攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ある意味対象的なご家庭

 さてと、目の前のご馳走に目を向ける。懐石料理のイメージそのままに、なんか色とりどりの料理が、たくさんの小鉢に添えられて膳の上に載ってある。

 一品一品の量こそ少ないが、色んな味を楽しめるという点ではそう悪いものでもない。何より料理そのものの完成度というのかな、が高いみたいで、試しに食べてみた高野豆腐だけでももう、絶品というほかない味わいがあった。

 

「んん……! 家で食べるのとは全然違うなあ、やっぱり」

『弾力がありつつも柔らかく、そして染み出してくるまろやかなコクと旨味のある汁……! 甘味のある人参ともマッチするし、何より見た目の優雅さが良い! うまい!!』

 

 邪悪なる思念も脳内で絶賛している。こいつ、俺よりグルメレポート上手くないかな……なんか複雑だ。食ってんの俺なのに、俺より食を楽しんでる気がする。

 まあ良いや、とにかく俺もそれなりに空腹だしどんどん、食べていく。夏野菜のお浸しに、鮎の塩焼き。サーロインステーキまであるわ、うまい。

 

「肉、肉、野菜、魚! ん、美味しい、美味しい! でも量足りない……」

「リン、ちゃんと噛む。んん、ジュース好き」

「私には丁度いいかな……二次会もあるみたいだし、そこでも食べられると思うよ、リン」

「ん、楽しみ。今は味、楽しむね!」

 

 見ると、シェン一族のご家族さんは楽しんで食事している。良かった、量が足りないのは分かってたけど、それはそれとしてリンちゃんは質を楽しむ方向で食べているみたいだ。

 ハオランさんにランレイさんも、さすがに身内相手なら普通に接している。でもリンちゃんほど食べてないあたり、星界拳士っても色々あるんだなあ。

 

 その隣ではベナウィさんとそのご家族が、和気藹々と団欒しつつご飯を食べている。三姉妹かあ、奥さんもだけどみんな美人さんだ。

 ビールと日本酒ばかり飲んでいるベナウィさんに、奥さんが声をかけていた。

 

「あなた、お酒ばかり飲んでいないでご飯も食べたら? 美味しいわよ」

「ああ、もちろんいただくとも。ほら君たちも、野菜もしっかり食べるんだよ」

「食べうー」

「ぅー」

「日本食、やっぱり好きだなー、私」

 

 赤ら顔で、幸せそうに子どもたちを見つめるベナウィさん。さすがに昼から飲んでるからか、そこそこ酔っているみたいだ。子どもたちも楽しそうに、特に3歳の次女ちゃんと2歳の三女ちゃんが、無邪気に笑っているのがたまらなく愛らしい。

 ちょっと年長さん……10歳くらいかな? の、おそらく長女ちゃんは大人びた感じで、けれどご飯をつついては美味しそうに頬張っている。

 総じて幸せ一家って感じだ。後で話す機会もあるだろうし、その時にはぜひ、仲良くなりたいもんである。

 

「──そしてその時! 公平くんは優しくも熱い涙を流し、御息女への限りない慈悲と慈愛、溢れんばかりの正義の御心によって眩いばかりに光を放ち! 新たなるスキル《風浄祓魔/邪業断滅》に覚醒したのです!」

「私に取り憑いていたリッチを消滅させて、私の身体そのものも乗っ取られる前にまで戻してくださったの。まさしく救世主様の御業……この世の奇跡だわ!」

「なんという……宥はそんな目に遭い、そしてそんな風に救われたのだね」

「あちらの、上座の端に座られているのが山形さんよね? チェーホワ理事やフランソワ理事ともお知り合いだなんて、高校生なのにすごいわ」

「救世主様ですもの! この世のどんな方より尊い御方なの!」

 

 ベナウィさん御一家の向かいは地獄だ、僕は視界に入れないように手元の料理だけ見てるね。

 聞こえてくる香苗さんの声から察するに、リッチに乗っ取られた望月さんを、どうにかこうにか助け出した時のことを望月さんのご両親に熱く語っているんだろうな。

 

 特撮ヒーローを自慢する幼子のような望月さんの声音も耳に入ってくる。なんならそれに影響されてか、彼女のお母さんがこっちを向いている気がして、とてもじゃないけど顔を上げられない。

 ていうかご両親に、娘さんが危うく死にかけた時の話なんて言うもんじゃないと思うの。殺してくれとまで願っていたあの時の望月さんは、あんまり思い出したくないくらいに辛く、哀しいものだったしなあ。

 

「あの方のおかげで私は生きてパパとママのところに帰れたの。あの方が私を、身も心も救ってくださったのよ」

「そうみたいだね……いやまったく、大した御方だ。何やら今回のこの会を開く発端にもなったのだろう? 宥は素晴らしい方と縁を繋いだよ」

「私たちも後ほどお礼に伺うけれど。宥も救われたという大恩を忘れちゃだめよ? 山形さんに助けていただいた命は、きっと正しいことのために使いなさい」

 

 だけど、嬉しそうに言う望月さんと、それを受けて娘の、無事な今現在を喜ぶご両親の姿があるなら、まあ、良いのかな?

 ただ、俺に救われたからと言って、無理に良いことしようとしなくていいんだけども。健康に元気に、笑顔で幸福に過ごしてもらえればそれで十分なんだよね、こっちとしては。

 

「はい! 公平様を信じ敬い、公平様がしてくださったように、助けを求める人々に救いの手をきっと、差し伸べます! 救世の光大幹部、使徒の一員として!!」

 

 十分なんだよね!! こっちとしては!!

 シームレスに狂信を顕にした望月さんに俺は、頭を抱えるばかりだった。

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