攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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とくに理由のない正論が山形を襲う!

『うーむ……この、生魚の切身を白米に載せただけの代物がなんでこんなに旨いのか。謎だ、謎すぎる……』

 

 まぐろ、いか、たこ、穴子、サーモン、いくら。

 食うたび食べるたび、こんな風に邪悪なる思念が唸りをあげる。どうやらシンプルながらも奥深い、繊細かつ神秘的な料理であるところの寿司の味わいに、すっかり魅せられてしまっているようだった。

 ていうかこいつ、食うことばっかに反応してるな。他になんかないのか? 仮にもかつてはワールドプロセッサだったんだろ、お前。

 

『何にどんな反応したって良いじゃないかよ……それに、他のなにかと言われてもね。僕をこんなにした君と、君の取り巻きたちについて反応しろなんて、よほど脳内をドス黒く染めたいと見えるね』

 

 怖ぁ……殺意と憎悪全開かよ。まあ、実質お前を消滅させた要因になったメンバーばかりだもんな。恨み辛みはある程度理解するよ。

 言うまでもなく、自業自得だけどな。今、お前の抱いている感情は、お前がこれまで喰らってきたモノたちみんなが抱いていたものだよ。

 

『むか! 良いから寿司だけ食べてなよ、次だ次!』

「公平さーん! 楽しんでますか〜!?」

 

 俺の言葉が癪に障ったか、怒りながら寿司を強請ってくる。逆ギレなんだよなぁ……

 かと思えば今度はリーベだ。相変わらず陽気で朗らかに、ニコニコ笑いながら俺に抱きついてくる。

 

「っと! おいリーベ、ご飯中に行儀悪いぞ!」

「えへへー、ごめんなさーい! つい、テンション上がって楽しくなっちゃってますー!」

「すごいはしゃぎようですね……」

 

 ルンルン気分! って感じで振る舞う我らが精霊知能に、香苗さんが苦笑いした。

 たしかに、いくらリーベでもここまで舞い上がっているのは割と珍しい気がする。説明会も終わってあとは祝勝会だけだし、一足先に浮かれてるのかな。

 と、リーベはだってだってと告げてきた。

 

「500年ですよー!? 分かるでしょうコマンドプロンプト、500年もずーっと続いてきた戦いが、ようやく終わったんですよー! 改めて今、実感がこみ上げてきたんですー!」

「ん、それはまあ……俺にも少しは理解できるけど」

「何言ってるんですかー? 話を聞くに、ワールドプロセッサ並に暗躍していた方がー!」

「はあ?」

 

 いきなり何言い出すんだこいつ、酒でも飲んでるのか?

 暗躍こそしていたが、ワールドプロセッサほど熱心、かつ必死じゃなかったし。ていうか正直、あの陰謀家と肩を並べてるみたいな物言い止めてほしいし。普通に嫌だし。

 ニヤニヤと、リーベが笑みを浮かべながら語る。

 

「人格発生からすぐさまリーベたちから身を隠してー、350年以上もひたすら、邪悪なる思念を利用した時間逆行スキルを練り上げてー、リーベの組んだ計画にしれっと人間に転生して乗っかってきてー、最後の最後に現れて、全部掻っ攫おうとしてー」

「う……」

「ワールドプロセッサが気付いていたかはともかく、少なくとも精霊知能側は一切、気付けませんでしたけどー? これで暗躍してなかったはナシですよナシー!」

「すごいです、公平様……!」

「望月さんキラキラした目を向けるの止めてもらっていいですか?」

 

 こんなことで感心やらされても恥ずかしいだけだわ。うん……リーベ視点だとマジでぽっと出だな、コマンドプロンプト。

 特に最後の掻っ攫い未遂。自分で言うのもなんだけど、こんなもん普通に乗っ取り行為だ。アドミニストレータ計画に乗じて時間逆行計画を隠れて進行させていたんだから、陰謀とか暗躍とか言われたらぐうの音も出ない。

 

 もちろん、責任を果たすとか、不足していた最後の一手を補うとかの目的が第一だったのはあるけれど。

 その末にリーベやワールドプロセッサが意図していない結末を迎えかけたんだから、俺も割と迷惑なことしてたよなあ。

 いたたまれない罪悪感から、素で謝る。

 

「ごめんなさい……」

「え。あっいえ! 別に責めてるわけじゃないですよー!?」

 

 間違っていたとも思わないけど、迷惑をかけたことはたしかだ。なので素直に頭を下げたんだが、リーベはむしろ、慌てて否定してきた。

 

「たはー、やられましたー! って感じのかる~いノリですし! それに、もし本当に逆行術式が発動していたならともかく、寸前で公平さんがより良い形に導いてくださったじゃないですかー!」

「なかったことにしてやり直す、ではなく受け止めて乗り越える……攻略する。公平様らしい、優しい選択だったと思います」

「慈悲と慈愛に満ちた教え。あなた様の示されたお姿を、私たちも踏襲して広めたく思います!」

「やめてください」

 

 俺の言動の一つ一つを教え的ななにかに変換しようとする香苗さん。そのうちくしゃみ一つ論ってなにかの啓示みたいに語りだしそうで怖い。

 誤魔化しがてら寿司をぱくつく。うーまーいーぞー! と邪悪なる思念が脳内でうるさい。こいつ、なんかおもしろペットみたいになってきてないか?

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