攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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誇らしきシェン・フェイリン

 危うく伝道を開始しかけた香苗さんをどうにか押し留め、俺たちは組合本部施設を出て、件のA級ダンジョンへと向かう。

 山形家からもまぁまぁ近い、小高い丘だけど名称としては山として扱われる、そんな場所にそのダンジョンはあるらしかった。

 

 電車で最寄り駅まで行って、そこから歩いて30分。

 ちょっと気合いの入った散歩みたいなもんで、探査前の準備運動にはちょうどいいのかもしれない。

 

「そう言えば香苗さん、S級に昇級されるって聞きましたよ。本当におめでとうございます」

 

 歩き道、香苗さんに話しかける。

 昼、リーベから聞かされた香苗さんの昇級。日本国内11人目のS級探査者の誕生というのは、彼女の友人として大変喜ばしくも誇らしいニュースだ。

 

「自分のことより嬉しいですよ、なんか。香苗さんのこれまでが評価されて、日本どころか世界で最高峰の探査者の一人として、認められたんですから」

「公平くん……ありがとうございます。ええ、たしかに来月、S級に昇級するとの連絡をいただきました」

 

 俺の言葉にきょとんとしながらも、すぐにじんわり、柔らかく笑う香苗さん。さしもの彼女もS級の仲間入りというのは嬉しいようで、隠しきれない喜びがその表情には浮かんでいる。

 ともに歩くアンジェさんも、俺たちの話に入ってきた。

 

「永らくA級トップランカーとして不動のポジションにいた"虹の架け橋"御堂香苗もついにS級かぁ……! ま、さすがに婆ちゃんの域はまだまだ遠いでしょうけどね!」

「それはそうでしょう、彼女はS級でも最上層ですよ。私など、A級に毛が生えた程度のものでしかありません」

「いやいやいやいや」

 

 謙遜か本心かしらないけど、とんでもないことを言い出す香苗さんに思わずツッコむ。

 本人がどう思うにせよ、御堂香苗という探査者の実力は、すでにA級探査者という枠組みには収まらない領域に達している。ともにドラゴンと戦ったり最終決戦に参加したりと、この3ヶ月彼女をすぐ近くで見てきたのだ。よーくわかってるよ。

 

「《光魔導》の虹は俺から見てもすさまじいですよ。たしかに近接戦闘ではマリーさん、遠距離戦闘ではベナウィさんに軍配が上がると思いますけど、それ以外の場面だと香苗さんも決して引けは取ってないと思います」

「ミッチーも案外、自己評価低めですよねー……大丈夫! リーベちゃんが保証しますよー。決戦スキル持ちは全員、トータルで見ればさほど差はありません。リンリン含め、全員同格ですよー」

「そ、そうなのですか? 他ならぬお二人の評ですから、まず間違いないものとは思いますが」

 

 俺とリーベの太鼓判に、香苗さんが珍しく頬を赤らめて照れている。ふふふ、立場逆転だな……たまには褒め殺しされて複雑な気持ちになってみるといい!

 と、そこでランレイさんが声を上げた。おずおずと、しかしハッキリとした言葉で俺に聞いてくる。

 

「あ、あの……け、決戦スキルって、救世技法のこと、ですか……?」

「救世技法って、たしかリンちゃんがそんなふうに言ってましたね。ええ、それのことです。シェン一族にはそっちのがとおりがいいのかな、ヴァール」

「カーンにはしっかりと、決戦スキルとも伝えていたんだがなあ……どこかの代で、そちらの呼び方が定着したようだ」

 

 やはり100年近くも代を重ねると、初期の呼び名なんてものは連想ゲームよろしく形を変えていくか。そうでなくとも決戦スキルなんて単語、アドミニストレータが現れない限りソフィアさんとヴァールくらいしか仔細を知らないだろうしね。

 ともあれ、俺が肯定するとランレイさんは盛大に目を見開いた。目を丸くするアンジェさんを横目に、微かに震えながら呟く。

 

「リン、S級の人たちと肩を並べたんだね……星界拳正統継承者として、救世技法を継承して一族の悲願を果たしたって言ってたけど。そんなにまで頑張ったんだね、ほんとに」

「ランレイ?」

「あんな小さな子が、そんなになるまで頑張ったんだ……あの子は私たちの、一族の誇りだよ……!」

 

 瞳を潤ませる、彼女の歓喜と感動が俺にもよくわかる。

 シェン・フェイリン。最終決戦参加メンバーの中では最年少の彼女は、しかし年齢に見合わない一族の悲願、すなわち決戦スキルの継承と邪悪なる思念の打倒という重すぎる使命を背負っていた。

 そんな重責にも負けず、みごと未来を勝ち取った彼女は、たしかにランレイさんだけでなくシェン一族が誇るべき、最高の星界拳士なんだろうな。

 

 俯いて、少し泣いているのかな。そんなランレイさんの背中をアンジェさんが撫で擦る。マリーさんを祖母に持つ彼女としても、他人事じゃない感覚なのかもしれない。

 少し湿っぽい空気。夏の青空をしかし、吹き飛ばすようにリーベが明るく言った。

 

「話を戻して恐縮ですけどー、ミッチーのS級昇級祝いとか、なんかパーティーをしたりするんですかー?」

「え、と? まあ、パーティーというよりは承認式のような形ですが一応、首都で行うみたいですよ。他の、国内のS級探査者との顔合わせの場も設けていただいてるみたいです」

「でもその後にパーティーするんでしょー? いいなー、美味しいものいっぱいなんでしょうねー、いいなー!」

「食うことしか頭にないのかお前……」

 

 場を明るくする目的もあるんだろうが、そのテンションでパーティーに過剰に反応するのは単なる食いしん坊のやっかみにしかなってないぞ。

 というかアルマみたいで反応に困る。何? 俺の脳内に住み着くとご飯のことしか考えられなくなるの? 文字通り頭の中が食うことしかないの?

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