攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
拳と拳がぶつかり合う。相殺しきれず衝撃で、互いの腕まで砕け散る。そしてその都度、再生。
三つの異世界の力を得ている邪悪なる思念と、10000倍の戦闘力を得ている俺。互いに全く互角のまま、ただ破壊と再生を繰り返す戦いは続いていた。
「くぅっ──! てめぇこの野郎、痛いんだよぉっ!!」
「あははは! はははは──! 痛いね! 楽しいね! アドミニストレータァァ!!」
殴り、穿ち、叩き。組み、投げ、極める。
どうしようもなくシンプルな、体一つ同士の戦い。規模こそ違えど子どもの喧嘩にも似た殴り合いに、この世界の行く末が懸かっている。
俺の拳がやつの胸を貫いた。風穴が空く。やつの掌底が俺の肩を打った。右腕が消し飛ぶ。そしてすぐにお互い、失った部分を再生させていく。
向こうは知らないがこっちはもう痛すぎて涙が止まらない。死ぬ、死んでしまう! 死ななくてもこんなの続けてたら発狂する!
歯を食いしばって色んなものに耐え、なおも攻撃する。
「さっさとやられろっ、もう諦めろバカ野郎っ!」
「う、ぐっう!?」
隙を突いてやつの両腕に組み付き、力いっぱい締め上げて持ち上げる。そのまま背後に、ダブルアーム・スープレックス! 両腕を粉砕する。
さらに両脚を4の字で固めてへし折り、俺は怒涛の勢いで顔を抱えて天高く舞い、地面に向けて垂直落下式ブレーンバスターを叩き込む!
「お前の望む完全なんてっ、どこにもあるもんかぁっ!!」
「ぐげっ、がぁっ!」
両腕と両脚、そして頭部。流れるように3連続でプロレス技を放ち、身体中にダメージを与えたが……
やはり瞬時に再生してしまう。何ら痛痒もないと言わんばかりに、寝転んだまま邪悪なる思念が哄笑をあげた。
「あっはははは!! 良いね良いね面白い! 君のお得意の関節技、実に味わい深いよ!」
「くっそぉ……! しつこい奴め……!!」
「そういう君はちょっと、疲れてきてるね? たしかに僕たちは互角の戦闘能力みたいだけど、無限に等しいエネルギーがある僕と、ただの人間に過ぎない君では……どうしたってそうなるよね? アハハハ!」
心底から面白がってからかってくるが、実際、かなり状況は悪い。戦い始めてもう何十分になるか分からないが、ひたすら殺し殺されをし続けているせいで、こっちは割と息切れしてきている。
ただでさえ10000倍の反動ダメージで頭おかしくなりそうなのに、加えてこいつと再生能力前提の壊し合いだ。いくらなんでも気力も体力も保たない──激痛って、結構精神的にもキツイんだよなぁ、くそ。
「さあどうする? 次は何をしてくれる? 次は何をしてほしい?」
「くっ……!」
「僕は全然余裕だよ、いくらでも付き合おう。ほらほら、早く僕を痛めつけてよ。君がくれる痛みは心地良い、体を砕かれるたびに心がときめくんだ、あっははは!」
怖ぁ、なんて言ってもいられない。このイカレポンチ、マジでなんにも堪えてないってのかよ。
絶望の気配を、徐々に感じつつあった。このままだとジリ貧だ、どうにか突破口を見つけないと。だが、どうする? やつは全然、ダメージを受けていない。
懊悩する俺に、リーベが大声を張り上げた。
「騙されないで公平さん! やつは、確実にダメージを受けています!!」
「! リーベ!?」
「やつの再生能力が少しずつ、たしかに衰えていってます! たしかに三界機構の力の大半を得ていますが、公平さんによる攻撃で受けた傷を、再生するために猛烈な勢いで使っています! 互角じゃありません──勝てますっ!!」
力強く断言してくれる。その言葉は、事実であること以上に、俺の背中を押してくれる言葉だったのが嬉しかった。
邪悪なる思念を見る。たしかに、未だに傷を再生中みたいだ。最初は胸の風穴さえ、一瞬で治していたのに。
何よりリーベに対して、それまでの余裕と愉悦をかなぐり捨てた無表情を見せる、その顔がすべてを証明していた。
効いていたんだ、俺の攻撃は。やつが蓄えていた力を、再生能力のリソースという形で急激に使用させていたんだ。
「…………無粋なやつだな、精霊知能。観客兼サポーターとしてならギリギリ、放置しといてやるのに」
「決戦の場でくだらねー腹芸かましてる方が悪いんですよー。やせ我慢してでも公平さんに絶望を与えたかったんでしょうけど、そうは問屋が降ろさねーんですよー!」
勝ち誇りの笑みを浮かべるリーベ。だが、それなりに付き合いの深い俺には分かる。あいつは今、怯えている。
邪悪なる思念という天敵を前に恐怖を抱きながらも、それでも俺のために必死で、強がりを続けてくれているんだ。
これに応えなきゃ、俺じゃない!
心に忍び寄っていた絶望が、希望に駆逐されていく。勇気と闘志が改めて、湧き上がってくる!
だけど。その時。
「気に入らないね……消えろよ、お前」
「っ!?」
邪悪なる思念はリーベに向けて、掌を向け。
漆黒の光線を放っていた。