攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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これを感謝というのだろう

 そろそろ説明も終わりに近い。コマンドプロンプトが何を考え、何を成すために山形公平に転生したのか。そこまで話したならば、残すところの話すべきことはもう、そう多くない。

 

「山形公平として人間に転生したコマンドプロンプトは、果たして計画通りにアドミニストレータになり、邪悪なる思念を追い詰めるところまで漕ぎ着けました。無論、ここにいる皆様方の尽力があって初めて到達できたことであるのは、言うまでもありません。この場をお借りし、改めてお礼申し上げます。ご助力いただき本当に、ありがとうございました」

「何をそんな……それでも最後には、あなたがすべてを背負ったわけじゃないですか」

 

 深々と頭を下げる俺に、香苗さんが沈痛な表情で俺に言った。なんか涙目になっている。なんでだ。

 見ればマリーさんやリンちゃんも顔が暗いし、家族も複雑な顔をしている。望月さんなんてさらにさめざめ泣いちゃってるし、それをあわあわ慰めるベナウィさんが冷や汗をかいていた。お疲れさまです。

 

 総じて微妙な反応に内心、面食らいながら。ここまで来たらとりあえず終わらせようと、俺は続けた。

 

「邪悪なる思念を追い詰めた俺、山形公平は、コマンドプロンプトの予測通りの末路を迎えました。やつに心臓を貫かれ、その場でたしかに死んだのです。ですがそこで、まったく予想外の事態が起きた」

「…………奇跡」

 

 静かに呟く香苗さん。

 そう、奇跡は起きたんだ。最後の最期に、特大の奇跡が。

 何もかも全部受け止めて、それでも前に進んでいけるだけの奇跡が、土壇場で起きてくれたんだ。

 

「ええ、そのとおり。そちらの御堂香苗さんが持っていた、一度限りのスキル《奇跡》。予めマーキングしていた相手が死を迎えた時、完全に復活させるスキルが発動したんです。対象は言うまでもなく、山形公平」

「《奇跡》とな!?」

「死者を蘇生させるスキルなんて、そんなものが!?」

「本来ならばオペレータどころか、アドミニストレータにすら与えられるはずのない、データとしてのみ存在していたスキルです。因果律を歪める、恐ろしいものですからね。それがなぜ香苗さんに授けられたのかは……正直、私にも分かりません」

 

 なぜ、陽の光を見ることがないはずのあのスキルが、香苗さんに渡されたのか。ワールドプロセッサは果たしてどこまで考えていたのか……そこはマジで分からない。

 だが結果的に最善のタイミングで最高の働きをしてくれた、そのことは揺るぎない事実だ。真実がどうであれ、俺はワールドプロセッサに感謝するべきだろうな。

 

「ともあれ結果として、《奇跡》により蘇った私、山形公平はコマンドプロンプトと意識を融合した、全く新しい山形公平に生まれ変わりました。そしてやり直しでなく、侵略されたシステムを完全回復させるスキル《攻略! 大ダンジョン時代》を発動したのです」

「攻略……滅尽滅相でなく?」

「コマンドプロンプトとしての権能を使い、《滅尽滅相、大ダンジョン時代》を改竄して創り上げた新スキルです。それにより邪悪なる思念を分解し、発生したエネルギーで侵略されていたシステムを元通りにしました。それを以て、大ダンジョン時代は終焉したわけですね」

 

 やり直すのではなく、受け止めて前に進む。

 滅ぼすのではなく攻略することを、コマンドプロンプトならぬ山形公平は選んだ。

 ワールドプロセッサ、コマンドプロンプト、邪悪なる思念。それらの思惑をすべて超えたところに、俺は辿り着いたんだ。

 

 間違いなく、山形公平でしか到れなかった今だ。15年という短い月日だが、その間に俺が受け取った愛情、友情、想いは、ひたすら隠れていたコマンドプロンプトの500年さえ超えてくれた。

 人間として過ごした日々が、俺に、前を向いて歩く勇気を与えてくれたのだと確信している。

 

 みんなを見る。

 香苗さん、望月さん、リーベ、マリーさん、リンちゃん、ベナウィさん。

 広瀬さん、サン・スーンさん、神谷さん、ソフィアさん、ヴァール。

 父ちゃん、母ちゃん、優子ちゃん。

 そして──ワールドプロセッサ。

 

 誰一人として欠けていればきっと、500年前からのやり直しが行われていた。何もかもをなかったことにして、すべてが消し去られていた。

 山形公平は一人じゃない。そんな、あたりまえのことを教えてくれたみんなに俺はもう一度、頭を下げる。

 

「……以上が、大ダンジョン時代の発端と終焉に至るまでです。長い話で恐縮でしたが、ご清聴いただきありがとうございました」

 

 しばしの沈黙。リーベを除いた誰もが、俺の話をどう受け止めたものか、悩んでいるようだった。

 それでいい。時間がかかって良いから、何が起きていたのか、どうやって結末を迎えたのか。どうか、ゆっくりででも受け止めてほしい。

 

「正直、全然話を理解しちゃいないが」

 

 父ちゃんが、おもむろに言い出した。その瞳には困惑も見えるが、それ以上にまっすぐ、俺に向けての信頼を湛えている。

 

「それでも公平が、ずっと、それこそ生まれる前から戦い続けて来たのは分かった。命すら捨てて、世界を護ろうとしてくれたのも分かった」

「…………父ちゃん」

「他の誰がなんと言おうと、俺はお前を誇りに思うよ。うちのせがれは、世界で一番やさしくて強いってな!」

「生きて帰ってきてくれて、それが一番だよ。頑張ったね、公平」

「お疲れ様……お兄ちゃん」

「母ちゃん、優子……」

 

 家族の温かい言葉が、心に染みる。コマンドプロンプトでもある俺を、それでも山形公平だと言って、受け入れてくれる。

 そのことが、どうしょうもなく嬉しくて視界が潤む。

 

 ありがとう……本当に、ありがとう。

 俺は、あなたたちの家族に生まれて良かった。

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