【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
全速力で走れば、北口までは数分かからず辿り着いた。
来た当初の南口同様、モンスターがうじゃうじゃと屯っている。先程は一気にまとめて蹴散らしたからよく見てなかったものの、たしかにD級相当だけあってゴブリンやスライムだけではない。
豚面の獣人オーク、鬼のようなオーガ、キングコブラをそのまま巨大化したようなサーペント、糸が切れた操り人形が自律して動いている、パペット。
まったくバリエーション豊富な光景だ、モンスターマニアには堪らないかもしれないな。
「……関係なく潰すけどな! でりゃあっ!」
北口から商店街の外へと出ようとする群れの、背後から強襲。パンチ一発が大砲の弾のように一直線にモンスターたちを貫き道を開き、キック一発が的確に敵の脳天をブチ破って粒子に変えていく。
光に変わっていく中で、どこかモンスターたちから解き放たれた気配を感じる。なんだ? こいつら……歓喜している?
直感に過ぎないからなんとも言えないが、そもそもモンスターにそんな、感情表現なんてあるものなのか。よく分からないままだが、今は商店街を護るのが先決だ。
ひとまず北口の入りに到達する。ここに来るまで相当数モンスターを倒したが、まだまだ総数としてはかなりの量だ。
と、この場を封鎖してモンスターに対処していた探査者たちが寄ってきた。
「連絡は受けている! 山形くんだな、助力ありがとう!」
「いえいえ! 南口はもう大丈夫なんで、後はここかと!」
「御堂さんも今、ダンジョンに潜り始めたとのことだ! じきにこの騒ぎも収まる、悪いがもう少しだけ手伝ってくれ!」
「もちろんですとも!」
互いに状況を把握して、敵に向き直る。
未だこっちに向かってきているが、更にその向こう、解放した南口から、探査者たちがやってきている。
挟み撃ちの形になるな。これなら何とか、やりきれそうだ。
気を抜かずに、構える。そんな俺に、後ろから声がかけられた。
「山原、何でここにいるんだ……!」
「……山形ですけど。関口くんも来てたんだ」
関口くんだ。D級だから、まあここにいてもおかしくないのか。
こんな状況でも構わず敵視してくるのは、あまりにいつも通りすぎていっそ感心すら覚えるけど……
さすがに場の空気は読んでほしい。あれっ、立場逆転してる?
「F級が、何のつもりでここにいるんだ? 帰れよ。香苗さんに取り入って、ご機嫌取りで何しても良いと思うな。迷惑だ」
「今、そんなことを言ってる場合かな」
「役立たずがいたって仕方ないって話だぞ、F級!」
「止めろ、関口! 今そんなことしてる場合か、彼は強力な助っ人なんだぞ、見りゃ分かるだろ!」
思いっきりモンスターそっちのけで絡んでくる関口くんに、見かねたおじさん探査者が叱ってくれる。
助かる。率直な感謝と共に、やってきたモンスターを数体、素手で破壊する。
……威力が落ちている。他の探査者との共闘だからか、《風さえ吹かない荒野を行くよ》の効果が切れてるみたいだ。
なんでボッチ前提のスキルなんだよシステムさん。こういう時に困っちゃうだろ!
「なんでですか!? あいつは大した実力もないF級で、香苗さんに取り入っているだけだって斐川さんも言ってたでしょう!」
「さっきまではな! 今の光景見て俺が馬鹿だったって悟ったよ! 彼は本物だ、御堂なんて関係ねえ!」
「なにをっ」
「そもそも今は緊急時だ、私情で遊ぶな! 何年探査者やってるんだ、馬鹿野郎!」
関口くんとおじさん探査者、斐川さんっていうみたいだ、は今も口論をしている。
そういうのは後にして、今はモンスター倒そうよ〜。他の探査者さんもイライラしながら仕事してるし、俺が口論の発端なこともあってちょっと居た堪れない。
そんな時、関口くんと斐川さんの横をモンスターが素早く通り過ぎた。
あれは……資料で見たことがある。狼人間という、獣人型でスピード特化のモンスターだ。普通はB級ダンジョンに出てくるようなやつだぞ、どうなってるんだ?
二人は対応できそうになし、次いで近くにいる俺が対応するべく追いかける。
「っ! 待て、勝手な真似をするな!!」
「うわわっ!?」
と、関口くんに襟を引っ張られて止められた!
馬鹿な、正気じゃない! こんな時にまでこんなことをするのか!?
思わずカッとなり、俺は彼の手を掴んだ。
「馬鹿な、ことをするんじゃない!!」
「何──うわぁあぁっ!?」
捻り、外し、そのまま投げ飛ばす。吹っ飛んでいく関口くん。
驚愕した斐川さんの顔も横目に俺は狼人間を追う。
やつはアーケード街を出て、退避する人々に向け、襲いかかろうとしていた!
「させるか!」
咄嗟に割り込み、両手で両腕を掴んでその歩みを止める。
すごい力だ……《風さえ吹かない荒野を行くよ》の効果がない今の俺だと、どうにか持ち堪えるのが精々ってところか?
これは難儀するかも、なあ。
「ぐ、く……っ! 早く、逃げて!」
「や……山形くん?」
「く、う……、っえ?」
何とか押し止め、後方の人々に退避を呼びかけていた俺の名が呼ばれる。
振り向くとそこには、恐怖に慄き動くこともままならない人たちに混じって、佐山さんはじめクラスメイトの女子が数人、いた。