攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
WSOの偉い人グェン・サン・スーンさんと、なんか国際的にも影響力があるらしい怖い宗教の人、神谷美穂さん。
ソフィアさんが呼び寄せたらしい──サン・スーンさんはともかく神谷さんはなんていうか、キナ臭いものを感じざるを得ないところだが──この二人は、どうやらアドミニストレータ周りについてはある程度、聞かされていたようだった。
「話を受けたのはつい先日なのだが、ね。いやはや驚いたよ、我々探査者のプロトタイプとでも、呼ぶべき存在があったなどと」
「探査者でなく、本来はオペレータという名でもあると、伺いましたねえ。永年務めてきたお仕事の、ルーツをこの歳で知ることになるとは思いもしませんでした」
「でしょうねえ」
気持ちはよく分かる。システム側の事情なんて普通、生きていてまず聞かされることはないからな。
ましてアドミニストレータだのオペレータだの、いきなりそんな話されても知らんがな、ってのが当然の反応だろう。
「あまつさえ、ソフィア統括理事がそのアドミニストレータとやらで、邪悪なる思念とやらに敗れたことがきっかけで大ダンジョン時代ができ、WSOが組織されたなどと……まるでファンタジー小説のような話だ。正直、気持ちが追い付いてはいないよ」
「私はまだ、そんなこともあるんですねえ、といった感じではありますが。何しろすべてが終わってから聞かされたということですし、どう反応すれば良いやら」
二人とも、やはりというべきか理解がまるで追い付いていないみたいだ。今日の説明で、多少なりとも事情を把握してもらえると良い……のか、な?
いや俺としても正直、なんでこの人たちに裏事情を教えなきゃならんのか、そこはよく分からない。ソフィアさんが呼んだんだから、何かしらありはするんだろうけど。
疑念が顔に出ていたのか、ヴァールがふむと考え込んだ。少しだけ沈黙して、それから俺に言う。
「ソフィアがこの二人を呼んだのは、WSO内で影響力の強い立場にいるからだな。この者たちに事情を知らしめて、今後のWSO、ひいては探査者業界そのものの行末を話し合うために呼んだらしい」
「あー……まあ、なあ」
「大ダンジョン時代は終わり、今はすでに復興の時代へと移行している。数世紀後にはオペレータ制度も消え去るだろうが、そこに至るまでの枠組みや、そうなってからの探査者たちの身の振り方は考えるべきだ。と、ソフィアからの手紙ではそう書いてあった」
「お前とソフィアさん、直接的な意志のやり取りはできないもんな。文通しかできんか」
ヴァールはこくりと頷いた。なるほどなあ。
俺の《攻略! 大ダンジョン時代》の効果によってシステムが全面復旧し、セーフモードは解除された。それに伴い、時代は邪悪なる思念を打ち倒す目的からモンスターの魂たちを輪廻に組み込む目的へと移行し、復興の時代へと移り変わったわけなのだが。
それとて数百年ほどで終わりを迎えるとは、俺も予想していた。
「ダンジョンやスキル、レベルがなくなれば探査者は成り立たなくなる。そうなれば探査者業界そのものも……」
「なくなるな。そうなると人間社会には途方も無い影響が及ぶだろう。今からその対策について考えねならないというのが、ソフィアの考えだ」
大ダンジョン時代はダンジョンの時代だった。付随して、スキルやレベルの時代だったと言えるかもしれない。
オペレータたちがダンジョンを踏破することで発生する、経済効果は計り知れないものがある。
素材一つとっても、大ダンジョン時代以前にはあり得なかった未知の効果を備えたものばかりだ。今やあらゆる界隈で、モンスターの素材は大活躍していると言える。
探査者自身、億万長者が多いしな。経済を回している、なんてそこまでは大層な物言いだが、強ち違うとも言い切れないのが実際ではある。
そんな時代のメインストリームが、徐々にではあるがなくなっていく。その影響たるや、もはやワールドプロセッサにすら想像できまい。
ゆえにだろう。ヴァールが言うには、あいつも割合と寛容な姿勢を示しているようだった。
「綺麗さっぱりとそれら要素を消し去るのか、あるいは別の方向性に流用するのか。ここまで協力してくれたオペレータたちにある程度は委ねたいと、ワールドプロセッサもそう言っている」
「まず消し去ることは考えにくいから、実質的に流用の許可だな、それは。人間社会に大混乱を招くことを厭ったか」
「英断だとワタシは思うよ。本来意図せぬものではあるが、異界の概念は、この世界に馴染みすぎた」
どこかしみじみと呟く、彼女に頷く。
元々なかったものだが、長年かけて定着してしまった以上、大ダンジョン時代の各要素はもはや、切り離せないものとなっていると言える。
なかったことにはできないんだろうし、してはいけないのだろう。俺がコマンドプロンプトのプランを、覆したように。
すべて受け入れて、それでも前に進むだけなのだ。