攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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匂わせダメ、ゼッタイ

 朝ごはんも美味しく食べ終えて、少ししてから俺は家族に先んじて家を出た。説明会に向け、事前に組合本部で準備をするのだ。

 こう言うと大仰なんだが、要するに遠方から来てくださる方々を出迎えたりするってだけの話だね。わざわざ俺の都合に合わせてもらったんだから、最低限このくらいはしておきたい。

 

 爽やかな暑さ、夏の陽射し。風も緩やかながら吹き、清涼感がどことなくある。ジリジリと肌を焼く熱気はどうしたって汗を排出させるが、それさえどこか心地良い。

 ちなみに今、俺は暑さを感じるように因果を戻している。せっかくの夏休みだし、サマーシーズンを隅から隅まで味わい尽くしたいから、暑さだって風物詩でしょうよと考えたのだ。ぶっちゃけ、気分次第だな。

 

 青空には入道雲。セミの鳴き声は川のせせらぎか、あるいはオーケストラか。ここに田んぼでもあれば完璧だった、日本の原風景ってやつ。

 気持ちいい。胸がすくような思いで俺は、組合本部まで歩いていた。

 

『のたのたと、面倒くさいね……空間転移は? 使わないのかい?』

 

 と、脳内で言うのはもちろん、邪悪なる思念。夏の空気のノスタルジーにはまるで縁がないからか、ひどく退屈そうだ。

 そう言うな、こういう面倒くささが味なんだ。空間転移でどこでも一瞬、なんて楽しくもなんともない。

 

『そういうものかい? よく分からない話だ』

 

 まあ、元はシステムでしかないワールドプロセッサに風情を求める方が間違いなのかもしれないが……それを言うと、俺だって元は意思なき因果律管理機構だからな。

 輪廻に乗り、転生を繰り返した果てに得た感性というものなのだろう。今の俺、山形公平のこういう感じ方というのは。

 だったらつまり、お前にもそのうち理解できる可能性が十分にあるということだ。

 

『どうだかね……』

 

 あるさ。絶対にある。ただの機構に過ぎなかった俺が、ここまで辿り着けたんだからな。

 

 邪悪なる思念との脳内お話もそこそこに、俺は組合本部に辿り着いた。まあ毎度ながら、朝から何人か探査者さんがお越しでいらっしゃる。お疲れさまです。

 取りも直さず受付に行き、山形ですけどと声をかける。受付の、割と顔馴染みになってきたお姉さんが分かっていてくれたみたいで、すぐさま大会議室へと案内された。

 

「おお、山形さん。おはようございます」

「おはようございます、広瀬さん」

 

 中に入ると既に、組合本部長の広瀬さんがいて、あれこれ秘書っぽいお姉さんと二人で資料の準備をしていた。互いに挨拶を交わす。

 そして、もう三人ほど。広瀬さんとは裏腹に、優雅に席に着いてお茶など飲んでいる人たちがいる。女性二人、男性一人。

 一人は見知った顔だ。俺はそちらにも声をかけた。

 

「ソフィアさん、おはようございます。一週間ぶりですね」

「ええ、おはようございます山形様。その節は、大変お世話になりました」

 

 女性──WSO筆頭理事、ソフィア・チェーホワ。そして大ダンジョン時代が始まる前、邪悪なる思念と戦っていた先代アドミニストレータでもあった彼女は、変わらずたおやかに美しく微笑み、俺に声をかけてくれた。

 そして、もう一人。彼女の影、表裏一体とも言えるモノへも、声をかける。

 

「それからヴァールも。あれから、大事なかったか?」

「代わりますね────ああ、大丈夫だ山形公平。気遣ってもらって、何やら申しわけないな」

 

 ソフィアさんが数秒目を閉じ、その表情を一変させる。穏やかな聖母めいた微笑みから、色のない無表情へ。人間そのものが変わったような豹変ぶりは、実際のところ、本当に人格が交代しているのだ。

 かつてアドミニストレータと共に戦っていた、先代精霊知能。リーベの先輩、ヴァールが表出して俺に応えた。

 無表情の中にどこか、緊張した空気を出している。

 

「その……山形公平。それとも、別の名で呼べば良いのか? あなたに対してどのように接すれば良いのか、恥ずかしながらワタシは考えあぐねている。無論、どのような形であれ敬意は尽くすが」

「えっ……えっ?」

「?」

 

 めちゃくちゃ遠慮がちに話してくるヴァールの、理由がイマイチ分からない。いや、待てよ。思うにこの人、最終決戦の前からどこか、よそよそしかったな。

 もしかして。俺は少しばかり尋ねてみた。

 

「もしかしてだけど……私が何者なのか、早い段階で気付いていたのか」

「あ、ああ。決戦スキルの継承を終えたあとの三界機構とのやり取りの中で、ワタシはあなたの真実を確信した」

「だからか。謝罪はあとで、とかなんとか言っていたのは」

「うっ……それは、その。どうしたわけか記憶のなかったあなたに、無用な混乱を招かせることになりそうだったから、その」

「うん、まあ……わかるけどさあ……」

 

 彼女にしては珍しく、言葉に詰まった様子で呻く。

 そうだ、彼女は思えば思わせぶりだった。明らかに俺の真実に到達していながら、すべてを終わらせてから話するよみたいな、匂わせ行為に及んでいたのだ。

 

 お前SNSだと炎上してるぞ、と言いたくなるムーヴしてるな、こいつ……振り返って何とも言えないヴァールの動きに、今さらながら呆れる俺だった。

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