【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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俺より俺に詳しい狂信者

「公平くんが救世主として、黄金に輝き圧倒的な力で天高く舞い、悪しきモノを大地へと還した……? そ、そんなの」

「み、御堂さん?」

「そんなの神話じゃないですか!? なんで言ってくれないんです、あんなダンジョン秒殺だったのに! 他の探査者と協調してる場合じゃありませんでした!」

「えぇ……? 怖ぁ……」

 

 周囲にいた探査者さんから話を聞き、野次馬根性からか動画を撮っていた近隣住民から、それを見せられて。

 俺が、突然ノーマル山形からシャイニング山形に進化して狼人間をやっつけた顛末を知った御堂さんの、魂の叫びが響いた。

 

 何が神話か寸毫たりとも分かりやしないが、こうなった御堂さんにはもう、話なんて通用しない。

 佐山さんに相変わらず抱きしめられたまま、俺はどこか、慣れきった心地で彼女に応じた。

 

「まあ、御堂さん。後で俺が新しく得たスキルについても含めて、詳しく話しますから。ひとまずここは落ち着いてくださいよ」

 

 

 なにゆえそのように荒ぶるのか!? 鎮まれ! 鎮まりたまえ! と宥めすかす心地で言えば、荒神様もとい狂信者さんは、そこで人心地付けたらしかった。

 代わりにきょとんと、俺に抱きつく佐山さんについて聞いてくる。

 

「ん……失礼しました。というか、そこの女の人は」

「……御堂さん、だっけ。山形くんの先輩探査者の」

「いかにも御堂ですが、先輩探査者? むしろ私は、彼という救世主の紡ぐ次なる時代、新たなる神話をこの世に広める伝道師のつもりでいます」

「? 伝道……え? 神話? 救世主?」

「佐山さん、あんまり気にしない方が良いよ」

 

 およそ答えになっていない答えを、これ以上ない真顔で返されてはさしものギャル系女子佐山さんも困惑以外に浮かべる感情がない。

 仕方がないので助け船を出す。御堂さんの狂信者ムーヴは、誰がなんと言おうと一度始まったら落ち着くまで止まらないのだ。だったらもう、ある程度は好きにさせてしまっても良いのかもしれない。

 あー、ただし、御堂さん自身にとって本当に良くないことになりそうな場面は除く。俺が原因でこの人が不幸になるなんて、たぶん耐えられそうにないものな。

 

「あなたこそ、たしか以前にお見かけしましたね。公平くんのクラスメイトの女子でしたか。スタンピードに居合わせるとは災難でしたね。お怪我は?」

「あ、う、はい。おかげ、様で……」

「それは良かった。怪我がないのが一番ですからね……と、公平くん! 顔を怪我してるじゃないですか!」

 

 探査者として、スタンピードの被害に遭ったことを心配する御堂さん。さきほどの狂った姿と裏腹な大人の態度に、佐山さんもタジタジだ。

 もっともすぐさま俺の方に飛んできて、狼人間にやられた頬の傷に、手を添えてきたわけだけど。

 

「あれ? 血だけ……?」

「たぶん、称号の効果で治ったのかなって。たしかなんか、あれ? あったような……」

「《ワークライフバランサー》の、日常生活時に付与される再生能力ですか。まさか、戦闘終了から今に至るまでの短期間で?」

「何でスラスラ出てくるの怖ぁ……」

 

 出血跡のみのこして傷そのものはすっかり消え去っている、俺の頬を一撫でしながら、当たり前のように俺が過去、取得した称号とその効果を諳んじた御堂さん。

 正直、当の俺ですら俺の獲得した諸々は、覚えきれてないし把握しきれてないんですけど。なんであなたが全部把握してるの?

 あからさまに引きつった笑みでそんな疑問を呈する俺に、彼女は信仰の光に満ちた顔付きで誇らしげに答えた。

 

「称号とはすなわち探査者の足跡。ましてやこの世を救うあなたの道程は、伝道師として暗誦できて当然です」

「山形くーん……この人ちょっと、ヤバない?」

「何がですか佐山さん? 私は、大ダンジョン時代に救いをもたらす偉大なる御方に殉じているだけです」

「えぇ……? 御堂さんってたしか、超人気探査配信者なのに……」

「超人気配信者であることと、救世主神話の伝道師であることは両立しますけれど。なにか?」

 

 なにか? じゃないよキリッとした感だすな、佐山さんが砂を噛んだみたいな苦々しい顔してるだろ!

 にしても、マジで俺のこれまでの称号とスキルを暗記してるんならある意味すごい話だ。正直、俺にとってすごーく便利だなあとか、失礼なことを思ってしまう。

 

 けどまあ、探査者なら自分のそういう能力については、本来ならばさっきの御堂さんみたく、サラッと答えられて当然なんだろうな。

 うーん……ここは一つ、俺より俺のことにくわしい御堂さんにご教授願うか? どこかで時間を用意していただいて、そういう勉強の時間も良いかもしれない。

 

「そもそも公平くんとの出会いは突然でした当時私は未だ覚醒していなかったただのA級探査者だったわけなのですがそんな折奇妙なスキルを発現した学生さんがいると耳にして興味本位で新人研修を見に行ったのですそこで彼を目にした時私の脳髄の天辺から爪先に至るまで至福の稲妻が天啓として落ちたのですあれは忘れることはできませんまさしく神の導きというものなのでしょう実は私は探査者証明書には記載していないスキルがいくつかあるのですがそのうちの一つこれまでの人生でまったく発動しなかったことから私自身すっかり忘れていてでももし発動することがあれば私はその対象のために命と心と体を捧げるんだろうなと幼少から信じていたそんなスキルがもののみごとに発動したのですつまり私と公平くんはまさしく運命の」

「山形くーん……たすけてぇ〜……」

「御堂さんストップー! ここサバト会場じゃないんで! 宗教ムーヴストップ、ストップ!」

 

 早口すぎてもう、何言ってるんだか一切分からないことをひたすらまくし立てて佐山さんへと説法……説法? 勧誘? とにかくそんなことを続ける御堂さんを慌てて止めて。

 まあとにかく、スタンピードを巡る一連の騒動は終わったのだった。


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