攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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プールの水ぜんぶ抜く大作戦

 プールのスタッフさんに事情を説明して、俺だけ施設内に入れてもらう。

 入口前に屯する──スタッフさんたちから配られた、アイスやジュースで暑さを凌ぎながらも困ったように佇んでいる──そんな人たちの熱い視線が突き刺さるのに、この人たちの期待に応えなきゃな、と気合を入れる。

 

 男子更衣室に入ると、まあ当然だが人はいない。このへんで俺は、静かに呟いた。

 

「神魔終焉結界」

 

 瞬間、切り替わる俺の服装。よーしプールで遊んじゃうぞーなんてノリのラフな姿から、よーしダンジョン潜っちゃうぞーみたいな蒼いコート姿になる。

 神魔終焉結界。俺の俺による俺のための補助戦闘服。因果改変のサポートから各種、ダンジョン探査において極めて便利ないくつかの機能を仕込んだ、コマンドプロンプト印の服型結界だ。

 

 件の水中ダンジョンを、普通の装備でも探査できるようにするための機能。それが備わってるのがこの結界なのだ。

 だからどうしたってこの姿になるしかないわけなんだけど、本音を言えば、あんまり気乗りはしないってのが正直なところだった。

 

「クラスメートのみんなにこれ着てわちゃわちゃしてるところを見られるのか……」

『なんだっけ、コスプレ? みたいだね。できる限りスタイリッシュに動いてみたらどうだい、この際? くだらない羞恥心なんて、早めに捨ててしまうのがいいと思うけど』

 

 脳内のアルマがそんなことを言う。ある意味正論なのがまた、反応に困る。

 たしかにことは探査に及ぶ話、すなわちお仕事関係のことだ。恥ずかしいとか気乗りしないとか、そんな個人的感情の入り込む余地などありはしない。

 

 ありはしないんだけど……今回は突発的な事態だしなあ。覚悟を決めて、さあよしカッコつけるぜ! ってテンションにはどうしたってなりようがないため、なんならプールに入れないことも含めて若干、ションボリした感じで臨まざるを得ないのだ。

 

 しかたない、ここまで来たらもう、リンちゃんとランレイさんのサポートに努め、さっさと終わらせるだけだ。

 そう決意して俺は更衣室を抜けた。さっき外側から見ていたプールサイドの、内側に現れる。

 

「あっ……公平くん」

「お、来た……え? 何その服。こないだの? 持ってきてたの?」

「ん、公平さんの新たなる戦闘衣装、だったね」

 

 梨沙さん、片岡くん、そしてリンちゃん。

 それぞれの、俺の姿を見てのコメントが飛び交う。他のみんなも、ランレイさんを含めて神魔終焉結界に釘付けだ。なんなら、施設入口前にいる人たちも興味深げに俺を見ている。さっき、ちらほら救世主がどうの聞こえてきてたしな。たぶん俺のこと、動画で見て知ってる人もいたんだろう。

 

 ここまで来たらもう、お仕事スイッチオンだ。そうした視線やコメントには構わず、俺はリンちゃんとランレイさんに告げた。

 

「じゃあ、サクッと始めようか。ダンジョンの情報は?」

「ん……階層2、部屋数6。おそらく1階層目が5部屋で2階層目に最奥部、コアがある」

「1階にモンスターが集中するか……わかった」

 

 言いながら俺はプールの際に立つ。水底を見下ろせばたしかに、どでかい大穴が空いている。

 従業員さんの話では排水溝は全開にしているらしいが、どうしたことか水が出ていかないらしい。そこから察するに、すでにプール全体がダンジョンに近い空間と化していると思われる。

 

 たまにあるらしいのだ、こういうケース。読み取った地形情報が、元になった地形と地続きになって繋がり、ダンジョン内と同じ空間に変貌することが。

 そういう場合になると、モンスターがダンジョン内からひょっこり、出てくることがあるという。一種のエラー扱いなんだけど、スタンピードとかと違って数が多いとかでなく、あくまでダンジョンの延長みたいな感じで顔を出すとか出さないとか。

 今回はいないようで何よりって感じだ。まあ、いたらいたですでに姉妹にボコられてるだろうけどね。

 

 ともあれ、さしあたっては地形情報の無効化だろう。俺は神魔終焉結界の、機能の一つを発動した。

 

「設置場所はプールの四方。封印波動──拡散し、あるべき異界を晒すがいい」

 

 呟くと同時にプールの四つの角に、細く鋭い杖のような柱が現れる。真っ白い、触れれば折れそうなくらい細い柱だ。

 それらは仄かな輝きを示し、ダンジョンに向けて肉眼でもわかる、波動を四方から放つ。

 すると途端にプールに張られていた水が、急速に排水溝から流れ出ていった。まるで堰き止めていたものが、取り除かれたかのような勢いで水嵩が減っていく。

 

「公平さん、これは!?」

「この服に備わっている、ダンジョンの地形情報無効化機能を使ったんだ。スキルじゃなくコマンドプロンプトとしての権能の一つ、という側面が強いけれど……この手のダンジョンには覿面だと思う」

「ほ、本当に無効化してるの……!?」

 

 驚くリンちゃんとランレイさんに、簡単ながら服の機能の一つだよと説明する。

 地形情報の影響により、モンスター以前にダンジョンそのものが厄介な性質を持っている場合に有効かなーと思い、楔を現出させて取り囲んだ範囲に無効化結界を張る機能を仕込んでみたんだが……まさかこんなに早く使用することになるとは思ってもいなかった。

 

 そして発動した結界は正常に、意図したとおりに動いているみたいですひとまず安心する。これでなにも起きませんでしたじゃ、あまりに恥ずかしすぎてプールに頭から飛び込んじゃってたよ。

 やがてプールの水が空になる。おそらくダンジョン内部をも満たしていただろう分まで消えて、ほぼ普通のダンジョンと変わらなくなったはずだ。

 あとはシェン姉妹のお手並み拝見といこうかな。俺は二人を見やる。

 

「謝謝! これで星界拳、十全に振るえる!」

「し、謝謝……あ、ああありがとうございますすす」

「い、いえ。頑張ってください」

 

 やる気満々のリンちゃんと、震え声のランレイさん。

 ともあれこうして、二人はダンジョンへと飛び込んでいった。




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