攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「あっ、公平さん!」
「気づくよな、そりゃ……やっほー」
プール施設と外部を仕切るフェンスを隔てて、俺に気づいたリンちゃんが手を振る。それに応えて手を振りつつ俺は、梨沙さんたちに言った。
「あー、呼ばれてるし近くに行こうか。彼女は俺の知り合いでシェン・フェイリンさん。隣にいらっしゃるのはお姉さんのランレイさん。揃って探査者なんだ」
「姉妹で探査者!?」
「外国の方なんだね」
俺もそうだけど、まさか探査者の知り合いとこの場面で会うとは思いもしなかった。ていうかリンちゃん、昨日二次会以降まで参加してたろうにもう探査活動してるのか。
元気だな〜と感心しつつも俺たちは、リンちゃんたちの近くにまで移動した。
「公平さん、昨日ぶり!」
「うん、昨日ぶりリンちゃん。それにランレイさんも」
「はひぃっ!? は、はははははひ、おひひひひひさしししし! ……ぶりです……」
「姉ちゃん……」
リンちゃんはともかく、初っ端から動転しまくった声を上げ、しかも途中からとめっちゃトーンダウンして消え入るような声で応えてきたランレイさんはなかなかに気の毒な震え方をしている。
というか妹のリンちゃんが誰よりドン引きしている。隣の姉を、哀れというかある種の怪物かのように見ている。いやその視線もちょっと、どうかと思うよ?
微妙な空気を誤魔化しがてら、話を変える。
「あ、あー。偶然だね二人とも、ここのダンジョンを探査に?」
「うん。内部構造自体はE級、だけど水中戦を強いられるからA級扱いになってる。公平さんは、どうしてここに?」
「俺は友だちと遊びに来たんだよ、まさにこのプールにね。学校の友だちなんだ」
そう言って梨沙さんたちを手で示すと、クラスメートたちはちょっと緊張がちに会釈した。今朝、リーベに話したとおりの友人の友人なわけだからな。微妙な空気になるのはしかたない。
しかしリンちゃんの方はそういう、人見知りとかは一切ないみたいだ。手を前で組む、いわゆる拱手のような動作で以て、自己紹介を始めた。
「はじめまして。私はシェン一族が一員、シェン・フェイリン。A級探査者にして、星界拳正当継承者。天覇のシェン・フェイリン。よろしく……姉ちゃんっ」
「ひっ……し、シェン・ランレイですっ。A級探査者で、星界拳は天覇やってますぅ……っ」
「せ、星界拳……? 天覇……?」
「ていうか、A級探査者かよ」
聞き慣れない単語はいくつかあったものの、クラスメートたちは概ねリンちゃん姉妹の紹介をすんなり聞き入れている。ていうかリンちゃん、A級になったのか。たしか決戦前はB級だったと思うけど、昇級したんだな。
「A級になってたんだね、リンちゃん。おめでとう」
「ん、今朝方昇級した。ヴァール様の取り計らい……別にいいって言ったのに、シェン一族への感謝の気持ちでもあるから、いいから受け取れって」
「そ、そうなんだ? あいつ、なんか微妙にリンちゃんに甘いな……」
まさかのヴァール絡みとは。それも半ば強引に褒美みたいな形で昇級させたみたいだな。
なんとなく、リンちゃんへの可愛がりを感じる。シェン一族の到達点、自分を超えた星界拳正統継承者だからだろうか? 孫を甘やかす婆ちゃんみたいなイメージが漂う。
リーベとはまた異なる感じで、あいつも俗世に染まってるなあ、なんて当たり前のことを改めて感じ入る俺に、リンちゃんは俺にあ、そうだ、と提案してきた。
「公平さん。こういう水中ダンジョンの探査、普通なら時間をかけてゆっくりと進めるし、私と姉ちゃんもそうしようかって思ってるけど……さっさと済ませる方法ってある?」
「ん……聞かれるとは思ってた。一応俺なら、ダンジョンの地形情報を無効化することはできるよ」
「えっ」
ランレイさんが驚きの視線を向けてくる。ダンジョンが読み取った、周囲の地形情報を無効化する、なんて聞いたこともない話だろうな。スキルにだってそんな、ダンジョンそのものに干渉するような代物はなかったはずだし。
戸惑う姉とは裏腹に、一切疑いを持たずに妹のリンちゃんは頷いた。輝く瞳と笑顔で、俺に要請する。
「よかった! 手伝ってほしい! 報酬、ダンジョンコア!」
「いいよ、報酬もいらないから。そのへんの話しちゃうと手続きがどーのこーのってなるからね。それに俺はダンジョンの外側から干渉する形になるから、実際探査するっていうと微妙だし」
「ん……でも」
「もう今日は無理だろうけど、それでもさっさとプールを再開してもらいたいからさ。それが報酬代わりってことで、頼むよ」
せっかくここまで来てとんぼ返りはなかなかに切ない。そんな想いで言うと、リンちゃんはわずかに逡巡してから、申しわけなさげにわかったと頷いた。
決まりだな。俺は梨沙さんたちに言う。
「ってなわけだし、ちょっと行ってくる。たぶん探査が終わっても、各設備点検なんかも含めるとどんなに早くても今日は営業再開しないかも。今日はどこか別のところで遊ぶとして、先に行っといていいよ」
「え……うーん。私は、公平くんの仕事を見てたいかな」
「あ、俺も!」
「私もー」
口々にそういう友だちみんなだが、たぶんマジで突っ立ってるだけなんだけどなあ。まあ、見せてなにか減るもんでもなし、見たければ見ていればいいかなって思うけど。
頭をかき、リンちゃんとランレイさんに頷く。
かくして、突発的な探査……の、お手伝いが始まった。