【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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ダンジョン探査、ヨシ!

 佐々木さん家の庭先ダンジョンを踏破した。コアをもぎ取って地上に出れば、ポッカリ空いていた大穴は影も形もなく消失し、ホッと一安心といった心地の佐々木さん御一家からすごーく感謝された。

 こういうのも探査者の醍醐味かなって思う。ダンジョンなんて冗談抜きでどこにでも沸くから、普通にご家庭の迷惑な場所にできたりするケースも多い。

 

 探査者全体のルールとして、そうした民家内に発生したダンジョンは最優先で潰すのが当たり前になっているので、もはやシステマチックに処理されがちなのではあるが……

 実際、そこに住む方々にとっては生きた心地がしないのもまた事実。迅速に解決する探査者を頼りにするのは当たり前だったし、そうした声に応えるのは俺たちの義務だ。

 だからこそ、感謝の声が俺には嬉しい。

 

「人々の暮らしを守る、これも立派なお仕事なんだなあ」

 

 一人、しみじみ呟く。

 恥ずかしながら探査業を、主に金儲けできるって部分で捉えて浮かれていたから、こういう、人情みたいな話になると改めて心が浄化される気分だ。

 同時に、大ダンジョン時代における探査者の重要性を再度認識し、心が引き締まる思いでもある。まして、今日中には昇級試験を受けようっていうんだ。

 勝って兜の緒を締めよ、ってやつかな。とにかく、探査者のためだけに探査業があるわけじゃないってことを、心得てやっていかないとな!

 

「人々を救い、そのことに深い慈悲と使命感を漲らせる救世主のお姿……あぁ、尊い……」

「……御堂さん?」

「どうして私はこの瞬間を動画にしていないのか? 伝道師たる者として恥ずかしい……せめてメモして、後に伝記の形で出版しなくちゃ。メモメモメモり、メモメモメモり」

「御堂さん!?」

 

 独り言に反応して変なエモさを感じて、何やら画策するのは止めなさいよ! 狂信者が、バイブルまで拵えようとするんじゃない!

 佐々木さんの家を後にして次、工場ダンジョンへと向かう道のり。相変わらずピットリ俺に張り付いている御堂さんの、ファナティックぶりが俺には怖い。

 

 この人はどこに向かおうとしているんだろう? A級トップランカーがこんなことになっているなんて、他のA級はじめ上位探査者さんたちはご存知なんだろうか?

 気になって聞いてみると、予想を超える答えが返ってきた。

 

「他のA級探査者ですか? ええ、もちろん私の伝道師としての使命については既に伝えています」

「その、何かご反応は?」

「純粋に、公平くんのスキルや称号に興味津々の者が多いですね。これはS級の方々もそうです。後は私を心配したり不安視したりする者もいますが、こちらは根気よく啓蒙の方を行っています」

「ほ、程々にね? 友人とか、失わないでね?」

「お心遣いに感謝します……その優しい心根。また一つ啓蒙の論拠が増えました」

 

 そういうのを止めろと言っとるんだ!

 ガチで友人いなくなるムーヴかましてる御堂さんだが、それでも何やかや友人知人に囲まれていそうな感じはしてひとまず安心する。

 不幸中の幸いとでも言うべきか? 信仰の対象であるところの俺が、探査者としての皆さんの好奇心を大いに刺激する存在であるところが大きいみたいだ。良かった……宗教にドハマりして孤立していく御堂さんは、今のところいなかったんだね。

 

 何やかや話をしているうちに、次のダンジョンのある工場にやってきた。

 町外れにある、周りは田んぼばかりの土地にぽつねんとある大きな土地の工場だ。古めかしいパイプが所狭しと、血管を思わせる様相で絡んで配列されているのが印象的だな。

 

 入り口にて入場申請を行い、工場の管理監督者さんと顔を合わせる。

 中年太りした、お腹の大きなおじさんだ。作業着にヘルメットとマスクをして、いかにも作業中でござい! って感じでやってくる。

 

「やあやあどうもです。わざわざこんなところにまで来てもらってもうしわけない。ここの工場の責任者の東です」

「いえいえ、これが仕事ですから。F級探査者の山形と申します」

「A級探査者の御堂と申します。今回、山形のダンジョン探査の監督を務めます。よろしくお願いいたします」

 

 お互いに挨拶する。御堂さんも一応、形ばかりだが名目上は俺の監督役ってことで通してもらった。

 救世主様の活躍を動画に収めて配信するために来ました、なんてこと絶対に言わせてたまるか。御堂さんも対外上、流石に取り繕うことは必要だと思っていたみたいなので、すんなり話を合わせることができて良かった。

 

 ともかくダンジョンのところまで東さんに案内してもらう。途中、出会う作業員の皆さんみんな、物珍しげにこっちを見てくる。

 というかこれ、あれだ。御堂さんに視線が集中してるあたり、美人に目がいってるだけだな? 何でもいいけど安全作業に支障がない程度にしといてもらいたい。指差し構えて安全、ヨシ! ってやつだ。

 

「こちらになります」

 

 到着。ここで取り扱ってる生産材の、原料製造機の真ん前にポッカリ穴が空いている。三角コーンとコーンバーで立入禁止区域として仕分けられているが、こりゃいかにも迷惑な位置にできたな~。

 さっさと踏破した方が良いだろう。俺と御堂さんはとにかく、ダンジョン探査を開始した。


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