攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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すごいよ!!マリーさん

 戦闘終了後。すぐに下階へは降りずにその場で、アンジェさんの戦いぶりを振り返る。

 俺と香苗さん、ヴァールにリーベであれこれとコメントし合う形だな。いや、メインは香苗さんとヴァールだな。俺とリーベは合いの手を入れているに近い。

 

 頭打ちしてるとか壁にぶち当たってるとか、本人や身内は言っているけど、正直どこが? って感じなのが俺とリーベだ。あんだけ戦えりゃいいじゃんって思っちゃって、どこが足りないかとかが具体的には思いつかないのだ。

 

「全距離いけて、パワーもスピードもテクニックも高水準。ちょっと、何をどうアドバイスすればこれ以上に強くなるのかってのは……パッとは思いつかないなあ」

「公平さんに同じくー」

「あはは、べた褒めどーも、ありがとー!」

 

 俺たちの賛辞に照れつつも、満面の笑みでピースするアンジェさん。この人、めちゃくちゃ愛嬌があるんだよな……戦闘時の獰猛さはともかく、平時はとにかく朗らかで笑顔たっぷりだ。

 誰からも好かれるってこういう人のことを言うんだろうな。向日葵のような、太陽のような女の人。それがアンジェリーナ・フランソワという人らしかった。

 ヴァールがわずかに目を細め、どこか嬉しげに言う。

 

「うむ……素晴らしい実力だな、アンジェリーナ。かつての幼子が、こうしてワタシの目から見ても頼りになる、素晴らしい探査者になってくれた。マリアベールの時もそうだが、人間の成長というものの偉大さを感じるよ」

「あ、ありがとうございます! でも……お婆ちゃんも、ですか?」

「ああ。一応彼女とは、70年来の付き合いだからな。右も左も分からない頃から知っているさ」

 

 昔を懐かしむ遠い目。150年を生きる彼女は、ソフィアさんともども大ダンジョン時代の生き字引そのものだ。マリーさんに限らず香苗さんの曽祖父、将太さんとも知り合いだったらしいし、あらゆる世代のトップ層と親交があったんだろう。

 肩をすくめ、続ける。

 

「小生意気な娘で、いつも先輩探査者に食ってかかっては呆れられていたものだ。プライドが高いといえば聞こえはいいが、単なるワガママ娘だったよ」

「えぇ……? あのマリーさんが?」

「ああ。間違ってもアンジェリーナのように陽気で穏やかで、誰とでも絆を結ぶことができるような素晴らしい人間性でなかったのは間違いない」

 

 意外と言うか、そんなに? そこまで言う? って感じの話だ。

 たしかにマリーさん、昔は相当暴れてたんだろうなってのはたまに見え隠れする言動の荒さからも推測していたことだ。リーベやワールドプロセッサに説教かました時とか、最終決戦の時とかね。

 

 それを踏まえてもなお、俺にとってあの人が探査者の中の探査者であることは変わりない。人格一つとっても穏やかで優しさと厳しさを兼ね備えた最高の人徳者だ。

 初めて会った2ヶ月前から今に至るまで変わることのない、心の底から尊敬できる偉大な先人。そこは間違いない。

 

 だからそんな人がデビューしたての頃、目上の人にも平気で噛みつくワガママ者だったんだよと言われてもちょっとイメージできないってのが本音だな。

 アンジェさんも、いやアンジェさんこそそんな思いが強いみたいだ。唖然として聞き返している。

 

「お、お婆ちゃんがそんなふうだったんですか!?」

「さすがに20代そこそこになる頃には、分別も弁えてきたが……本格的に今のように落ち着き出したのは30代後半だ。ちょうど結婚と娘、つまりはお前の母であるエレオノールの妊娠を機に一度、探査業を休業したあたりだな」

「たしかにお婆ちゃん、子育てに専念するからって5年くらい、探査者辞めてたって聞いてはいたけど……そこが契機だったんだ」

 

 孫にあたるアンジェさんも初耳の話。そうか、マリーさんも何年かだけブランクがあるんだな。

 

 探査者しながらの育児は今でこそ、支援制度が充実してるし専用の保育所もある。基本は内勤に異動する人が多いけど、やっぱり現役で前線にいたい! って人もいるから、そうした人に向けてのサポートやフォローも手厚い印象だ。

 だけどマリーさんが子育てしていた当時は今や半世紀近く前だから、その手の制度も整ってなかったみたいだし、休業しかなかったんだろうね。

 

「子を成し、家庭を持つというのがああも人を変えるのかと、復帰直後のマリアベールを見た時にはひっくり返るかと思ったものだ。元はあの狼藉者が、ここまで大人しくなるものか、とな」

「へぁー……人に歴史あり、なんですねー」

 

 リーベが感心して呟く。香苗さんやランレイさんも、興味深げに耳を傾けていた。

 当たり前だが80年という月日の長さと、変わりゆく人間の心についてを思い知った気分だ。誰しも、時の流れの中で成長し変化し、時に進化したりして完成していくものなんだろう。

 そしてそれは、きっと人間に限らずすべての命あるものに与えられた、魂の持つ力なのだ。

 

『………………ふん』

 

 面白くないと、脳内のアルマが不貞腐れた吐息を漏らす。

 こいつにとっては認めがたいことなんだろうな。今はまだ、だけど。

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