じた。同時に闘気が練り上げられていくのを感じる。ものの数秒でかなりの威圧を感じるほどだ。
こりゃあ、すごいものを見られるかもな。
マリーさんの大技にワクワクするものを予感しながら、俺は魔天を見る。
ようやく超再生能力がやつの身体をすべて、回復させていた。視線をいくつかさまよわせ、やがてこちらを捕捉する。
来るか。
直感と同時に俺は構えた。魔天の龍の口が開き、次の瞬間、真紅の熱光線が放たれる!
「やらせるかぁっ!!」
真っ直ぐにこちらめがけて伸びる光線を、こちらも衝撃波で立ち向かう。腰を深く落とし、狙い定めての正拳突きだ──1000倍になった戦闘力から繰り出されるそれは、熱光線にも負けない蒼色の奔流となって魔天の攻撃とぶつかり合う!
赤と青、二つの強大な力がぶつかりスパークする。轟音、閃光、そして衝撃。
「貫けぇぇぇっ!!」
拮抗状態に陥っていたがそれも束の間、やはり1000倍パワーの俺が放つ衝撃波は並のものでなく、容易く魔天の熱光線をぶち抜いて、やつの頭部を再び消し飛ばした。
さっきはあまりの威力に驚いたが今度は違う、俺は一気に飛びかかる。速度も1000倍ゆえ、ほとんど空間転移に近い形で肉薄する。
「どこか知らんが、中枢を探るっ!!」
そして振るう拳、連打、連打、連打!
一撃一撃が魔天の、高さ5mはある身体を抉り取って爆散させて消し飛ばしていく。ここまでの威力だとやはり、魔天の超再生能力が全く追いついていない。
地面を掘り進めるようにして、やつの身体を拳一つで殴り開いていく。
「おおおおおおおおおおおっ!!」
「公平さん、感知できました! 中枢はその位置から前方、右、少し斜め! ちょうど心臓の部分です!!」
「────おおおおおおっしゃあぁっ!!」
俺の後方から直接、傷を癒やしてくれているリーベのサポートもあり、どうにか三分以内で中枢の位置を特定できた。言われたとおりの方向に拳を振るい、衝撃波で周囲をぶち抜く。
あった──心臓部とか言ってたが、それっぽい臓器はない。代わりに、人間の何倍も大きい水晶が、毒々しい輝きを放っていた。おそらくはこれが中枢だろう、ただならぬ気配を感じる。
とっさに俺は、リーベに問いかけた。
「あと何分だ!?」
「残り1分! それだけあると、魔天は全快してしまいます! マリーさんの準備が整うまで、もう一暴れ──」
「────いいや、必要ないさね。準備はもう、整った」
後方からマリーさんの声。俺は即座にリーベと共にドラゴンの身体から離れ、彼女の元へ戻る。
そこには、三界機構にも劣らないほどの殺気と闘気、そして威圧感に満ちた剣鬼がいた。
全身全霊の、これが全力のマリーさん……!
「ありがとよ、二人とも。おかげで人生最高の一撃が放てらぁ」
「マリーさん……頼みます」
「応よ。これが正真正銘、最後の技だ。我が人生のこれまでのすべて、この一刀にて斬り示さん」
仕込み杖に手が伸びる。逆手、ではない。順手だ。日本の時代劇に憧れて身に付けたものでない、彼女の元々の握り、居合抜刀術。
闘気が膨れ上がる。超再生能力にて首からを上を回復し始めている、魔天でさえそれに反応したのか、にわかに巨体が震えていた。
「《ディヴァイン・ディサイシヴ》──はじまりのスキルにて、終わりの斬撃を放とう。長き旅路の果てに今、私は答えに辿り着く」
迸る気迫とは裏腹の、ひどく静かな、物音すら立てない大ジャンプ。
軽々と魔天の、未だ俺が掘り開いた中枢部にまで、一息に到達して。
「《居合》大断刀────グレート・ブリテン」
再生中の頭から、胴体に至るまで。
中枢を巻き込む形で一刀両断する、超斬撃が放たれた。