攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
準備ができたとのことなので、食事の用意された部屋に向かう。待機室からすぐ近くにあり、みんなでゾロゾロと並んで歩く。
国籍まで含めて色んな人たちの集団なので、傍から見ればなんだなんだってなるだろうな、この光景。
案内された部屋に入る。聞いていたとおり和室風の様相で、真四角に並べられた座席には座布団がそれぞれ敷かれていて、あれやこれやと料理が据えられた御膳が人数分、置かれている。
特に決まった並びもない気はするんだが、ここはやはり社会的立場がより高い人が上座なんだろう。若干戸惑いげにこちらを見るソフィアさんに、どうぞと手で上座を指し示してみる。
すると少し悩んだ素振りを見せてから、彼女は俺に近付いてきて、手を握って引っ張ってきた。
「え。いやいやソフィアさん、俺連れて行ってどうするんですか」
「逆にお聞きしますけれど、あなたがあそこに座らなくて誰が座るんです? 間違いなくこの場にて一番立場が上で、何より決戦の立役者ですのに」
「社会的立場の話をしたいんですけど……」
「存在としての格の話をするべきですわ」
いかん、案外押しが強いぞこの人!
このままでは国連組織の、やたら偉い方々に混じって一般探査者山形くんが上座に座るという絵面になってしまう。ストレスで飯が食えなくなりそうなんですけど怖ぁ……
「山形さんとは私も、いくつかお話したいことがあります。ふふ、会食しながらというのは優雅かもしれませんね」
「神谷さん?」
「……お恥ずかしながら、コマンドプロンプトであるあなたに、ぜひお伺いしたいことがありまして」
何やら笑顔を一転させて憂いげに、話があると言ってくるのはダンジョン聖教とやらの先々代聖女、神谷美穂さん。
なんだろう? ちょっと真面目な話っぽいし、何より山形公平というよりコマンドプロンプトに向けての相談ごとっぽいし。となれば話を聞かないわけにもいかない。
仕方ないな。俺は頷き、大人しくソフィアさんに手を引かれて上座に向かった。いや手を引かれる必要なくない?
そんなに逃げ出しそうに見えるんだろうか、俺。
「さ、どうぞ!」
「……いや上座真ん中て。さすがにソフィアさんが座ってくださいよ」
「いえーその、私、実はこういうパーティーで偉ぶった席に着くの、あまり好きでなくて……」
「俺だって嫌ですけど」
この人、自分が座りたくないから色々理屈付けて、俺に押し付けてきてるだけだこれ!
出入り口から一番離れた四角形の一辺の、ど真ん中。完全に会議とかで一番偉い人が座るそこに、彼女は俺を座らせようとしている。
なんてこったWSOの統括理事ともあろう御方が、いたいけな男子高校生に身の丈に合わない席を示して苛めようとしてくるなんて!
「僕よくわかんないんで端っこのほう座りまーす。神谷さん行きましょうかー」
「え? え、ええ。そうですね?」
「ああっ……」
するりとソフィアさんの手を離して神谷さんと、上座でも端っこの方に座る。これでも場違い感はあるけれど、まあ最悪でないだけマシだ。
ソフィアさんの哀しげな視線が俺へと向けられているが無視。ていうかその、捨てられた女ですみたいな情念籠もった目はやめてほしい。高校生男子になんて顔してんだあんた!
「うう、今回ばかりはこんな席に座らなくて良いかもと期待していましたのに。捨てられました」
「はいはい。ソフィアさん、良いから座ってくださいよ。公平ちゃんにしょーもないちょっかい、出すもんじゃないですって」
「押しも押されもせぬWSO統括理事が、そのような振る舞いとは感心できませぬなあ」
「マリーちゃんにサン・スーンくんまで素っ気ない……」
マリーさんにサン・スーンさんでさえはいはい分かった分かった、良いから座ろう? 的に促してきて、渋々だがようやく、ソフィアさんは上座のど真ん中に座った。
良かった……なんで子どもが真ん中陣取ってるんだ、なんて思われてしまう山形くんはいなかったんだね。ホッと一安心して俺も座る。
隣に座ったお婆ちゃん、神谷さんが品良くも笑っていた。
「ソフィア様、何年経っても変わりませんね……見かけもそうですけど、何より心が」
「昔から、上座を嫌がってたんですか?」
「ええ。なんならヴァール様と時折、交代していたくらいですよ。本当に、偉い方なのに偉そうにしたがらない方なのですよ」
そう言ってソフィアさんを見つめる神谷さんの目は、微笑ましげでもあり、懐かしげでもあり。そして羨ましげでもある。
どこか、違和感のある視線だ。悪意はもちろんないんだが、なんだ?
「神谷さん……?」
「──それではみなさま、今日はお集まりいただきまことに、ありがとうございます。様々な立場の方がこうして一堂に会して親睦を深める機会を得たこと、WSOといたしましても大変な歓びを抱いております」
気になって名前を呼んだ、ちょうどそのタイミングでソフィアさんの声が響いた。食事を始めるにあたっての、音頭を取ってくれているんだな。