攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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シェン、来日

 夏の夕暮れ。涼しくなりゆく街角に、一陣の風が吹いて濃厚な緑の匂いを運んでくる、そんな頃合い。

 祝勝会の会場、湖岸沿いに聳え立つ県有数のホテルに向かってのたくた歩く俺たちは、思い思いに話しつつもリラックスしている。

 ふと気になって、俺はリンちゃんに話しかけていた。

 

「リンちゃんは、今日の会にどなたか親族の方、お呼びしてるの?」

「? うん。長老と、兄ちゃんと姉ちゃん」

 

 マリーさんやベナウィさんよろしく、誰かしら連れてきてるのかと聞いたらそんな答えが返ってくる。

 長老……シェン一族の里で一番、偉い人かな。あとリンちゃんのお兄さんとお姉さん、か。全員、やはり星界拳の達人なんだろうなあ。

 

「ん。長老と兄ちゃんは地覇、姉ちゃんは天覇で、A級探査者」

「ええと……天覇ってのがたしか、スキルを持たないと到達できない段位なんだっけ」

「そう。私も天覇。えへん、えへへん!」

 

 薄らかな胸を張って天覇であることを誇るリンちゃん。やはり自分の流派と一族に、並々ならぬプライドを持ってるよなあ、この子。

 いくらか話を聞いていると、その、長老とかお兄さんお姉さんについてが分かってきた。

 

「兄ちゃん、スキルはないけど星界拳の腕は一族でもトップクラス。スキルがあったら間違いなく天覇」

「え……それって、一族最強とかってこと?」

「さすがに私よりは下! 私、星界拳最強だから正統継承者!」

「あ、はい」

 

 めっちゃ主張してくるリンちゃんさん。いやまあ、そりゃあそうか。最強だからこそ正統継承者なわけだし、決戦スキル保持者として認められたわけだろうし。

 しかしそんなリンちゃんをしてトップクラスと言わしめるとは、相当なんだな、お兄さん。

 

「姉ちゃんは私より八つ上。A級探査者で……香苗さんの、自称ライバル」

「私の?」

 

 俺たちのすぐ後ろを付いて歩きながら、望月さんと挟んでソフィアさんに伝道行為に及んでいた香苗さんが反応した。自分のライバルとか言われたら、さすがに気にはなるか。

 それにしたってライバルとはまた、まさかの熱血っぽい単語が出てきたな。問われてリンちゃんは少し、苦笑いを浮かべた。香苗さんに顔を向け、応える。

 

「あくまで自称、です。シェン・ランレイ……ご存知、ありますか?」

「……ランレイ。いえ、すみませんがお会いした覚えはありませんね。どこかで会っていたなら、申しわけないですが」

「そんなこと、ないです……姉ちゃん、勝手に言ってるだけ、ですし」

 

 リンちゃんこそ申しわけなさそうに、あるいは恥ずかしそうにすらしながらも頭をかいていた。

 何やら、変な人の匂いがしてきたぞ。会ったこともない香苗さんのライバルを自称するとは、これ如何に。話をさらに聞くと、なんとも個性的な人物像が浮かんできた。

 

「姉ちゃん、元々S級探査者に憧れてて……A級探査者にまではなれたんです、けど。一年くらい前から、伸び悩んだみたい、で」

「ああ……ありますね、そんな時期。私にも覚えがあります」

「香苗さんにも、ですか?」

「もちろん。と言いますか、大概の探査者には付き物の感覚でしょう。限界のようなものに打ち当たるというのは」

「ありましたね、私も。懐かしい……何をどうやっても上手くいかない感覚は、辛いですよねえ」

 

 共感を以て語る香苗さんに、ベナウィさんもうんうんと頷く。ソフィアさんもどこか、懐かしそうにしている。

 S級に限りなく近いA級トップランカーと、状況が整えばS級の中でもトップクラスの探査者。揃って未だ俺やリンちゃん、望月さんにとっては雲の上の人と言える。

 そんな人たちの言葉に、リンちゃんは感銘を受けたように頷いて、さらに続けた。

 

「そう、なんですね……! うちの姉ちゃんも、どうにか壁を打ち破ろうって、努力し続けて。それで目標を、香苗さんに設定したんです」

「私に、ですか」

「A級トップランカーを超えた時、S級への道は拓けるって。御堂香苗が自分にとって、越えるべき壁でありライバルだって。そう、言ったんです」

「なるほどなあ」

 

 壁に当たった末に、香苗さんという目標を立てたんだな。S級に最も近い彼女を超えた時にこそ、新たな地平が見られると信じているわけだ。

 リンちゃんのお姉さん、ランレイさんの向上心の強さを感じるのと同時に、香苗さんの有名さというか、探査者にとって目標とすべき存在なんだというのを改めて実感する。

 A級トップランカーだもんなあ。マリーさんもいつぞや、技術的にはS級でもやっていけるって言ってたもんなあ。世界中の探査者たちの、憧れの人ってことだ。

 

「香苗さん、ぜひ、姉ちゃんに会ったらアドバイスしてあげて、ほしいです」

「私にどこまでの助言ができるかは、正直分かりませんが……まあ、言えることがあれば言いましょう」

「謝謝! お礼に好きなだけ、姉ちゃんを伝道して良いです!」

「良くないよ!?」

「本当ですか!? 喜んでアドバイスしましょう!!」

 

 平然と姉を売った恐るべきリンちゃんに、俺はツッコみ香苗さんは喜び勇んで頷いた。

 逃げて! ランレイさん逃げて!!

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