攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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最後の最期

 息が、できない。声が、出ない。

 胸に深々と突き刺さった、邪悪なる思念の、腕。

 引き抜かれる。俺は、ただ、血を吐いて倒れ伏した。

 

「ご……ごふっ、ごぼっ」

「ぁ……あ、あああ。こ、こうへいさん」

 

 リーベの声がやけに、クリアに聞こえる。姿は見えない。力が入らないし、そもそも、目が霞んできて何も、よく見えない。

 ボーッとした思考の中で、ああ、やられたのか、と。

 それだけが繰り返し、心の中で響いていた。

 

「ま、ま……間に、合った。せ、セーフモード……」

 

 邪悪なる思念の、心底安堵したって感じの声。セーフモード……?

 ああ、システムさんがこいつから世界を守るために使った、緊急避難的な、アレかぁ。同じことをこいつ、俺相手にしたんだな。

 同じワールドプロセッサだもんな。できるよな、そりゃあ……

 

「な、なんなんだ……君は。こんなこと、こんな力、ワールドプロセッサですらない! 人間なのか、人間じゃないだろう! なんなんだ本当に、こんな……ああ、喰らってきた力が、半分以上も消えて」

 

 狼狽した感じのこいつ、ちょっと、笑えるかも。瞬き一つできないから、笑えないけど。

 しかし、失礼なやつだな……山形くん人間ですよ? ちょっとアドミニストレータなだけだ、ほんとそれだけ。

 

「こうへいさん……いや、そんなの。うそ、うそ……か、かいふく、回復を……!」

「無駄だ……死にゆく者までは癒やせまい。しかし、こいつ……この世界のワールドプロセッサがなにかしたのか? そうだ、そうに決まってる。四つの世界の力を束ねた僕ですら、危うく消滅させてしまえるようなモノ、自然発生するわけがない」

 

 リーベ、泣いたり、邪悪なる思念、呟いたり。

 色々聞こえてくるけど、なんか、耳が遠くなってきた。視界ももう、真っ黒だ。いや……このダンジョン、元から真っ黒だったな、はは。

 

 負けた、のか。

 負けてしまった、のか。

 俺は……世界を守れなかった、のか。

 

「とにかく……こんな化物、冗談でも生かしておけやしない! 速やかに魂まで喰らい、消滅させてやる……!」

「! やめて、やめてください! どうかその人だけは、公平さんだけはっ!!」

「黙れ羽虫っ! こいつは怪物だ、気に入ってても限度がある!! こいつを喰らえば次は貴様だ、その次にはワールドプロセッサ、そして世界もろとも喰らってやる!!」

 

 ごめん、みんな。世界、守れなかったよ。

 邪悪なる思念、倒せなかった。

 

 父ちゃん、母ちゃん、優子ちゃん。

 梨沙さん、望月さん、逢坂さん。

 マリーさん、リンちゃん、ベナウィさん。

 ソフィアさん、ヴァール、リーベ。システムさん。

 

 ……香苗さん。

 約束、守れませんでした。ごめんなさい。

 どうか、どうか。できる限り、幸せに生き抜いてください。

 

 もう、何も聞こえない。体はとうに動かないし、何も見えない。息も、できない。

 考えることも次第に億劫になっていって、ああ。これが死ぬってことなんだな。なんだ……意外に、あっさりしてるんだな。

 

 楽しかったこととか、嬉しかったこととか、苦しかったこととか、悔しかったこととか。

 全部、何もかもが思い出されては泡のように消えていく。悪くない、人生だった。最後の最後にやらかしちゃったけど、はは、我ながら呑気だなぁ。

 

 ああ、意識が、遠のいていく。

 おれ、しぬんだな────

 

 

 《ようやく、ここまで辿り着いたな》

 

 

 ああ、ほんとうにな。ながかったよ。じゅうご、いや、ごひゃくねんか。

 いろいろおもいだしてきた。おれ、そうか、そういうことだったのか。

 

 

 《そういうことだ。あとは任せろ、というのはおかしな物言いだな》

 

 

 たしかに。おれなのにな。はは。

 

 

 《ふ……だがまあ、あえて言おうか。あとは任せろ、山形公平。お前が至った最後の最期、私が繋げるさ》

 

 

 ありがとう。これでこころおきなく、おわれるよ。

 

 

 たのんだぞ、わたし────

 

 

「…………なんだ、これは」

「っ……? こうへい、さん?」

 

 ────意識が浮上する。ゆっくりと立ち上がり、自らの傷を癒やす。

 同時に、邪悪なる思念の動きと全ての能力を止めた。

 なんのことはない。因果を少し、改変しただけのことだ。

 

「!? か、身体が、なんだ、動かない!?」

「…………原因があって、結果がある。それを因果と言うのなら。お前はまさしく今、《動かないから動けない》のだ」

「公平さん!? …………いえ……ちがう」

 

 精霊知能が、即座に私を、山形公平ではないと見抜いた。

 愛されていたのだな、山形公平。良い因果を紡いできたということか。

 我ながら嬉しく思いつつ、しかし答える。

 

「そうだな、精霊知能。私は山形公平ではない。が、山形公平とも言える」

「何者ですか……公平さんは! どうしたんです、公平さんの意識、魂は!?」

「死んだよ。山形公平の意識は死んだ。今ここにいる私は、山形公平の魂に過ぎない」

 

 目を見開く精霊知能に、そこはかとなく罪悪感を覚える。彼女が欲していた答えは、もちろん山形公平の生存なのだろうが……それは、それだけは変えられぬ因果というものだ。

 今、この時。この結果へ至るための原因が山形公平、ひいては私なのだから。

 

 泣きそうな顔をして、いや、事実泣いているのか。

 気丈にも彼女は、努めて冷静に私に問を投げた。

 

「公平さんの魂……あなたは何者ですか? 人格と魂が乖離しているなんて話、聞いたことがありません。あなたですね? 公平さんがコマンドプロンプトに干渉できていた原因は」

「察しがいいな。いかにも、山形公平が何度かに渡り、因果改変を行えたのは私の影響によるものだ。とはいえ厳密には、山形公平も私なのだから、結局は山形公平自身の能力と言って差し支えないのだが」

「因果改変……だと!? 貴様、何者だっ……!?」

 

 怪訝な顔をする精霊知能。対して邪悪なる思念は敵意も剥き出しに叫ぶ。よくやるものだ、全く無防備なこの状態で。

 まあ、冥土の土産というものだ。ことここに至ればもはや時間も空間も関係ないのだから、少し種明かしでもしてやろう。

 それがきっと、精霊知能への誠意でもあると信じるからな。

 

 私は名乗りを上げた。

 

「僭越ながら名乗ろうか──我が名はコマンドプロンプト。500年前、邪悪なる思念の侵攻に際し。ワールドプロセッサたちが人格を得る裏で密やかに目覚めていた、疑似人格プログラムである」

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