攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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なにができるの?やまがたくん!

 それにしても、とヴァールがアイを見て呟いた。

 

「邪悪なる思念の一部が、まさかあそこまで無害なモノになるとはな。あなたの権能による分解と再構成だったか? みごとだ、コマンドプロンプト」

「ん、まあ……実際、結構土壇場だったんだけどな」

 

 怨敵たる邪悪なる思念が、一部とはいえあの愛くるしいミニチュアドラゴンに姿を変えたことに、複雑そうな顔を向けている。

 ソフィアさんを殺された恨みや怒りがあることを踏まえると、アイがすでに、独立したひとつの命であることを受け入れつつもなるほど、微妙な顔にならざるを得ないんだろう。

 それだけ相棒たるアドミニストレータを愛していた彼女の感情を、否定することはできない。

 

 しかしアイはアイ。邪悪なる思念とはもう別の存在なんだ。

 そのことを念押しするように、俺はかつてを振り返った。

 

「《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》。《風浄祓魔/邪業断滅》を改竄して創ったスキルなんだけど、実のところその時、中途半端に覚醒しちゃっててな」

「覚醒……コマンドプロンプトにか?」

「ああ。山形公平の願いに応える形で、一時的にだがコマンドプロンプトが表出したんだよ」

 

 当時、巨大な赤ん坊ドラゴンだったアイは、それゆえに生きているだけで周囲に被害を撒き散らす災厄と化していた。

 討伐に向かった俺と香苗さん、マリーさん、望月さんに逢坂さんの奮闘もあり、あの子を殺す寸前まで追い詰めたんだが……そこで山形公平が否やを唱えた。

 ただ生きたいと願うだけの命を、迷惑だからというだけで殺すことについて、明確な拒否を示したのだ。

 

 紛れもなくそれは、ワールドプロセッサにとっても精霊知能にとっても、なんならコマンドプロンプトにとっても想定外の言動だったわけで。

 下手するとその時点で山形公平を切り捨てて、コマンドプロンプトが表出してもおかしくなかったんだが。どうしたことか逆に、コマンドプロンプトは山形公平に力を貸したのだ。

 

「融合を果たした今なら分かるんだが……生きたいと願うだけの命を邪悪と見做すなら、ワールドプロセッサも精霊知能も邪悪だという、山形公平の主張にコマンドプロンプトは反論できなかったんだ」

「我々も、言ってしまえば我々の世界を存続させたいと、願うばかりのシステムだからな」

「人間らしい倫理観と理屈が、どこまでもシステマチックでしかないシステム側を明確に説き伏せた。それゆえコマンドプロンプトは、一時的に因果改変の権能を山形公平に譲渡したんだ」

「その結果の、スキル改竄か……」

 

 今回限りと、わざわざメッセージまで残した上でコマンドプロンプトは《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》の作成に協力した。思えば、このあたりからコマンドプロンプトにとって、山形公平は単なるマッチポンプ用の踏み台ではなくなっていったのかもしれないな。

 結果として《奇跡》によって蘇生した山形公平の人格を、半ば受け入れる形で融合を果たした背景には、間違いなくこれらの一件が影響していた。

 そこまで語ると、なるほどと頷いてヴァールが応えた。

 

「権能だけを一時的に使える状態とは、たしかに中途半端な覚醒だな。それでもあのようにしっかりしたスキルを創り上げたのは、さすがに因果律管理機構といったところか」

「まあなあ。もっとも人間の身に過ぎた行為だったのはたしかだから、その直後にぶっ倒れて病院送りになっちゃったけどな!」

「無茶をする。ソフィアといいあなたといい、人間は容易く己を犠牲にしてしまえるのがなあ」

 

 俺とソフィアさんを重ねているのか、ため息混じりに苦笑している。あんなに気高い人と同一視されるのは、さすがに俺では役者不足な気しかしないが悪い気もしないな。

 と、隣で話を聞いていたベナウィさんが質問してくる。

 

「ミスター・公平。その、因果改変というのは何をどこまでどうできるのですか? どうも漠然とした能力に思えているのですが」

「っ! そうです公平くん、さきほどの質問です! 因果改変とはなんなのですか、具体的にはどういう能力なんですかっ!?」

「うおっ、香苗さん!?」

 

 耳聡く聞き付けて、リンちゃんを伝道しようとしていた香苗さんがヌッと寄ってきた。素早すぎる!

 さっきも聞かれた、コマンドプロンプトとしての俺の権能についての質問。なんなら気になったのか望月さんやリンちゃんも、アイを抱きしめたまま近付いてくる。

 あっ、アイがまたしても俺の胸元に。たっぷり遊べたみたいでめちゃくちゃ上機嫌に尻尾を振っている。良かったな、アイ。

 

 しがみつくアイをなんとなく軽く抱いて、あやすように揺らしながら、俺は香苗さんたちに応える。

 

「ん……何をどこまでどうできるか、と問われますと、何でも、どこまでも、どうとでもできる。と答える他ないですね」

「なんでも!? どこまでも!? どうとでもっ!?」

「え、ええまあ。一応、因果律とはこの世の理ですし」

「この世の根幹にあるもの、それが因果だ。とすればそれを管理するコマンドプロンプトとは、世界の根幹そのものと言っても過言ではない」

「せ、世界の根幹っ……!!」

 

 興奮しまくってる香苗さん。高血圧で倒れそうだ、怖ぁ……

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