攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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なんの変哲もない山形公平

 歩き続けること30分と少し、ようやくと俺たちは小高い丘の上、目的地のダンジョンに辿り着いた。

 野原の真ん中に穴が空いている。人もまばらで、普段はあまり人目につかないダンジョンだろうけど……どこにあったって危なくて迷惑なことには変わりないしな。さっさと攻略していこうか。

 

「一階層を概ね20から30分で踏破すると考えて、踏破までに5時間といったところか。帰りはワタシのスキルで一気に帰還するため考えなくていいが、終わりは夜になる。構わないな?」

「ああ、家族にも遅くなるかもってメールはしてるよ」

 

 昼からやるにしては若干長めの探査だが、俺とヴァールとリーベの三人が空間転移系の能力なりスキルなり持ってるからな。帰りは気にしなくていい分、ちょっと遅くなってもカバーはできるという寸法だ。

 空間転移について半信半疑のアンジェさんが聞いてくる。思えば祝勝会の時、この人の前で転移はしてなかったな、俺も。

 

「空間転移ねえ……信じないわけじゃないけど、鵜呑みにもできないわよね。そんなスキル聞いたこともないし」

「そ、そうだねアンジェちゃん。隔てた空間を一瞬で移動するって、すごい……」

 

 ランレイさんもにわかには信じられない様子だ。無理もない、空間転移系はオペレータには与えられないスキルの一つだからな。

 コマンドプロンプト的には、いやそれくらい渡せばいいじゃんって思ったりするんだが。ワールドプロセッサや精霊知能はまた、違う見解を持っているみたいだ。リーベが語った。

 

「時間や空間に関わるスキルは基本、探査者に渡されることはありませんよ。ダンジョン外でも使えるのがほとんどですから、悪用されちゃいますからねー」

「悪用?」

「平たく言えば犯罪関係だな。タイムラグなしにあちこちに出没できるなど、偽装し放題だからな」

「ああ……推理小説ならバッシングものですね。実は犯人にはワープ能力がありました、などと」

 

 香苗さんが得心して言う。そうか、アリバイとか関係なくなるのか、転移系スキルを持つと。そんな発想してなかったから気づかなかったな。

 となると、時間関係のスキルも当然アウトか。まあ、《タイムストップ》とか《セーブアンドロード》、《早送り》や《巻き戻し》みたいな因果すら操る壊れスキルばっかりだし仕方ないよな。

 

「そもそも時空間操作は因果律に関しての知見とノウハウがなければ絶対に使用できん。それもあり、探査者には獲得不可能なスキルということだ、アンジェリーナ」

「因果律……?」

「…………そのへんはこの方に聞け。世界の誰より詳しいお方だ、なにしろ因果律管理機構だからな」

「丸投げぇ!?」

 

 面倒くさくなってきたのか、ヴァールは俺の肩を叩いて全部任せようとしてきやがった! 嘘だろこいつ、それでも精霊知能か!?

 思わず唖然として見ると、気まずそうに、しかし頑なに明後日を向いている。リーベを見るとこっちも、香苗さんとなにやら話している。いや、そんな雑な投げ方するなら最初から詳しく話そうとするなよ!

 

「因果律管理、ねえ? こないだのパーティーのあと、婆ちゃんから色々聞いたけど、いまいちよく分かんなかったわ」

「で、でしょうね……無駄にややこしいですから」

「でもあんたやヴァールさん、リーベがなんか、探査者や大ダンジョン時代の成り立ちに深く関わってる精霊みたいなモノってくらいには理解してる」

「わ、わ、私も……り、リンからある程度は聞いてます、けど……あわわ、か、神様……ありがたやありがたや」

「やめてくださいおねがいします、僕はただのどこにでもいる山形公平です」

 

 手を合わして拝み始めた、ランレイさんを本気で止める。

 ああ、狂信者が目をカッと見開いて彼女を凝視してるよぉ。今からダンジョン探査だからすぐじゃないだろうけど、これは終了次第伝道が始まりますね怖ぁ……

 にわかに震える俺に首を傾げて、まあそれはともかくとアンジェさんが不敵に笑った。

 

「まっ! 難しい話は苦手だし、因果云々ってのはどうでもいいわ。重要なのは、あんたが私に、限界突破の切欠をくれるかどうかってこと」

「ええと……マリーさんからは、少し伸び悩んでらっしゃると聞いてますね、たしかに」

「そのとおり。まったく困ったもんよ、普通に戦ってても違和感がずっとあるの。なんか違うな? って感じで」

 

 朗らかに笑いながらも困ったように眉を下げている、彼女はどうやら、本気でスランプのような状態に陥っているみたいだ。

 なんか違うなって感じは、俺にもよーく覚えがある。初めて潜ったダンジョンで、剣を持って戦った時に感じた致命的なしっくりこない感覚だ。

 

 俺の場合はすぐに称号《武器はあなたに似合わない》によって素手で行け、素手でやれというシステムさんこと、ワールドプロセッサの意図に沿うことができた。

 けれどアンジェさんの場合はそういう答え合わせとかがない分、本当にどうしたらいいかわからないのだろう。

 

「わ、私も……最近、壁に当たってる感じなんです。こ、ここを超えたらきっと、もっと強くなれるのにって、もどかしくて」

「あ、それ私も! いやー、あともうちょっとな気はするんだけどねー。なんかピースが足りてない感じなのよ、これが」

「なるほど……」

 

 ランレイさんも似たようなものらしいし、お二人とも穏やかでもどこか苦しげだ。あともう少しで壁を超えられそうだけど、そのあともう少しがどうしてもわからないもどかしさを感じている。

 

 これは、ちょっと本腰入れて何かできることをしたいなと、今更だが思う。

 マリーさんやリンちゃんに頼まれたからではなく、俺自身の意志でアンジェリーナさんとランレイさんの力になりたい。そう思ったのだ。

 

「あの。お二方、実は俺《鑑定》に近いスキルを持ってるんですけど……一度お二人のステータスを確認させてもらって、いいですか?」

 

 それゆえの俺の提案に、二人はキョトンとしつつも頷いた。

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