攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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肉食系女子(物理)

 やってきた電車に乗って、揺られることわずか数分。ローカル線で数駅なのであっという間に最寄駅に着いた。電車を降り、駅を出る。

 むわぁ、と夏の暑気が湿度をも孕んで俺たちを襲う。車内が割と冷房を効かせてくれていたから余計に、気温の落差が俺たちに襲いかかってきていた。

 

「あっつー……なにこれイカれてんだろ世界!」

「近くにコンビニあったよね? 寄ろうよ、アイス食べたーい!」

「賛成ー。プールに辿り着く前に熱中症になっちゃうぜ」

 

 涼しくて快適な場所から一気に夏の暑さの只中に。くらくらしそうな気温差にすっかり、クラスメートのみんなも参っちゃってるみたいだ。

 駅を出て少し湖側に下るとある、コンビニエンスストアに寄ろうと俺たちは歩き出した。

 

 この駅の付近には県でも一番の進学校があって、もう夏休みだろうに部活動の関係か、制服を着た学生がちらほら登校している。

 たぶん、うちの高校でも部活動をしている学生は同じようなことをしてるんだろうな。頭が下がるよ、お疲れさまです。

 

 そうこうしているうちにコンビニに辿り着く。中に入るとクーラーで冷えた空気が、俺たちを癒やしてくれるかのように吹き付けて出迎えてくれた。

 ああ、助かる……いやまあ、探査者な俺は実際、肉体能力がスキルを持たない人に比べて今や数百倍の性能してるから、暑い寒いっても蚊に刺された程度のものでしかないんだけれども。

 梨沙さんたちにはつらいのは間違いないだろう。俺は率先して、店内用のかごを取ってみんなに言った。

 

「みんな、ドリンクでもアイスでもお菓子でも、冷たいものを好きにカゴに入れてよ。一人一個くらいなら俺が買うしさ」

「え……そんな悪いよ。公平くんに奢ってもらうなんて」

「いいのいいの。俺がそうしたいんだから」

 

 言い募る梨沙さんを抑える。せっかくの楽しい集まりだし、俺もなんかしたいってのもあるし、何よりみんなを元気づけたいからね。あと財布の中が諭吉さんばかりなので、崩したいのもあったりする。

 そういうわけでみんなに呼びかけると、我先にと好きな買い物をし始めた。ちゃんと一人一個なのは守るみたいで、なるべく高いアイスなりジュースなりを物色している。

 あからさまにお高い商品の数々を見比べている友人たちに、梨沙さんが思わずツッコんだ。

 

「ちょっ、みんな自重しなよ、人のお金だよ!? …………公平くーん、甘い顔しすぎ〜」

「まあまあ、いいじゃないのたまには。冷たいもの食べてさ、元気だそうよ。ほら梨沙さんも、選んで選んで!」

 

 たしかにちょっと太っ腹すぎた気はしないでもないが、言っても一人一個だからね? 梨沙さんにもそう言わず、好きなものを持ってきてほしい。

 促すように彼女の背中を押す……女の子に自分から触れるのって考えてみれば、ものすごい勇気のいることのような気がする。セクハラとか言われないかな? 密やかに緊張する俺だったが梨沙さんは、頬を染めつつもくすりと笑ってくれた。

 

「ぁ、ちょ……もう。そんなに言ってくれるならゴチになるしかないし。ありがとね、公平くん」

「どういたしまして」

 

 俺の後押しに、ようやく選ぶ気になってくれたみたいだ。梨沙さんもクラスメートたちに混ざって、アイスやジュースを物色している。

 俺も、なんか買おうかな? これからプールに入ることを考えると、極端に冷たいものは身体を壊しそうだ。その点から言ってアイスはないかなー。ジュースは、飲むならやっぱコーラかな。夏は炭酸じゃないとなーんかしっくりこない感じ、個人的にはあるなあ。

 

「……んー、案外悩んじゃうな」

「山形ー、俺これー」

 

 松田くんが真っ先に戻ってきた。手にはアイスクリーム、それもたぶんコンビニでは一番高いやつで、それゆえ味もしっかり美味しいやつだ。

 ついで木下さん、片岡くんも同じ商品の別の味を持ってきてかごに入れた。うん、分かるよ……友だちの奢りとなったらそりゃあ、せっかくだし高いのとか、普段選ばないものを選ぶよね。

 

「え、えーと。山形くん、私これ」

「えぇ……?」

 

 だけど遠野さん、弁当はどうかと思うよ? それもスタミナがつきそうな、ガーリックの効いたステーキ弁当じゃないか。

 みんなが入れたアイスクリームの倍はする値段はさておき、そもそもこれからプールじゃん。泳ぐじゃん。その前にこれ食うの? マジで?

 

「遠野……」

「冷たいものっつってんじゃん山形くん。なんで弁当なんだよ」

「お、お腹減っちゃって! プールで動き回ることを思うと、今のうちに腹ごしらえしときたいかなって!!」

「腹ごしらえにしてもステーキ弁当って」

 

 鮫と戦いにでも行くつもりなのかな?

 顔を赤らめて俯き加減に、恥ずかしそうにしている遠野さんは可愛らしいが、手にした弩級ボリュームの弁当はなにひとつ可愛くない。俺でも食ったらしばらく、運動は控えることになりそうだ。

 

 と、そこに梨沙さんが帰ってきた。手にはジュース、というか失った水分を補給するためのスポーツドリンクを持っている。

 ドン引きの空気を醸す俺たちに一瞬、たじろいだようだったが、遠野さんと弁当を見て察したみたいだった。彼女の下の名前を呟く。

 

「真知子はさぁ」

「い、いやあははは」

 

 誤魔化し笑いの遠野さん。

 こんな、大食いな一面もあったんだなあ。意外だ。

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