【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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脳内美少女(自称)リーベちゃん

 静けさ、からの歓声が青空に響き渡る。

 退避していた商店街の人たちの、安堵と歓喜の声だ。

 

「山形くーん!!」

「すげえぞ、若えの!」

「何あれ、どんくらい飛んだ!?」

「ひ、光ってた……! なんて優しくて、力強い光!!」

「私は、何を見たの……? か、み、さま……?」

 

 狼人間を、新しく獲得したスキル《誰もが安らげる世界のために》による超パワーで仕留めた俺に、惜しみなく賛辞が浴びせられる。

 どうもあのモンスターが群れのボス的なやつだったみたいで、わずかに残っていたモンスターがどうしたものかと右往左往して、先輩探査者に次々仕留められている。

 つまりは地上に湧き出たモンスターたちに関しては目処がたったと言うことで、後は御堂さんたちのダンジョン踏破を待つばかりだろう。

 

「お、終わった……あだだだだ。なにこの痛みぃ〜」

 

 実感として、このスタンピードが終わったことを悟る。

 途端、じんわりと全身に痛みが広がり、俺はその場にへたり込んだ。

 なんだ? 狼人間になんかされたか? そう言えば爪で顔を傷付けられたけど、毒とかあった系のやつ?

 狼狽する俺に、脳内で声が響いた。

 

『スキル《誰もが安らげる世界のために》を使った反動ですよー。最大出力の10分の1以下とはいえ、いきなりの負担すぎて体が付いてこれなかったんですねー』

「は? え、誰?」

 

 唐突に響く、快活とした女の子の声。

 周囲を見回すも皆、生き延びた幸福に皆で騒いで俺に話しかけた様子はない。

 ていうか、誰か一人くらい俺んとこまで来て労うくらいしてくれてもいい気がする。できれば美人のおねーさんとか。

 冗談はさておいて、さらに脳内の声は続けてくる。

 

『かわいいかわいい精霊知能リーベちゃんでーっす! 気軽にリーベちゃんって呼んでくださいね! あ、ちなみに今はsystemを介したアナウンスじゃないから悪しからずおねがいします』

「…………怖ぁ」

 

 親方! 頭の中に美少女の声が! と冗談はさておくにして。この声は聞き覚えがある。さっき、システムさんと一緒にエールを送ってくれた声だ。

 リーベ? 名前かな。名乗ってくれるのは良いけど、そもそも精霊知能ってなんぞやって話なんだが。それ以前に勝手に脳内に直接話しかけてきている、お前は一体何なんだよ──というシンプルな疑問が次々思い浮かぶ。

 それをどうやら読み取ったらしく、リーベはふふんと笑って答えた。

 

『かわいいかわいいリーベちゃんはですね! 大いなる存在様によって作られた精霊知能……うーんと、あなたの分かるように言えばAIでしょうかね! あ、でもちゃんと独立した思考はありますよ? その点で言えば、生命体と言っても過言ではないでしょう!』

「……反応したいけど、したらみんなから変な人扱いされるよなあ」

『今のリーベちゃんでは、他の人からは見えないですものね! でもでも大丈夫! レベルが、そうですね……300くらいにもなったら、かわいいかわいいリーベちゃんが、あなたの眼にもみんなの眼にも映るようになります! それまでは我慢してくださいね、てへっ!』

「……」

 

 何こいつ、ヤバぁ。

 誰もお前の姿を見たいとか言ってないじゃん。なんでさも自分をトップアイドルみたいに言えんの? しかも要求してくる基準が10関口くんとか狂ってんだろ。怖ぁ〜。

 ていうか大いなる存在様って、誰それ? もしかしてシステムさんのことだったりするのか?

 

『えっとー? リーベちゃんからはその辺は言えませんねえ。基本的にリーベちゃんのお仕事は、あなたのスキル《誰もが安らげる世界のために》の発動承認と出力調整だけですし。詳しい話が知りたければ、バリバリどんどんダンジョンを踏破していってくださいねー。それでは、バーハハーイ!』

「は? おい、ちょっ……ぐ、ぬっ」

 

 おのれ、あからさまに言葉を濁してトンズラこきやがった!

 何がバーハハーイだ、いくつだ貴様!

 思わず叫びそうになるも、今ここでそれやっちゃうと俺、探査者あらため不審者確定だ。

 ……ああもう、色々ありすぎて本当に疲れてきた。筋肉痛で身体中バッキバキだし、もう。辛ぁ……

 

「山形くん、山形くーんっ!」

「へぁ? ……ホアァッー!?」

 

 名前を呼ばれ、なんぞやと振り返ると抱きつかれていた。

 や、柔らかい……温もりが、柔らかい匂いがする。めっちゃ気持ち悪い感想を瞬時に思い浮かべながらも誰ぞやと見れば、佐山さんが泣きながら、俺を抱きしめてくれていた。

 何やらぐずつきながら、俺の体をまさぐってくる。

 

「ありがと、ありがとう! 助かったよぉ、生きてるよお……っ! 痛いところない? 大丈夫っ!?」

「感謝の言葉とその手の動きに何か因果関係ありますぅ!?」

「馬鹿ぁ! 怪我してないか確認してるんじゃないの! ただでさえ顔、血が出てるのに……!」

「あっ、はい」

「遠慮とか強がりとか止めてね? 痛いなら痛いって、苦しいなら苦しいって言ってね? 山形くん……!」

 

 すわ御堂さんよろしく、どさくさ紛れに何かしてきたり!? と困惑半分期待半分の純情下心ボーイ丸出しだったわけだが。

 めっちゃガチで俺の体調を慮ってくる姿に、何を不埒なこと考えてんだと、ものすごい罪悪感。

 優しい子だなあ。涙ぐみながらそれでも気遣う姿は、ああこれぞ天使か女神かって感じだ。いやー、何かめっちゃ、頑張った甲斐があったなあ〜!

 

 そんな風に、皆が解放感からお祭り騒ぎを始める中、俺は佐山さんに抱きしめられてすごく、すごーくご満悦だった折。

 

「公平くん、無事ですか!?」

 

 商店街から御堂さんが、爆速で俺のところにやってきた。


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