攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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どっちが本性でshow!

 最初の部屋からいきなりの大盤振る舞いだったものの、結果から言えば10分そこらで蠢くモンスターの群れは軒並み、消滅していた。

 アンジェリーナ・フランソワとシェン・ランレイの、A級探査者としての実力の高さがさっそく示された形だ。これでもまだほんの一端というのだから凄まじい。

 俺はすっかり感心して、彼女らを讃えた。

 

「お疲れさまです。すごいですねお二人とも……あの量、たとえ一体ずつは雑魚でも群れればかなりのものでしょうに」

「あはは、ありがとー。なんのこれしき! A級ダンジョンには割とよくある戦いだもの、身体ほぐしにはちょうどよかったわ」

 

 スタンピードかよってくらいに勢いのあったアンデッド軍団を、なんの問題もなく一刀のもとに下したアンジェさんが、あっけらかんと朗らかに笑う。

 戦闘中は狂気すら垣間見せていたが、今はいつもの快活で明るい姿に戻っている。日常と非日常と、スイッチするように切り替え分けているのかもしれない。

 そのギャップこそが逆に、彼女のプロフェッショナルとしての力量の高さを物語っているように、俺には思えた。

 

「えへ、えへへへ。ひ、久しぶりに人と一緒に戦った……楽しいなあ、えへえへ」

「そ、そうですか。それは、なによりです」

 

 そしてもう一人、ランレイさんも頬をだらしないくらい緩めて笑っている。こちらも、戦闘時とはまったく異なる姿だ。

 正直、彼女のほうはスイッチの切り替えとかいう話ですらないんだよなあ。完全に人格が変わっていた。仮に自己暗示とかで戦意を高揚させていたとしても、あんな極端なことには早々、ならないと思う。

 香苗さんがおずおずと尋ねた。

 

「あの……ランレイさん。戦闘時のあの、叫びっぷりは一体」

「ぴぃっ!? すすすすみませんイキっちゃってごめんなさいああああんな調子乗った姿あわあわあわあわ」

「ストップ! 話が進みません、今はこちらの話を聞いてください。あれは何か、暗示なり催眠なりを自分にかけた結果なのですか?」

「ふぇ?」

 

 すっかり元の、言い方が悪いかもしれないが挙動不審な姿を見せるランレイさんに、そろそろ面倒と感じたのか香苗さんはピシャリと告げた。

 やはり彼女も俺同様、なんらかの自己暗示の線を疑ったみたいだ。いや、疑うって言い方もよくないけれど。戦闘時における精神統一なんてのは誰しもやることで、ランレイさんはそれによる影響が大きいってだけなのかもしれないし。

 

 あるいは普段の様子こそが演技というか擬態で、何かしらの意図を持って周囲にすら己の実態を誤認させようとしている線もあるだろうけど……そんな狡猾さは見て取れないしなあ。

 それにそのへん疑い出すと、ランレイさんのすべてに疑念を懐きかねなくなるし。あんまりそういうことは考えたくないのが本音だ。

 

 香苗さんの出した虹、プリズムコール・ソーラーレイの暖かな光がダンジョンを隈なく照らす、視界の開けた部屋の真ん中で。

 質問を受けてランレイさんは、恐る恐るも首を横に振った。

 

「あ、あのぅ……あ、暗示とか催眠なんて、や、やり方わかりません……む、昔から戦いになると、す、すんなり言いたいことが言えたりするのは、ありますぅ……」

「ランレイとは前にも何度か、一緒にダンジョン探査したことがあるけどさ。その手のことをしてるところは見たことないわねー。でも毎回、あんな感じになってるのは間違いないわよ」

「そうですか。ふむ……」

 

 やはり前からの知り合いでもあったらしい、アンジェさんのフォローも受けて香苗さんは考え込んだ。あの豹変ぶりはかなり衝撃的なものではあったし、興味深いものとして彼女の目には映るんだろう。

 仮になんらか、マインドフルネスめいた所作を以て意図的にあれだけの変化を引き起こせるのなら。かなり革命的というか、色んな場面で有用悪用問わず利用できてしまう技術であることには間違いないな。

 

「どちらかと言えば、戦闘時のお姿こそが本当のシェン・ランレイさんなのかもしれませんねー。ああ普段が猫被ってるとかでなくー、この手の豹変って、その人の地が出てるパターンも大いにありますしー」

 

 リーベが推測する。なるほど、ランレイさんの普段の姿は社交用のもので、それを取っ払った本音の彼女はむしろ、戦闘時のあの姿なのかもしれない、という話か。

 ぶっちゃけあり得る。というか、リンちゃんもその気があるしな。あの子も平時はポワポワしてるというか、おしゃれ好きでちょっと天然気味な愛らしい女の子だけど、戦闘になると星界拳正統継承者らしい容赦ない立ち振る舞いの戦士に早変わりする。

 

 いわばリンちゃんの平時を、挙動不審にした姿が姉のランレイさんなのかもしれない。

 そんな仮説を受けて、ヴァールも応えて言った。

 

「言いたいことが言える、とのことだからな。平時の姿は後天的に身についた処世的人格だが、戦時になるとそれが取り払われ、本来の凶暴かつ好戦的なランレイに立ち戻ると。そちらのほうが可能性としてはあるように思えるか」

「凶暴……好戦的……そ、そんなにですかぁ……?」

「いやランレイ、そこは言われてもしかたないわよー」

 

 あることないこと言われ放題で、ついにランレイさんが涙目で呟く。まあ、うん。悪い気はするけどそんなにでしたよ。

 苦笑いのアンジェさんに慰められる、その姿からは想像もできないくらい、さっきの彼女は猛々しかったからなあ。

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