攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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誰より近く、何より遠いアナタ

 ワールドプロセッサからの、これまた唐突な称号付与はさておいて──謎の議論を巻き起こす二人から目を逸らしたいのでさておいて──、俺たちは研究所へと入った。

 もう何度となく訪れているから、所員の方々も勝手知ったるってなもんで、すぐに談話室に通されてアイを連れてきてもらった。

 もっともソフィアさんがいるのは想定外だったみたいで、対応してくださった方がまあ、可哀想なくらいガチガチに緊張なさっていたが。なんか申しわけないな。

 

 ともかく。そんなわけで俺たちの元へと今、アイはやってきていた。

 

「きゅう〜っ!!」

「おっと」

「きゅっ、きゅっ、きゅー!」

 

 相変わらず放し飼いらしいアイが、俺を見るなりいきなり胸元に飛び込んできた。甘えるようにしがみついてきて、鳴き声をあげる。

 相変わらずのミニチュアドラゴンだ。子猫くらいのサイズで、尻尾をブンブン振り回している。愛らしいつぶらな瞳が俺を見上げて、久しぶりー! って感じに訴えていた。

 

『これが、あのドラゴンの成れの果てかぁ……あんなに大きかったのがまあ、小さくなっちゃって』

 

 邪悪なる思念が脳内でボソボソと言った。自分の腕から生まれたものが、巡り巡ってこうなったのにはさすがに、複雑な声音を滲ませている。

 まあ、かわいいから良いんじゃないかな? 脳内でそう答えながらもアイの顔を覗き込むと、なんとなくこの子は、笑ったようだった。

 

 うん、元気そうで良かった。俺のスキル《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》によって再誕したこの子の体は、何ら問題なく一個の生命として機能してくれているみたいだ。

 優しく、その頭を撫でる。くすぐったそうに気持ちよさそうにすりついて来るアイの姿は、なるほど研究所の人たちを骨抜きにするだけの破壊力はあった。

 

「か……かわいいっ!!」

「うおっ!?」

「きゅっ!?」

 

 突然、俺とアイを見ていたリンちゃんが叫んだ。びっくりする、なに急に。

 見ると、幼い顔立ちは興奮に赤く染まり、ただ一直線にアイへと視線を向けている。爛々とした目が、なにか怖さを感じさせる。

 唖然とみんなが見る中、震える声でリンちゃんは呟く。

 

「こ、これが……ドラゴン。かわいい……かわいすぎる……」

「ふ、フェイリンさん?」

「見たことない……奇跡みたい……! こ、こんな生き物が、この世に……!!」

「えぇ……?」

「きゅう?」

 

 怖ぁ……察するにアイの愛らしさにハートをズキュン! ってされたんだろうけど、それにしたって反応が怖い。

 当のアイは何が起きたか分からず、異様に熱っぽい眼差しを向けるリンちゃんに首を傾げつつ俺にしがみついてくる。なんならその様に嫉妬したのかリンちゃんが、俺にまで羨望の視線で見てくるんだから恐ろしい。

 どうしたもんかなあ。とりあえず、俺はアイを差し出してみた。

 

「ええと……触ってみる?」

「きゅっ?」

「いいの!? 触る!!」

 

 言うや否や、神速で俺からアイを受け取るリンちゃん。え、めっちゃ速い! 星界拳の体捌き全開じゃ〜ん。瞬時に彼女の胸に収まったアイが、え? え? なに? って感じで俺を見てくる。

 そんな仕草がますますリンちゃんを興奮させたようだった。優しく抱きしめながらも頬ずりして、めちゃくちゃ幸せそうに言う。

 

「かわいい〜っ! ぬいぐるみみたい! マスコット、お人形!!」

「ドラゴンですけど!?」

「ふーむ。ミス・フェイリンにはまさしくクリティカルヒットのようですねえ。たしかに私の目にも、愛らしく映ります」

 

 はしゃぐ彼女の、年相応な姿にベナウィさんがどこか、ほっこりした様子で呟いた。たしかご家族さんがたくさんいると聞くし、お子さんのことでも思い出しているのかな。

 見れば香苗さんや望月さんも、アイを抱くリンちゃんを羨ましそうに見ている。たしかに可愛いからなあ。特に女性にはヒットマークなのかもしれなかった。

 

「──なるほど。それが件の、マリアベールが言っていたドラゴンか。映像でも見たあの巨体が、よくまあここまで小さくなったな」

「ん? ……ヴァールか。ソフィアさんと代わったのか」

「ああ。説明会は無事に終わったようだな。何よりだ」

 

 ふと、ソフィアさんから人格を切り替えてのヴァールが表出し、そんなことを言ってきた。

 手にはスマホを握っている……なるほど。ヴァール用に、表出していた時の成り行きをメモしていたのか。それを見て、自分の今置かれている状況を把握したわけだな。

 感心して俺は言った。

 

「すごいな、完全に文通みたいにやり取りしてるのか」

「ああ。もはやワタシとソフィアは直接、やり取りすることは叶わないからな。不便だが仕方ない……とうにいないはずの人間と、こうして身体を共有できている。それだけでも過ぎた幸福なのだから」

 

 切なそうに笑うヴァール。やはり本音のところは、ソフィアさんともう一度会って、面と向かって話したいんだろうな。

 誰より近く誰より遠い。不思議な間柄の彼女たちだ。

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