【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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狭いSNSとかいう矛盾した言葉

 ラミネート加工された一枚のシート。そこに書かれていたのは、分かりやすく箇条書きで区別された、各級探査者が受けられるサービスの一覧だった。

 著作権フリーのイラストをふんだんに使用していて逆に目が滑るのがいかにも手作りっぽい。

 これ、まさか広瀬さんが?

 

「ええ、まあ……こういうのを作るのが好きなので、仕事にも活かせないかとサンプル程度にですが」

「見たことがないレイアウトですね……わかりやすいですがどこか、探査者向けにしては軽いと言いますか」

「そうなんですよ。広報にもそこを理由にハネられましてね……まったく彼らの方がよほど、SNSなんかでははっちゃけていると言うのに、もう」

 

 何やらぶつくさ、思うところがあるみたいで広報担当への文句を小さく呟いている。いやまあ、組織内で配布する資料と外部に向けて発信するSNSとでは、求められるキャラクターとかも違うと思いますし……

 あんまりその辺は触れないでおこう。繊細な気配がする。

 御堂さんもそこは感じ取ったのか、そうですかと素っ気なく返してそれで終わりだ。

 

 とにかく、広瀬さん特製のシートを読む。なんか色々書いてあるけどこういうのは、とりあえず読みたい部分にだけ着目できればそれでいいんだ。ええと?

 

「E級探査者の、受けられるサービス……その一、ダンジョン探査用アイテム売場で選べる品数が増加」

「武器、防具とそれに備品関係ですね。F級の時より高性能のものが手に入ります」

 

 組合本部のすぐ横に、探査者専用の店がある。ダンジョン探査に必要な武器、防具を揃えていたり、備品を取り扱っていたりするところだ。

 そこの品物は探査者の等級ごとに買える範囲が決まっていて、E級になると、F級で買えるものよりグレードアップしたものを買うことができるとのことだった。

 

 素手で戦うことを運命付けられている俺にとって、武器は縁遠いものだが、防具と備品の品数が増えるのはたしかに嬉しい。

 特に備品だよ。F級ダンジョン用の備品って、言っちゃなんだが普通なんだ。なのに高給取りの探査者に向けてか、値段がべらぼうに高いもんだから、そこらのワークショップなりホームセンターなりで、代用品を用意した方が結果的に得したりする。

 

 市販品で代用できてしまうくらいに、F級ダンジョンが危険の少ない、安全なところだってことを逆に表しているのかもしれないけど……一番安い探査用の安全靴一足に10000円はないだろ。あれ、同じようなのがワークショップで1980円で売ってたぞ。

 ボるのも大概にしてくれと言いたい。

 

「その二。探査者専用のSNSへの参加が可能に」

「これは……まあ、気が向いたらで構いませんよ。どちらかと言えば利用者も少ないですし」

「そうなんですか?」

 

 いわゆる学校ごとのネット掲示板みたいなものだろう。別に、そこまで他の探査者と関わりたいわけではないから利用するかは考えものだけど。

 御堂さんのどうにも歯切れの悪い言葉が気になって問いかけると、なんとも残念な答えが返ってきた。

 

「国内で10万人しかいない界隈でSNSなど、いくら匿名でもちょっとした自慢話一つで即、身元を特定されかねません。レアスキルや称号が絡むとなれば余計にですね。ネットリテラシーのある者は大体、閲覧に留めていますよ」

「一応、今の時代に即したサービスを構築したはずなんですけどね……いやはや若者文化は難しいものです」

「な、なるほど」

 

 それ、俺とか割とアウトなやつじゃん?

 匿名といっても俺の場合、先日のシャイニング山形で目立ちすぎている。全国区であの光り輝く俺を見上げる人々という、宗教画みたいな光景が取り沙汰されたのだ。

 おそらくなんだけど既に、このSNSとやらでも俺の話はされてたりするんだろう。そんなところに誰が書き込めるか。閲覧するだけでも怖くてできそうにないよ。

 

「気にしない人は気にせず書き込んでいますから、他の探査者の業務スタイルなどを知りたい場合の、一助くらいにはなるとは思いますよ。そこはもう、公平くん次第ですね」

「まあ、一回は覗いてみます」

「是非そうしてください。せっかく用意したシステムがろくに利用されないのは、インフラを整えた側からすると残念なものですので」

 

 広瀬さんの、どこか哀愁漂う発言に愛想笑いを浮かべつつ。 

 俺は、項目の三つ目を見た。

 

「えー、その三……これが最後ですか。組合内でのサークル活動に参加ができる? サークル?」

「あー、それはどちらかと言えば成人向けの内容でしょうね。探査業、特にダンジョンを踏破する外勤組は命懸けな代わりに自由時間や待機時間が多いんですよ」

「プライベートで何か趣味がある方は良いのですが……特に趣味もない、やることのない人というのも一定数いますので。そうした方々に向けての、一種のレクリエーションですね」

「なるほど……」

 

 何か、大人って色々、大変なんだな……

 俺は今のところ、やりたいことしかないような状態だからこういう、サークル活動ってのには入らないと思うけど。

 そのうち学校を卒業したら、お世話になることもあるのかなあ。

 結構先のことになるけど、将来に思いを馳せちゃう俺だった。


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