【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
スタンピードから一夜明けて日曜、昼。俺は御堂さんと一緒に、組合本部は広瀬さんの部屋を訪れていた。
昨日手に入れたスキルのことや、結局踏破しそこねた丘の上ダンジョンとそれに付随する俺の昇級試験について、どうするか話しに来たのだ。
ちなみに今日、ここに至るまでにステータスは確認している。あのスタンピード騒ぎがあったんだ、絶対称号変わってるでしょと思いながら画面を開けたところ、やっぱり案の定、称号は変化していた。
名前 山形公平 レベル30
称号 世界に気付かれ始めた人
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
称号 世界に気付かれ始めた人
解説 凍った刻の歯車が、風に押されて回り始めた
効果 半径1km内のダンジョンの場所を感知できる
《称号『世界に気付かれ始めた人』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……風は光を纏い、勇気と慈愛を持って、世界のために輝きました。人々はついに、あなたを知ったのです》
もはや恒例となった音声アナウンスを聞きながらも、俺は昨日、リーベから聞いた話を思い返し、システムさんについて考えていた。
大いなる存在様、とリーベ言うところのシステムさん。その正体はまるで知れたもんじゃないが、ひとまず窮地な俺にスキルを渡してくれたり、称号の解説欄で励ましてくれたりしてるあたりから、そう悪いものでもないんだろうなってのは思う。
そう、思うんだけど。
スキル
名称 誰もが安らげる世界のために
解説 力を振るうことに価値があるとすればそれは、愛しき隣人を守り抜くことだと信じたい
効果 絶対に負けてはならない戦いの時、戦闘能力が最大1000倍まで上昇
このスキルとか、ねえ〜。
いくら本来なら探査者に与えられることのないスキルだからって、このヤケクソみたいな倍率は、ね〜。
「《絶対に負けてはならない戦いの時、戦闘能力が最大1000倍まで上昇》……なんともはや。あまりに常識外れで、もう笑うしかありませんね」
「なんか、すみません」
「何を仰るやら。山形さんのお陰もあって、我々はスタンピードという危機的局面を無事、乗り越えることができたのですよ」
俺のスキル《誰もが安らげる世界のために》の詳細を、組合専属のスキル《鑑定》持ちスタッフに見てもらって確認した広瀬さんの、乾いた笑顔が印象的だ。
無理もない、倍率の桁がマジで2つ違うもの。なんだよ1000倍って、怖ぁ……小学生の考えたスキルかよ。こんなのもし、《鑑定》なしで口頭のみで伝えたって、信じてもらえるわけがない話だ。
そう、信じられないだろう。
アドミニストレータとオペレータという区分とか。ダンジョンを管理する存在と、スキルを引き出すコマンドプロンプトとか。ああ何なら精霊知能たるリーベだってそうさ。
いきなり俺がその辺のことを伝えたって、信じてもらえるわけがない。俺を無条件で信頼してる御堂さんくらいのものか。
そういう理由もあり、俺はスキル《誰もが安らげる世界のために》の正体が、本来探査者のためにあるものではない、ダンジョンを管理するアドミニストレータ専用に作られたスキルなのだとは、未だ誰にも打ち明けていなかった。
唯一、御堂さんにだけは言おうか迷ったけど……彼女は俺が言うならたぶん、何でも全部信じてくれる。そんな人だからこそ、逆にいい加減なことを言いたくなかった。
信頼に付け込む真似に思えるし、何でも信じてくれる人だからこそ、迂闊に何でもかんでも、又聞きに過ぎない情報を提供することは憚られるのだ。
せめて、リーベの話に裏付けが取れたなら。もしくは又聞きでない、リーベ本人の口から、説明することができたなら。
それが一番、俺にできる動きとしては慎重で丁寧なように思うのだ。
『そもそも伝える必要がないと、かわいいかわいいリーベちゃんは思いますけどねー? 前にも言いましたけどこの辺りの知識なんて、知ったところでオペレータ側には何をできるわけでもありませんよ』
リーベが脳内で言ってくる。こいつ、すっかり何かに付けて俺の頭の中でぼそぼそ呟くようになってしまった。素っ頓狂なことも言ったりするので、思わず表立った反応をしてしまわないか心配になる。
……何もできなかったとしても。知ること、知っておくことは知らないままでいるより良いと、俺は思うんだけどな。
『知は力なり、ですか? むむむ、難しいところですねー。いらぬ誤解と反発を招くだけにも思えますし、かといって実際、リーベちゃんが実体化した後、それでも何も言わないっていうのも不誠実といえば不誠実ではありますし。むむむー! むー! むむー!』
むーむー言うのを止めなさい! 頭に響くでしょ、リアルに!
唸るリーベに抗議しながらも、内心では安堵する──思いの外、彼女は真面目に、俺たち探査者サイドにどういう姿勢で接するべきかを悩んでくれている。
教えない方が良いというのも、知ることが必ずしも人間のためになるか分からないから、ということなのだろう。
けれど知らせることができる状況で知らせないことも、それはそれで不誠実に思えている。
なんともまあ、感情あふれる精霊知能だことである。