攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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脱ぐとすごいぞ山形くん

 バスに揺られることわずか10分足らず、つまりはそのくらい近くにある施設ということだね。俺たちは目的地、プールにようやく辿り着いていた。

 もちろん事情を把握していたジムのスタッフさんたちから、丁寧な歓待を受けつつ、受付に並んで入場料を払っていく。

 

 会員証をお持ちですかーとか、会員になりませんかーとかも聞かれたけど曖昧に断っておく。だって次、ここに来る日が来るのかなんてわからんし。

 基本的にそこまでスポーツ好きなわけでもないんだよな、俺。体を動かす時間でネットなりゲームなりしていたいし、なんならダンジョン探査していたほうが性に合う。別に運動音痴じゃないんだけどね、それとこれとは話が別だからね。

 

 とにかくようやくプールも目前だ、男女それぞれの更衣室へ分かれて入る。

 男子更衣室は一緒にバスに乗ってきたお客さんたちがいるから結構な賑わいだ。迷わないよう、松田くん、片岡くんと3人で、まとまった位置のロッカーを使う。

 持ってきた海パンに着替えようか。服を脱いだ途端、松田くんのギョッとした声が俺に向かって投げられた。

 

「山形!? え、なにその体すごくね!?」

「え?」

「バッキバキのムッキムキじゃん!! え、ビルダー!?」

「そんなに!?」

 

 俺の体についてのコメントなのはすぐにわかったけど、ビルダーとまで言われるのは正直驚く。いや、そこまでマッチョじゃないはずだし。

 自分の体を見下ろす。この3ヶ月スキルと称号、レベルによるドーピング紛いの強化とモンスターとの連戦を経て、たしかに俺の体はかなり筋肉が発達し、脂肪が引き絞られた感じはある。ちゃんとシックスパックもできてるしな。

 

 とはいえボディビル大会とかに出そうなレベルの、世界観違くない? ってくらい無茶なボリュームの筋肉をつけている方々とは比べるべくもない。

 あくまで常識的な範疇での体つきだろうし、バッキバキのムッキムキだの、ビルダーだのとまで言われるほどでもないのだ。

 

「自然とこうなったものにすぎないし、普通じゃない?」

「いやお前、普通って……」

「まあ、探査者としてはそれが普通なのかもしれないけどさあ……」

 

 釈然としてなさそうな反応の二人を見ていると、なんだかこっちまでこの体つきが、普通じゃない気がしてくるなあ。

 周囲の、着替え中の人や着替え終わった人を見る。さすがに俺くらい絞り込んでる感じの人はそういなさそうだが、それでも結構鍛えてらっしゃるなあ、って人はちらほらいた。

 そういう人たちを二人にも見てもらい、俺は言う。

 

「ほら、結構鍛えてる人いるし。俺もそのくらいだよ」

「そ、そうかなあ……」

「山形がそう言うならそうかもしれんけどさあ……」

 

 未だに納得いってない感じの二人はもう置いといて、すっかり俺の装いは海パンに帽子、ゴーグルつきの水着姿だ。なんか久々だなあ、こういう格好も。学校の体育は選択だから毎度、室内スポーツや剣道を選んでるしな。

 さておき、いよいよプールサイドに3人、乗り込む。湖岸沿いプールと同じぐらい広く、向こうと違ってすべり台も申しわけ程度にだけど設置されてる、市民プールって感じの施設だ。

 

 照り付ける日光に素肌を焼かれる感覚と、すぐそばに水場があって、これからそこに潜って遊ぶんだという実感が湧いてくる。

 プールのこういう雰囲気は夏っぽくて好きだな、なんか。

 

「木下たちはまだなんだな」

「俺たちが早すぎたんじゃないの? 脱いで履いて終わりだし」

 

 梨沙さんたちはまだ来てないみたいだ。片岡くんの言うとおり、たぶん俺たちの支度が早いだけなんだろう。

 同じバスに乗ってきた人でも、早いともうプールに入って遊び始めている。家族連れ、カップル、友だち同士とまあいろいろと集団だらけだな。

 

 今のうち、準備運動でもしてみようか。おもむろにストレッチを始める。探査者はもちろん肉体労働だし、ダンジョン探査には戦闘技術が欠かせないものなので、体の柔軟性は地味ながらめちゃくちゃ大切な要素だ。

 だから俺も、前屈したら余裕で床に手がついたりする。この3ヶ月で変わった体つきの中で実のところ、この柔らかさが一番うれしいかもしれない。ぐいーんと体を伸ばしていく。

 倣って体操している松田くんと片岡くんが、感心しきりに呟いた。

 

「山形、体柔らかいなー。やっぱ探査者だもんな」

「格闘家みたいなもんだしな、ダンジョン攻略するんならそのくらいじゃないとだめなのか」

「特に山形はプロレス技とか使うもんな」

 

 さすが、よく見てくれてらっしゃる。松田くんはちょいちょい、例のチャンネルを視聴しているみたいで存外、俺の戦闘スタイルに詳しかったりする。

 基本的に武器を用いない徒手であり、しかも蹴りは使わない。殴るのと組技、関節技が主体なので、体の柔らかさってのは特に生命線と言えるかもしれない。

 

 でも、松田くんに片岡くんも結構、体柔らかいんだよな。二人ともなんかスポーツでもしてるんだろうか、クラス内ではどちらかといえば俺寄り、つまりは地味なほうなので、なんか意外だ。

 3人、横並んでアキレス腱を伸ばす。

 

「ぐいー」

「ぐいー」

「ぐいー」

 

 なんとなく輪唱めいて、体の伸びに合わせて呻いてみる。馬鹿みたいなことをしている自覚はあるが、友だちとやると変に楽しさがあるなあ。

 ぐいー。

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