攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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プールは歩くもの

 プール内をゆっくり、水の流れを楽しむように歩く。水の中を歩くなんてめったにないし、これだけでも楽しいと俺は感じていた。

 クラスメイトたちは泳いだり水を掛け合って遊んでいるし、他の家族連れやグループはボールで遊んだり、備え付けの遊具で遊んだりしているので、そんななか年配の方々に交じって歩く俺はだいぶ浮いてる気がする。

 まあ……健康志向ってことでいいんじゃないかな? なんとなし、自分に言いわけなんてしてみた。

 

「おっ……さっき湖岸プールで探査者姉妹の手伝いしてた子じゃないか。君も探査者なんだろ? お疲れさん」

「え、あ。はい、ありがとうございます」

 

 なんか、見知らぬおじさんから話しかけられた。たぶんさっきのダンジョン探査の時、施設前で様子を見ていた人たちの一人なんだろう。

 グループで歩いていたみたいで、隣のおばさんも反応して、俺に言ってきた。

 

「あら、さっきの! ありがとね、おかげであそこのプールも明日明後日には再開するでしょうし」

「いえいえ。俺じゃなくてあの二人……シェン・フェイリンさんとシェン・ランレイさんの功績ですよ」

「でも君も手伝ってたでしょ。なんかよくわからなかったけど、排水できなかったプールから水を抜けたのは君のおかげみたいだし。だから、ありがとう」

 

 そう言って微笑むお二人に、俺はありがとうございますと返すしかない。

 なんていうか、ダンジョン探査者やっていて、一番嬉しいのはこういう時だなって思う。やり甲斐ってのも言いすぎな気はするけど、ダンジョンに困らされていた人たちが、その脅威から解放されて安堵とともに礼を言ってくれるのを、受け取るのは好きだ。

 この人たちの生活を守れたんだなって思うし、この人たちの未来や思い出、大切な心と体も含めて、ダンジョンから救えたんだなーって、達成感が込み上がる瞬間だな。

 

 コマンドプロンプトとして覚醒する前から、あるいはアドミニストレータとして自覚を持つ前からずっとそうだ。人々が当たり前の日常を当たり前に送れるよう、俺にできることをやる。

 誰も、ダンジョンなんかに脅かされていい理由はないんだ。いいことも悪いこともあるこんな世界で、せめてダンジョンなんてものに苦しめられる人を助け続ける。

 それが俺の、ひいては探査者の役目だ。アドミニストレータもオペレータも、失われゆくものに手を伸ばすための存在なのだから。

 

「友だちと来てるのか? プライベートは思いっきり楽しんでくれよな」

「探査者って仕事は命懸けだものね。それじゃ、いい夏を!」

「ぁ……はい! そちらもいい、夏を!」

 

 そんな再度の実感を俺に与えてくれた、おじさんおばさんが先を歩いていく。夏を楽しむことを願ってくれるお二人に、俺もどうか、当たり前の夏を楽しんでもらえるように叫んだ。

 なんか……嬉しいな、こういうの。探査者としての力とかアドミニストレータとしてのスキルとかコマンドプロンプトとしての権能でない、山形公平として、人間として内側から湧いてくる喜び。

 

 改めてあの時、全部なかったことにしなくて本当に良かったなあとしみじみ思うよ。

 事態解決の方法としては極めて有効だったのは言うまでもないけど、とにもかくにも乱暴すぎるって、コマンドプロンプトの計画についてはそう考えざるを得ない。

 そう思えるのも、山形公平ならではなんだろうな。

 

「公平くーん」

「梨沙さん?」

 

 と、俺の元に梨沙さんが泳いでやってきた。平泳ぎですいーと、淀みなく上手な動きだ。

 問題なくすぐ近くに──本当に、かなり近くだ。距離感間違えたなって直感的に思えるくらい、彼女のかわいい顔がすぐ目の前にある。

 

「ぁ……ごめん、ちょい近寄りすぎたね」

「大丈夫。むしろちょっと得した気分かも」

「なにそれ〜、ふふっ」

 

 照れ笑いを浮かべる梨沙さんの、無邪気な顔がなんだか微笑ましい。俺も釣られて笑みを浮かべると、お互い至近距離で顔を見合わせて、笑い合う構図になることにふと思い当たる。

 なんかその、青春だな? 俺のほうまで照れくさくなってきて、誤魔化しがてら聞いてみる。

 

「えーっと……みんなは?」

「あっ、そうそう。そのことで公平くんを呼びに来たんだった。実はね──」

 

 なんじゃらほい? と首を傾げる俺に、梨沙さんが説明する。

 というのも、プールで遊んでいたところ、松田くんの中学の頃の友だちグループと出くわしたとかで。もっというと松田くんと同じ中学だった、梨沙さんや遠野さんとも知り合いなのだそうで。

 そんなわけで時刻も昼に近いし、プールを離れて食事しようかという話になっているみたいだった。

 申しわけなさげに、梨沙さんが手を合わせて頭を下げた。

 

「公平くんがいない間に勝手に話が進んじゃって、ホントごめん!」

「あ、いや。全然構わないよそこは。ええと……てことは今日のところは昼で解散かな」

「……え?」

「え」

 

 なぜかショックを受けた様子の彼女。なんで?

 思わぬ反応に面食らう俺だった。

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