【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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シャイニング山形のシャイニング全国デビュー

 結局、スタンピードが終わって事後処理まである程度済んだ後。俺が丘の上ダンジョンにまで行くことはなかった。

 スキル《誰もが安らげる世界のために》の反動ダメージで体中筋肉痛なので、大事を取って引き上げたのだ。広瀬さんにも事情は説明してある──いよいよ検査させてくれ、調べさせてくれとの声が強まってきたから、そろそろ観念時かなとも思う。

 

「ただいま〜。言われてたブロッコリーとマッシュルーム買ってきたよ、今日もしかしてクリームシチュー? やったね!」

「ちょっと公平! あんた、何か光ったんだって?!」

「何でもう知ってんの怖ぁ……」

 

 なんだかくたびれちゃったので、御堂さんや佐山さんともそこそこのところで別れて自宅に戻る。途中、スーパーに寄って朝、行きがけに頼まれてた買い物を済ませてからの帰宅だ。

 すると家に入った途端、母ちゃんから大声で、狼人間相手に披露したシャイニング山形について詰問された。

 

 そもそも帰ってきた途端にそれかよ! とか、なんで知ってるんだ、知り合いでもあの場にいたのか? とか。

 その辺のあれこれをすべてぶっ飛ばすインパクトが俺の目の前に突き付けられた。母ちゃんのスマホ、画面にはSNS動画サービスサイトが映る。

 そこには空高く光る、何やら神々しい輝き。よく見ると人型の化物相手に誰かが関節技をかけている。そこからすぐに、誰かさんは化物をホールドして急降下。スマホを構えていたであろう撮影者をも衝撃だけで吹き飛ばすほどの、見事なパワーボムをかましていた。

 ああ、見覚えってか心当たりあるわ。

 

「俺じゃーん」

「本当にそうなの!? あんたどうしちゃったのこんなピカピカになって! 福引でも当たった?」

「それだとこの動画の俺は、福引を当てた嬉しさのあまり天高く飛び上がって、光り輝いてはしゃいでることになるけどそれで良いの?」

「良くないわねえ」

 

 だろ〜?

 とまあ、しょうもない茶番はさておくとして。居間でテレビに映る俺を見ていた父ちゃんや優子ちゃんも交えて、俺は今日発生した、スタンピードについて逐一説明していった。

 

 ていうかテレビに映ってるぅ……国内のスタンピード案件なんて、それこそ十年に一度あるかなしかって話だから、話題になるのは分かるけど。

 何も、光り輝く俺が空中コブラツイスト極めてるところを繰り返しアピールしなくてもいいだろ! テロップには『謎の発光体』とか書かれてあるし。これじゃ完全に新種のモンスターか、いいとこUMAじゃないかよう。

 

「とまあ、そんなこんなでこの映像のシャイニング山形はこの家の長男の山形公平なわけ、オーケー?」

「はあ……何回聞いても信じられそうにないわ。あんたがこんな、テレビに映るような活躍をするなんて。映るんならニュースで、他所様に迷惑かけた時くらいかと思ってたのに」

「兄ちゃん、どう見たって地味な路地裏とかでひっそりモンスターと取っ組み合いしてそうだもんね〜。シャイニング山形なんて、何か悪いものでも食べた?」

「ひどい」

 

 でもうん、言いたいことは分かるよ……俺でもテレビに映るシャイニング山形が、本当にこの俺、山形公平くんなのか疑わしくなるもの。

 そのくらい、称号《勇気と共に道を行き、慈愛と共に生きる者》の効果による発光は神々しさがすごいのだ。

 なんか、昼間なのに太陽より輝いてないか? 下から人々が見上げてる映像も映されているのだが、引きでの構図がほとんど宗教画だ。

 

 これ、テレビに映ってるのを御堂さんが見たら大騒ぎだろうな……歓喜はもちろんするだろうけど、それ以上にこの場にリアルタイムで出くわせなかった自分自身にキレるだろう。実際、キレてたもんな。

 というか、もう我が家でのシャイニング山形ブームは過ぎ去ったのか、すでにテレビは母ちゃんお気に入りの恋愛ドラマを映している。妹ちゃんは耽美なイケメンに囲まれるタイプのソシャゲに夢中だし。

 

 ネタにされるよりは良いけど、もうちょっと褒めてもいいと思うよ〜? 俺、そこそこ頑張ったよ〜?

 まあ褒められたら褒められたで、なにか裏があるんじゃないかと思う俺ちゃんなんだけど。我ながら自己肯定感がダンジョンより深く地下に埋まり込んでいる。

 

「それで、公平。怪我はないのか」

「ああ、うん。ちょっとあったけど、探査者の称号効果で治った」

「そうか……便利だな。身体には気を付けろよ」

「うん、ありがと」

 

 母ちゃんや妹ちゃんとは違い、父ちゃんだけは俺を心配してくれている。優しいね〜、これがスマホでいかがわしい動画を見ながらの発言じゃなければ、俺は素直に尊敬できたのに。

 相変わらずすぎてホッとするよ、まったく。

 

 簡単にシャワーを浴びて自室に戻る。今日は疲れたし、夕飯まで時間あるし、ちょっと横になろうかな?

 惰眠を貪るスリーピング山形に変形しようとしていた俺の、脳内にまたしてもリーベの声が響いた。

 

『え〜!? やっと心置きなく喋れますしー、かわいいかわいいリーベちゃんと楽しくお話しましょうよぉ! 公平さん〜!』

「えぇ……?」

『かわいいかわいいリーベちゃんのこととか気になるでしょう? 今なら何でも答えちゃいまーす!』

 

 俺、疲れてるんだけど。とりあえず昼寝したいんだけど。

 あ、でも何でも答えるってんなら答えてよ。システムさんって何者? 俺に何をさせたいの?

 

『それはひ、み、つ〜! なんですよ残念! かわいいかわいいリーベちゃんは実のところー、社員の少ない会社で中間管理職にいびられる、若手新人社員みたいな立ち位置なのでーす! だからですね、肝心なことは何も言えないんです〜!』

「そ、そう……」

 

 朗らかな声でなんて悲しいことを言うんだ、この精霊知能。

 システムさんってやはり、ブラック上司なのでは? 疑惑の深まる俺だった。


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