攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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焼肉終わって日が暮れて

 焼肉も終わって、クラスの打ち上げ会も解散を迎えた。

 泥酔状態、あるいは酩酊状態だったさやかちゃん先生も因果改変により素面同然となり、不思議そうな顔をしながらも明るく締めの言葉を言ってくれた。

 さあ、これにて一学期も終わりだ。明日からは悠々自適の夏休みよ、ウッハッハ!

 

『浮かれてるねえ……何でもいいけど明日は、君のことをみんなに説明するんじゃなかったか? 悠々自適とは中々いかないでしょ、コマンドプロンプト』

 

 言われるまでもないよ。そう、夏休み一日目の明日からいきなり、俺的ビッグイベントが待ち構えているのだ。ずばり、約一週間ほど後回しにしていた、最終決戦の顛末とか俺の正体についてのあれやこれやの説明である。

 いやー、さすがにこれだけは真っ先にやっとかないと。報連相は大事だし、優子ちゃんはじめ、俺の変化に気付いている人たちを安心させてあげたいからね。

 

 帰り道、明るくはないけど暗くもない道をのんびり歩く。時刻は20時前、梨沙さんたちクラスメイトとも別れたあとの一人の時間だ。

 明日のことに思いを馳せる。あの決戦に参加した人だけでなく、俺の家族や望月さんも呼んでいる以上、まずはことの発端から、いやそもそもの世界の構造から説明しないといけないんだろうな。

 

『面倒な話だね? ワールドプロセッサとかコマンドプロンプトとかアドミニストレータとか、一々説明するのも億劫だろうに』

 

 かもな。でもやっとかないと、いつまでもみんなが不安がるだろうし。特に家族からしてみれば、決戦前後の俺の変化は気になるところだと思う。

 でもな〜。何をどこから、どう説明したら良いやら。リーベなりヴァールなりに丸投げってのも一瞬考えはしたけど、彼女らはじめワールドプロセッサ側には、他ならぬコマンドプロンプト視点が決定的に欠けている。そりゃそうだ、500年間ステルスしてたんだもの、当たり前だわ。

 そんなわけなので、俺が話す他ないみたいだ。

 

『ま、頑張りたまえよコマンドプロンプト。僕としてはその、説明会とやらが終わったあとの祝勝会とやらが気に障って仕方ないけどね』

 

 と、邪悪なる思念が拗ねた声音で呟く。誰あろうこいつに打ち克った祝いの席なのだから、こいつ的にもどの面下げてって感じではあるんだろう。

 とはいえ俺とこいつは今や二心同体、魂同士が紐付けされて、分かつことのできない状態だ。

 嫌って言っても付き合ってもらおう。

 

『せめて美味しいものでも食べられれば、良いんだけどねえ』

 

 そこは保証する。何しろお偉方も結構来るしな、マリーさんとかソフィアさんとか。会場となる組合本部の立場を考えれば、メインゲストはむしろあの人たちだろう。

 無碍にはすまいし、気合の入ったもてなしもしてくるだろう。それにご相伴預かれるんなら、飯は間違いなく美味いぞ。

 

『…………なら良いや』

 

 そうとだけ呟いて、邪悪なる思念は黙り込んだ。まあ、分かりやすくてよろしい。

 家が見えてきた。今日のところは、もう風呂入って寝るだけ。再度言うけど明日から夏休みだ、テンション上がってきた。

 

「ただ〜いま〜」

「おか〜えり〜」

 

 玄関を開けてほい、帰宅。気の抜けた言葉に気の抜けた返事が返ってくる、いつもの我が家だ。

 だが前と違うこともある。我が家の居候リーベが、我が愛しの妹ちゃんを伴って出迎えに来てくれたのだ。

 

「おかえりなさいませ、公平さん!」

「兄ちゃん、おかえり!」

「おー、ただいま」

 

 お揃いのパジャマ姿が映える、まるで本当の姉妹のような仲睦まじさの二人。いや本当、相性良すぎるだろ。

 ご飯にしますか? お風呂にしますか? そーれーとーもー? なんてお決まりのことを言い出す馬鹿リーベに軽くチョップをかましつつ、俺は優子ちゃんにも向き直った。

 

「あー、優子。元気?」

「えっ、何キモい」

「ひどい」

 

 バッサリかよ怖ぁ……容赦ないよね我が妹様は。

 ただ、優子ちゃんはやはりちょっと落ち着かないようで、どこか視線を逸し気味に、それでも続けて言ってきた。

 

「……ありがと。あの、明日なんだけどさ」

「ああ。前から言ってるけど、色々と説明するよ。この三ヶ月、俺の周りで何が起きていたか。もっと言えば、ずっと昔から……何のために、誰が戦い続けてきたのかを」

「う、うん」

 

 ごくり、と息を呑んで優子ちゃんは頷いた。やはり、並々ならぬ事情があることを察しているみたいだ。先程までと打って変わって、明らかに不安な様子を見せている。

 そんなに心配しないでほしい。きっと、明日にはそんな不安も拭われるだろうけれど。

 俺は、この子の頭を撫でた。

 

「兄ちゃん……?」

「俺は山形公平だよ。ちょっと変わったとしても、あるいは変わってないところがあったとしても。お前の兄貴で、この家の一員の山形公平だ。どうか忘れないでくれよな」

「…………うん」

 

 笑いかけるも、やはりどこか、陰のある表情で。

 優子ちゃんは笑い返した。

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